11、バトる
「無理、破られるわ!」
アスタルテが叫んだところで、何かの割れる音と同時に、手足の生えた巨大なアンコウのようなモノが水面から跳ね上がってきた。
「デカイね……」
「これなら今の私でも……」
「アンコウってもっと沼じゃないか? 普通」
それぞれの意見を述べる。
鑑定しようと思ってステータスボードを取り出すが、何も書いてはいなかった。レベル不足だろうか。
そう考えたところでアスタルテの声が響いた。
「レッサーメガロドンよ! Lv68だから私一人でどうにかする! 二人は下がって!」
あー、アスタルテさんは鑑定できるんですね。あ、そう。別にふて腐れたりなんかしませんけど? ちょっと予想はしてましたよ。アスタルテさんはお強いですから?
というか、このデカさでレッサーかよ。レッサーでメガってどういうことですかねぇ。あとメガロドンってサメじゃないの? どう見てもアンコウなんだけど。
ま、このダンジョンのボスはメガロドンだろうな。分かっちゃうよね。
幸い(?)この階に留まる人はほとんどいないので、近くに人はいない。人の迷惑にもならないのでアスタルテには存分に暴れてもらおう。
「アスタルテ、参る!」
え、何そういうスタイル!?
意外に古風なアスタルテは、腰の刀を抜いて巨大アンコウ――レッサーなのに巨大だったりメガロドンなのにアンコウだったりするギャップに悩まされた結果の呼び名――に飛び込んでいった。
え、刀!?
この前刀ないって言ってませんでした? なんでアスタルテさんはその刀を持っているんですかねぇ。まあ後で聞こう。
「魔法器:ブライトフレア!」
なんで水の魔物に火系統の魔法? と思いながら炎を纏った刀(?)を降り下ろすアスタルテを見上げる。
巨大アンコウに当たる直前に、一見柔らかそうな水の障壁の邪魔が入る。
そう思ったのも束の間、段々と障壁が溶けていく。
「ああ、もしかしたら蒸発させるのが一番手っ取り早く障壁を破る方法なのかもね」
「へぇ……戦い慣れてんのな」
さすがに戦い方を熟知している、と感心しながら腕を組んでいると、隣の拓人から非難の声が上がった。
「なんでそんな上から目線なんだよ」
「……うるせ」
気を取り直してアスタルテを見ると、それなりに圧倒した戦いをしていた。
動きの鈍い巨大アンコウを刀(?)……もういいや、刀で斬りつける。気持ち悪いほどの速さだ。1秒に5連続くらいの斬撃。まあ見えてないから適当だけど。
あれ、焦る必要なかった? いや、俺そんな焦ってなかったわ。
そう思ったところでアスタルテに近づくゴブリンを見つけた。
「大陸、あれ……大陸!?」
拓人の声が聞こえる前に、俺は走り出していた。
アスタルテはゴブリンに気づいていない。かなり危険な状態だ。
ゴブリンは俺に気づいていない。好機。
全速力で走れば、魔物の中でもかなりの遅さを誇るゴブリンには余裕で追い付く。――余談だがゴブリンなどの小型モンスターのほとんどが中型より足が遅いらしい。ちょっとおもしろい話である――
なるべく音を立てないように剣を抜いて、ゴブリンの背後に回って止まる。初心者には動きながら正確な場所に刺すことが困難だからだ。堅実に、が俺のモットーである。今決めた。
流石に背後で急に止まった影があれば気づくというもの。ゴブリンはこちらに振り返ろうとする。
だが、遅い。
「らあああっ!」
俺はゴブリンの首筋に剣先を当ててから一気に貫いた。
「うしっ」
「バウンダリーエレクト!」
俺が軽くガッツポーズを挙げると同時に、アスタルテの魔法が辺りを照らした。
雷系の魔法他人の見せ場をなくせるのね (半ギレ)。覚えておこう。
「やったか……?」
おいおい拓人くんよ、それは言っちゃいけない台詞でしょうよ。
フラグ通りに巨大アンコウはピンピンに生きていて、アスタルテが俺らの方へ跳んできた。
「大陸、さっきはありがとうね」
「どういたしまして。そっちはどんなだ?」
「キツいわね。火力が足りない」
普通に戦っているぶんには完全にアスタルテが優勢に見えたけど、とどめを高火力で打たなきゃいけないとかがあるのだろうか。
そこで思った。ここでアスタルテが倒すよりも毒で倒れてくれる方が拓人のチートが早くなると。
「なあ、あいつに毒は効くかね?」
「まあ、物によるけど」
「それじゃあさ、一回アイツを湖に叩きつけてやってくれないか? そんでさっきの結界っぽい魔法使えば多分なんとかなる」
「え? まあ、わかったわ」
一度湖が少し緑っぽくなっていることを確認して、俺はそう言った
当然、という訳でもないが、アスタルテには毒の話をしていない。
彼女は不思議そうな顔をしながら跳んでいった。
「ぶっ飛べ!」
いや、刀の棟で叩くなよ。
間に合ったぜよ
いや~、多分次遅くなる気がするですよ
頑張るから。きっと。来週末に出すから。恐らく。