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大切な人  作者:
3/8

第三章 市川仁那

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 何よ。何なのよ。あいつ、話が違うじゃない!

「どうしてよ!あんたが持っている刀を落とせば、朝里は出てこれるんじゃなかったの!?」

 目の前の女は、あたしが必死にそう訴えるのを、あざ笑うかのように見下ろしている。

「あの子は出て行ったわよ?あなたのお陰でね」

 女は訳のわからないことを言って笑った。

 不気味としか言いようがない。

「出て行った?朝里出て来てないじゃない!」

「出入り口はここだけじゃないのよ。もう一つのほうから出したにきまってるでしょ」

 尊大な口ぶりでそう言うと、大柄な女は、品の無い笑い方をした。

「ならあたしも帰るわ」

 この先は真っ直ぐ行かずに、左に行けばコンビニがあったはず。

 もう、信じられない。こんな場所、あたしは知らなかった。もう何年もこの土地に住んでいるっていうのに。

 あたしが踵を返すと同時に、ぐいと右手首を掴まれた。振り返ると、鼻をつき合わせるくらい近くに女の白い顔があった。

 赤く縁取られた、やけに大きな黒い目は、にんまりと笑っている。

 ゾッとして怯みながら、「何よ。もうゲームは終わったわ」と気丈に言ってみせる。

「そうね。貴女の負けで終わったわね」

 女はそれだけ言って、手に持った何かをあたしに見せた。

 それがなんなのか、理解するまでに少し時間がかかった。

 あたしは確かめるように、自分の胸を見下ろした。

「あたしの・・・し・・・」

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