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もう一回勝負して!

「優人! もう一回勝負して!」


「またかよ。何度やっても同じだっての!」


 そうやって麗子は何度負けても僕に勝負を挑んできた。よほど僕に勝てないのが悔しかったのだろう。しかし、格闘ゲームも、パズルゲームも、音楽ゲームも、何をやっても僕が圧勝した。


「くううう! もう一回! 次こそ本番!」


「はいはい、また返り討ちにしてあげますよ~っと」


「うっさい! あんたには絶対に負けないんだからね!」


 麗子は元々負けず嫌いな性格だったが、僕に対してはそれが更に顕著だった。僕にだけは負けるのが許せないようだった。

 理由は分かっている。僕は子供の頃は背の順で毎年先頭に立つぐらいのチビで、逆に麗子は一番後ろが定位置だった。同学年でありながら、その身長差は十五センチ。並んで立つと、姉弟と間違われる事もあった。僕はスポーツも勉強もからっきしで、文字通り麗子に見下されていたのだ。

 ある日、僕がゲーセンで一人で遊んでいると、たまたま麗子とその友達数人が店内に入ってきて、僕とバッタリ出くわした。

 麗子は文武両道で、ゲームにも自信があるようで、僕にも当然勝てると思っていたようだ。自信満々で僕に勝負を挑んできた。

 対戦したゲームは、今は六作目まで出ているマイティファイター2だ。僕の使用キャラはリンリン。麗子の使用キャラは、愛花と同じゼロスだった。

 結果はお察し。日頃馬鹿にされていた恨みもあってか、僕はこれでもかというぐらいに、麗子のゼロスをボッコボコにしてやった。それ以来、麗子は僕の通うゲーセンにしょっちゅう通うようになり、その度に僕に返り討ちにあっていたのだ。

 中学は別々になってしまい、その時のゲーセンも潰れてしまい、会う事はなくなった。結局僕は、一度たりとも麗子には負けなかった。

 当時は、全勝無敗という結果に妙な優越感と達成感でいっぱいになり、そしてようやく鬱陶しいのがいなくなって清々したと思った。でも、すぐに寂しさが押し寄せてきた。

 僕はその時初めて気付いたのだ。麗子とゲームで遊ぶのが、とても楽しかった事を。麗子の事が、好きだった事を。



 どうしても勝ちたい相手がいる……か。この愛花も、その時の麗子と同じような気持ちなのだろうか。僕は愛花を麗子と重ね合わせ、何でか分からないけれど応援したい気持ちになった。何より、こんな真剣な目でお願いされてきっぱり断れるほど、僕は情のない人間ではない。


「分かった、いいよ。昼休みの間だけだけどね」


「ありがとうございます。あの、お金は毎回私が出しますので、宜しくお願いします」


「いや、流石にそれはいいって! 小学生にお金出させて遊べるわけないでしょ!」


 一緒にいるだけで通報されかねないのに、その上カツアゲまで疑われるなんて御免だ。それだけは断固としてお断りした。そうこうしている内に、時刻は十二時五十分となった。そろそろ会社に戻らないとまずい。


「じゃあ、とりあえず今日はおしまいね。本当にその気があるなら、またこの時間においで」


 僕はそれだけ言い残して、足早に店を出て会社へと戻っていった。

 何だか妙な事になったな……。でも、何だか弟子が出来たみたいでちょっとだけ嬉しい。よし、こうなったらとことんやってやる。あの愛花を一流のゲーマーにして、そのライバルに見事勝たせてあげよう。

 僕はペダルをこぐ足に、より一層力を入れて自転車を走らせた。




 翌日、昼休みにいつも通り駅前のゲーセンに向かった。愛花は来ているんだろうか? そんな事を思いながら僕は自動ドアをくぐった。


「師匠、待ってました」


「うわっ!」


 入り口でスタンバっていたようだ。物凄い気合の入りようだ。まあ、教え甲斐はあるけど……。両替機で小銭を補充しながら、僕は愛花に声をかけた。


「ところで、その相手とは何のゲームで勝負するの?」


「あいつはマイファイが得意なんで、それで勝負しようと思ってます」


 わざわざ相手の土俵に上がって勝負するのか……筋金入りの負けず嫌いだ。志は立派なものではあるが、僕にはちょっと理解できない。


「じゃあ、まずは僕が一人でプレイするから、隣に座って見てて。いろいろ解説しながらやるから」


「お願いします」


 僕は愛花に合わせてゼロスを選択した。リンリン以外のキャラでも、僕は充分に使いこなす事が出来る。

 まずは基本的なコンボ技から中級者向けのコンボ技まで、解説しながらゆっくりと見せていく。そしてキャラ毎の要注意技とその対策も教えながら勝ち進んでいく。その間愛花は、ずっと真剣な目で画面や僕の指の動きを凝視していた。


「凄い……あっさり全クリしちゃった」


「まあね。じゃあ次は対戦しようか。あっ、本気出せなんて言わないでよ。一方的にやられるだけじゃ練習にもならないから」


「分かってます。まずはあいつに勝たないと、師匠にはどうやったって勝てないですから」


 愛花はその瞳に闘志の炎を燃やしながら、向かい側の筐体に移った。一体どんな奴なんだろうな、その相手っていうのは。多分、本気でやり合って愛花が勝つまで、付きまとわれるんだろうな。僕はちょっとだけその相手に同情し、それと同時に羨ましく思った。

 いや、待てよ? さっきの台詞、よくよく意味を考えてみると、その相手を倒したら次は僕に勝つまで挑んでくるという意味なのでは……。何とも複雑な心境だ。

 何試合かしてから、時計をチラリと見た。もうじき昼休みが終わる。


「愛花ちゃん、そろそろ戻らないと」


「もう一試合だけ! もう一試合だけお願いします! もう少しで何か掴めそうなんです!」


 ……また課長に怒られるの決定だな。僕は溜め息をつき、苦笑いしながら百円玉を筐体に入れた。

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