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ヒロイン、落ち込む



 それにしても、である。

 思い出したのはあのヒロインの事だ。

 リルちゃんとの混浴……げふんげふん……入浴後、渡り廊下を歩きながら頭を抱えたくなる。

 あのヒロイン……記憶がある。

 間違いなく、ある!

 実際「このゲームのヒロインは私!」と宣言していた。馬鹿なのかしら?

 あ、ああいや、客観的に見て、あんなにも……あんなにも——!


「あんなにも、痛かったなんて——っ!」


 柱に思わず寄りかかってしまう。

 頭を抱えた、ついに。

 我慢が出来なかったのだ。

 ローゼンリーゼのあの発言、あの台詞……!

 ……実は覚えがある。

 前作の悪役令嬢、アンリミリアにわたしはまったく同じ言葉を叩きつけた事があるのだ。

 そう、まったく同じ言葉。


『わたしがこのゲームのヒロインなのよ! 悪役令嬢なら悪役令嬢らしくハンカチを咥えて地団駄を踏んでいなさいよ!』


 …………などと……申しましてからに……。


「ぐっううううううううううっ!」


 い、痛い痛い痛い痛い〜!

 なんて痛い子だったんだわたしぃ!

 あの頃の自分をはっ倒してやりたい痛々しさ!

 これは痛い! 痛すぎる!

 何様だお前ええぇ!

 大した努力もせず、ろくなマナーも覚えず、相手の都合も考えず、その日その時イベントが起きるからと待ち伏せして王子たちに絡みついていた、完全にヤバイ子なわたし!

 クッソ、マジ始末してええぇっ!

 たかがヒロインという立場でなんであんなアホな真似が堂々と出来たのか、今思うと信じられない!

 死にたい死にたい死にたい!

 誰かあの日のわたしを右ストレートでぶん殴ってくれえええぇっ!

 多分それでも目が覚めたとは思えないけどもおおおぉっ!


「は、はぁ、はぁ、はぁ……」


 い、いけない。

 いくら人通りも少ない時間とはいえ、ここは往来の渡り廊下。

 頭を抱えて転げ回ったり、柱を殴り続けたり、頭を柱に連打していたらさすがにヤバイ人だと思われる。

 くっ、ヤバイ子なのは今でも否定しきれないけれど、そのヤバさは方向性が違うので遠慮したい!


「…………とにかく、向こうとわたしの利害は一致してる」


 うん。

 わたしは当て馬にならなくて済むならなりたくない。

 向こうもわたしに王様たちの攻略を邪魔して欲しくない。

 利害は一致してるわね。

 ならば、当初の予定通り極力関わらなければいい。

 なんとなく、わたしが当て馬になりにいかなくても勝手に自滅しそうなヒロインではあるけれど……仮にも留学生に選ばれる程度にはちゃんと努力してきたのだろうから、きっとわたしとは違うんだろう。きっと。


「うん、忘れよう!」


 ……少し心配なのは、続編には明確なバトル要素とラスボスがいる点だ。

 シナリオでスルーっと流されはするけれど、その最終イベントに続編ヒロイン、ローゼンリーゼは攻略対象と共に挑まなければならなかったハズ!

 でも、まあ……ここが続編の世界だと知っているなら、わたしが心配する必要はないでしょう。

 若干……若干ゲームを知っているのなら「なぜ序盤でクロエ様の執務室に突撃した?」……と思わないでもないけれど……。

 ゲームの世界だと気づいて、本当に目の前に攻略対象が現れたらテンション上がりすぎちゃった、とか、そういう気持ちはよく分かるし……うん。

 多分きっとそういう感じよね?

 あれが続くならクロエ様には同情しちゃうけど。


「…………」


 クロエ様の執務室に……。

 じゃあ、ローゼンリーゼはクロエ様狙いなのかな。

 確かにクロエ様はパッケージにデカデカ描かれていた、公式の推しだけど……あんな押せ押せじゃ、クロエ様は落ちないわよ! へっ!


「…………っ!」


 あれ?

 わたし、なんで……なんでクロエ様がヒロインに落ちない、ってはしゃいでるの?

 クロエ様は続編の攻略対象なんだから、ヒロインと幸せになった方が………………、……あ、れ?


 ——嫌だ。


 なぜ?

 なんで?

 考えただけでものすごく嫌だ。

 これなに? なんで?

 わたしは、続編ではただの当て馬なのに……。


「っ!」


 渡り廊下を走り出す。

 大丈夫、もう人通りなんてほとんどない。

 ぶつかったら謝ればいい。

 今はただ走りたいんだもん。

 ああ、なんで……なんでだろう。

 クロエ様は続編の攻略対象。

 わたしは前作のヒロインで、続編では当て馬!

 たとえヒロインと攻略対象が結ばれなかったとしても、わたしが攻略対象と結ばれる事はない。

 結末さえ描かれる事もなく……消える。

 なら、わたしはその誰も知らない結末に『宝石祝福師』としてこの国で幸せに暮らしました、めでたしめでたしと自分にとっての幸せなエンディングを描けばいいのだ。

 そう、それでわたしは幸せになれる。

 カボチャの作業場。

 城の中で、わたしだけの場所。

 玄関を開けて、自室に駆け込み、ベッドにダイブした。

 手に持っていたタオルの入った籠は床に転がる。


「…………なんなの……」


 クロエ様が、盗られる。

 そんな風に思った。

 馬鹿じゃないの、わたし、全然変わってないんじゃないの?


「はあ」


 うつ伏せから仰向けになる。

 カボチャがえぐられた天井。

 今更だけど、なんでこの建物カボチャなんだろう?

 乾燥して、カピカピになってる壁に触れてみる。

 まあ、過ごす分には問題はないんだけど……。


「カピカピ……」


 カビないのかな。

 変なの……。


「…………なんかわたしみたいだな……」


 まあ、それでもいい。

 わたしは攻略対象たちに愛してもらえなかったヒロイン。

 このままこのカボチャの建物の中で……仕事を生きがいに生きていくんだ。


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