第三章 市川仁那
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
何よ。何なのよ。あいつ、話が違うじゃない!
「どうしてよ!あんたが持っている刀を落とせば、朝里は出てこれるんじゃなかったの!?」
目の前の女は、あたしが必死にそう訴えるのを、あざ笑うかのように見下ろしている。
「あの子は出て行ったわよ?あなたのお陰でね」
女は訳のわからないことを言って笑った。
不気味としか言いようがない。
「出て行った?朝里出て来てないじゃない!」
「出入り口はここだけじゃないのよ。もう一つのほうから出したにきまってるでしょ」
尊大な口ぶりでそう言うと、大柄な女は、品の無い笑い方をした。
「ならあたしも帰るわ」
この先は真っ直ぐ行かずに、左に行けばコンビニがあったはず。
もう、信じられない。こんな場所、あたしは知らなかった。もう何年もこの土地に住んでいるっていうのに。
あたしが踵を返すと同時に、ぐいと右手首を掴まれた。振り返ると、鼻をつき合わせるくらい近くに女の白い顔があった。
赤く縁取られた、やけに大きな黒い目は、にんまりと笑っている。
ゾッとして怯みながら、「何よ。もうゲームは終わったわ」と気丈に言ってみせる。
「そうね。貴女の負けで終わったわね」
女はそれだけ言って、手に持った何かをあたしに見せた。
それがなんなのか、理解するまでに少し時間がかかった。
あたしは確かめるように、自分の胸を見下ろした。
「あたしの・・・し・・・」




