「吐き気がするほどくだらない」
「気分が悪い」
「最悪」
「淫売」
「消えて」
「死ねばいいのに」
「イチ様に近づくなんて身の程知らず」
「醜い豚」
人の悪意に酔ってしまう。私が望んだことでもないのに、なぜ悪意を向けられなければならない。少しの諦念と少しの怒りが心の中で燻る。
イチ様が望むようにふるまっているだけなのに。
「マリ、おいで」
イチ様は私を呼んだ。奴隷のようにはした金で買いたたかれた私は大人しくいうことを聞くしかない。
「どうなされましたか」
「ただマリと近くにいたかっただけ」
優しく微笑んでいるように見えるが、目は笑っていない。
イチ様の特性は、自分の周りの取り巻きで遊ぶことだ。私は可愛いネコで遊ぶための玩具。多少、傷がついても彼は構いはしないし、いくらでも取り換えがきくおもちゃ。私の心がずたずたに切り裂かれる様子を見ることをむしろ望んでいるきらいさえある。ためらいもなく、「くたびれたほうが愛着が湧くだろう」なんてことを言うだろう。
「黙っていないで、もう少しこちらに寄りなさい。せっかくきれいな服を着ているのだから」
望むままに一歩距離を詰める。イチ様の甘い香りがふわりとかおる。毒のように甘い、誰かを死に至らしめんとする香りだ。
「もうそろそろ帰ろうか」
来たばかりなのに、家に帰りたがるのはただ今日は面白いことがないだろうという彼の勘によるものだろう。