6、せっかくの異世界だから
「あとは本で調べればいいかな」
「あ、はい。読みたい本があればお言いつけください。取ってきます」
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「すみません、遅れました」
俺は豪勢な扉を開け、皆が座る広間に入った。
「お前、無能の分際で……!」
脇の方にいた、フィレリスさんより宝石の多いじゃらじゃらした女性が叱りつけんばかりに睨んでくる。
それをその隣にいたフィレリスさんに似た女性が止める。
「止めなさい、ナトラ。すいません、リクさん。あなたは突然連れてこられたうえに、無能などと蔑まれて大変だったのでしょう。ですが、ここは大勢のいる場。次回より集合などの時間は厳守して頂けますよう、お願いします (この無能がおくれてんじゃねえよ。次遅れたら承知しねえからな) 」
なんだ。言ってる事さほど変わらねえじゃんか。え、別にこれ被害妄想でもないよね? 実際こんな感じじゃない?
二人ともフィレリスさんより少し豪華な服を着ている。第一王女と第二王女だろうか。
そんなところに美少女の助け船が。
「申し訳ありません。遅れました」
後に続いて入ってきたのはさっきまで一緒にいたフィレリスさん。服装を少し変えているから、着替えの分俺より遅れたのだろう。
「フィリ姉様、何をなさっていたのですか?」
尋ねたのは先程ナトラと呼ばれていた女性。なんだ、お前第二王女じゃないのか。
「カヤセ様と共に図書室にいたのよ。ごめんね、カヤセ様は皆様のために学んでいたみたいなの。責めないであげて?」
「わ、分かりました……」
「まあ、全員揃ったのですし、後はギッズ、お願いします」
「はっ!」
俺達を案内した異世界人、もとい騎士団長が前に出る。
見渡しても空きの椅子が無いところを見ると、俺は立ち見のようだ。ひでえ…
「では、これからの君達の行動について話させてもらう! 私はこの国の騎士団長を勤めるギッズだ。君達は明日から訓練を受けてもらう。勿論強要はせん。戦闘に参加しない者の訓練は結構だ。明日朝9時に訓練場へ来てくれ」
「俺らは勇者として呼ばれたんだろ!? 訓練なんて必要あんのか?」
叫ぶ勝昭。いやあこのクラス馬鹿多いなぁ……
「勇者とは言え今の君達よりステータスの高い人間はそこそこいる。勇者とは成長してやっとその高い能力が見える物だ。それに、君達には圧倒的に経験が足りない。そのための訓練でもある」
わぉ。模範回答!
「後に隣国が攻めてくる。それが君達の初陣となる。最終的には龍人との戦いが我らの要求だ」
騎士団長は脇へと消えていった。そこに、先程の女性が出てくる。
「第一王女のセリティア・ニール・アニアです。第二王女は現在他国の夜会へ出席中ですが、我々4姉妹があなた方のお世話を仰せつかっております。以後、お見知りおきを。それでは! 本日はこの国最大の高級料理をご用意致しました故、存分にご賞味ください!」
そうして皆の元に豪華な料理が配られた。
俺はどうしろと…………?
「カヤセ様、少し来ていただけますか?」
俺の耳元で囁かれたのはフィレリスさんの声。俺は黙って彼女の背中に付いていく。
そういえば、拓人はどうしただろうか。俺以外に立っているクラスメイトがいなかった事を見ると、席に座っているか部屋から出てきていないか。
前者だと俺は遅刻を咎められていることになるから、恐らく後者だろうと思う。
フィレリスさんに連れられて歩くこと数十秒。俺達は長方形のテーブルと4つの椅子が並べてあるだけの端整な部屋に入った。テーブルには洋風の定食の様な物が置いてある。
「すいません。カヤセ様はここでこちらのお食事を食べて頂きます」
ああ、まあそうなるか。調べたとここの国そこそこ財政難みたいだからな
「イバライ様の〔罠士〕は、割と珍しい天職なので、国としては丁重に扱うようです。そのためカヤセ様1人このような場所で食事することになるのですが……やはりもう一度皆様と同じ場所で食べさせて頂けるよう頼んでみましょうか?」
「まあいいさ。拓人があっち側な事には驚いたけど、俺みたいな無能を匿ってくれるんだから文句なんか言ってられない」
「……カヤセ様、本当に無欲なのですね」
「無欲?」
「異世界に召喚されたのですよ? そのうえ非戦の天職で無能と蔑まれる。普通なら発狂か籠りますよ。なのに力を求めず他の人の為に知識を求めた。今だって無能だろうが召喚したのはこちら側なのです。別にもっといい条件を求めてもいいじゃないですか」
うーん……普通にやってると思ってたのになぁ……
力を求めなかったのは少なくとも拓人はチート化するだろうから。知識を求めたのはいつかこの城を出ても暮らせるようにするため。今の応答も今後に余裕があるからだ。
無論、そんなことは口にできない。だから頭をフル回転させて嘘にならない様に応えを絞り出した。
「自分の立場くらい分かってるさ。でもせっかくの異世界だよ? その立場の中で一番楽しめそうな道を選ぶのが俺なりのやり方だ」
「それでは、まともに食事できた方が楽しいと思います。食欲は生物の3大欲求の1つですし」
あれま、綺麗に言いくるめられたと思ったらまさかの反論が帰って来た。
それにしてもあれまってきょうび聞かねえな……
「いやいや、異世界なんだし過ごしているだけで初めは十分楽しい。それに………… いや、まあ多く集めようとすれば今あるものがこぼれそうでな」
この城にも長くはいられないと言いかけてとっさに止める。少し不審に思われただろうか、首を傾げはしたものの、そのまま続けてくれた。
「ですが……!」
「いいんだって。それにフィレリスさんも仕事があるでしょ? 早く戻りなよ。皆待ってると思う」
その後も数秒フィレリスさんは反論しようと眉をひそめていたが、やっといつもの笑顔に戻った。少し呆れが混じっているように感じるのは、気のせいということにしておこう。
「それでは、私は戻りますので。食器はアスタルテが取りに来ることになっているのでそのままで結構ですよ」
「ん。ありがとう」
フィレリスさんが出ていけば、俺は1人「いただきます」と夕飯を食べ始める。
もとの世界とあまり変わらない味を口に含みながら、この後拓人にする話を考えていた。
4話のタイトルを訂正しました。
「4、第二王女」→「4、第三王女」
よくみたら本文に第三王女って書いてあったんですよね。知らなかった。