終わりの始まり
「おぉい、こっちに来いよ」
「今、馬車を運転中なんですよ。見ればわかるでしょ。それとメンナの殻を投げるのを止めて下さい。全部、避けてますよ」
「ナマイキになりやがって」
「プリ姉ぇ、僕に当たってるッス」
「お前はいい加減に避けろよ」
あのフゲン侯爵との対談より二年近くがたっていた。その間にハルモニアの王家は滅亡したがフゲン侯爵と侯爵が立ち上げた諸国連合は魔王軍と戦っていた。
戦いは熾烈を極め魔王軍が少しづつ押すような形になっていった。
「で、あたい達はどこに向かっているんだっけ」
この会話は何度目だったかな。少しはお酒を控えて欲しい。
「もうすぐ魔王の城に着きます。諸国連合とやりあってる隙間を縫って魔王の首を頂くんですよ」
「でも団長、僕達だけでは少なくないッスか。城の中も強いのがいると思うんでッス。」
「大丈夫よ、アラナ。 私達は強いのよ。自信を持って」
僕達、白百合団はフゲン侯爵と共に戦い殲滅旅団とも呼ばれ多大な功績から「勇者」とまで呼ばれるようになった。
「…………私達は勇者の一団」
クリスティンさんも昔に比べたら話す様になったね。これでもう少し笑顔が出せたら完璧なのに。
「強い者がいたほうがいいのである。強い者から強いゾンビが出来るのである」
変わらないあるね。 そんなにゾンビがいいのかね、ルフィナは。
「今回は最強の青騎士を用意しました~。わたしと青騎士が居れば魔王なんていちころです~」
いちころまでは行かないだろうけど、オリエッタが作った青騎士はかなりの戦力になると思いますよ。
「前から思ってたんだけどよ。何で団長の武器は大鎌なんだ?」
「それはオリエッタに聞いて下さい。作ってくれたのはオリエッタですから」
オリエッタが錬金術で作ってくれた武器は死神が持つような大きな鎌の形をして僕の理想とする物を作ってくれた。形以外は。
「それはルフィナがデザインしたんです~。命を取るなら大きな鎌がいいって~」
デザインはともかくとして、この大鎌はいい。魔導師ではない僕でも鎌自体が大気中のマナを吸い取り切れ味を上げてくれて刃の反対からマナを放出して大きな鎌の斬撃のスピードをあげてくれる。
「勇者が持つには少し不気味に見えるかと……」
確かにソフィアさんの言う通りですが僕としては気に入っているんですよね。
「何でこいつが勇者なんだよ。どうせ言うならヘタレ勇者だろ」
そうなんです。噂だけが一人歩きして僕が勇者になっているんです。功績の話は本当だし僕もプリシラさんと同じように大鎌をもって前線に出てるんです。
「でも、この前トロールを二匹倒したのは僕ですよ」
「……大きかった」
クリスティンさんフォローありがとう。フゲン侯爵との話の後から僕も戦い始めました。怖かったけど皆が助けてくれて、何とか生きてこれました。その結果が勇者と呼ばれる様になったのですが戦果の方は団員の中ではまだまだビリなんです。
「わかったよ。 それよりも団長、敵の大将の首を取った時の戦時団則はどうなるんだ?」
「どうって、いつも通りじゃないですか?」
「いつも通りって事はないだろ。大将だぞ。魔王だぞ! ハルモニア王家を滅ぼして、今だって諸国連合を苦しめてる親玉だぞ! それをいつも通りって事はないだろ」
いつもは敵の部隊長や将軍クラスの首を取ると「一日何でも出来る限りする券」を戦時団則にしていたけどそれだとダメなのか?
「それなら何がいいんですか?」
「…………■■」
「ん? 何ていいました?」
「結婚!って言ったんだ……」
結婚だと!?
「「「キャーッ!」」」
「魔王の首を取ったヤツと団長は結婚するんだ! 勇者ならとうぜんだろ。あたいと結婚したら一日中、可愛がってやるぜ」
勇者と魔王の首と分からない理屈ですがプリシラさんとなら一ヶ月で死ねる自信があります。
「……幸せになりましょう」
不幸体質のクリスティンさんと結婚して「不幸にも心臓発作」に耐えられるでしょうか?
「私が幸せにします」
ソフィアさんとなら幸せになれるでしょうか?他の女の子を見ただけでメテオストライクが飛んできそうです。
「団長をゾンビ化して永遠に私の物にするのである」
何もゾンビにしなくても生きてる間に幸せになる事を考えませんか、ルフィナ。
「僕は子供をいっぱい造りたいッス」
アラナはストレートでいいね。顔を赤くしてるのが可愛い。
「色んな実験をしたいなぁ~。団長ならそれに答えてくれそうだしなぁ~」
実験が怖いよ、オリエッタ。そのうち人造人間にされそうですよ。
これって僕のフラグなのかな? 勝っても負けても危険な感じがしますよ。
神様からチートをもらって話せる様になりこの世界で傭兵団の団長として生きてきて楽しい事も苦しい時もあったけど、ここで詰まれる訳には行きませんからね。
神様からはもう一つもらってる、生涯に一度だけ使えるチート。誰よりも早く動ける加速化のチート。
みんなには悪いけど、先に行って魔王の首は僕が頂いて来ますよ。
「加速全開!」
ミカエル・シンは異世界の地を魔王目掛けて駈って行った。
……ここは傭兵団です。最悪、最強で知られた白百合団と転生し勇者に昇格した団長のお話しです。
で、終わるはずでした。
僕は魔王の首を取りましたが魔王の剣を胸に受け、皆を待たずに死んだんです。 たぶん……
「いつまで死んだふりしてんの?」
「やっぱりわかりますよね~」
回りは白くどこまでも続くような、すぐに壁がある様な不思議な空間。
「神様を騙せる訳がないっしょ」
「ですよね~。 でも僕は死んだんですよね?」
「そうだよ。魔王にやられて死んだよ。もうちょっと面白い終わり方だったら良かったんだけどね」
面白い終わりってなに? 一応、頑張ったんですけど。
「頑張ればいい、って言い訳? 面白く楽しく生きた方がいいでしょ」
それが出来れば初めの人生でやってますよ。
「どう? もう一回やってみない? っ~か、やれ! このエンディングは面白くない」
何言ってるんだ、こいつ。面白いエンディングってなんだよ?!
「そんなの自分で考えてよ。何でも神様がやってくれると思ったら大間違いだよ」
「このまま死ぬのは? 少し考える時間は……」
「両方無し! 神様、暇じゃないから」
「それなら、せめてチート下さい。 異世界に来た人はもらえるじゃないですか」
「チートに頼るのって好きじゃないなぁ~」
「あの速さのチート、あれをいつでも使えるようにお願いします。速さのチートがあれば戦えるんです」
「どうしようかなぁ~。 楽しませてくれるのかな?」
「頑張ります」
「頑張るだけじゃダメね。白百合団と面白いエンディングを見せてね。……それじゃ行ってみようか。時間は君がゴブリンに追いかけられる前から……」
神様の声を最後まで聞けずに僕は意識を失った。