10、使えない奴のおかげで早く進みました! (半ギレ)
「だって疲れるじゃないか。大陸ならまだしも僕は生産職の手伝いだよ? 訓練なんてする必要がさほどないこと、やらない方が身のためだよ」
今度は頭を思いっきり叩く。
「るっせ。お前が何と言おうと戦闘訓練はやるぞ」
「え~、まあ大陸が言うならいいけど」
こいつの「大陸が言うなら」はいつもイラつくだけだったから、今ほど役に立ったことはない。
「で、リクはなんでそんなしたいのよ。タクトが言うことも正論だと思うけど?」
う~、まだ拓人の無双の話はしない方がいいよな。
「バカ、せっかく魔法スキルありの異世界だぞ? 楽しまなきゃ損以外のなんでもないだろう」
二人して目を細める。
何だよ。別に言えないことがあるからこう言っただけだろ。本心でもあるのは否めないけど。
「まあいいわよ。じゃあ今日は腕試しでもしましょうか」
数秒してアスタルテが魅力的な提案をしてくれる。
よし、これで誘導の手間が少し減ったぜ。
「それじゃあ実戦に行ってみないか?」
アスタルテが呆気にとられている。
「いや、行ってみないかとかいわれてもね」
「いいじゃないか。エアーズキャッスルの3,4階くらいまでなら余裕で俺ら守れるっしょ? 腕を見ることもできるし、俺らがどんな奴らと戦うことになるのかを身をもって知ることができる」
「う、えぇ、いやでも……」
俺が屁理屈を並べてみると、アスタルテが本気に考え込む。
「それに俺らもアスタルテの実力が知りたい。俺なんかとやっても何にもならないから、魔物蹴散らすアスタルテさんとか見てみたいですねぇ」
「あ、僕も見てみたい!」
するとアスタルテは俺らの目線に折れたのか、渋々了承してくれた。
「はぁ、いいわよ。しかたないわね……ただし、私の言ったことは絶対守ること。いいわね?」
「よっしゃ。じゃあ4階の湖を目指して出発だな」
「なんであんた、そんなこと知ってるのよ」
「昨日調べた」
「あ、そう。じゃあ準備してくるからちょっと待ってて。何かご希望の武器はおありで?」
「ん~、僕はなんでもいいから大陸に任せるよ」
そういえば武器の事を考えていなかった。
っつか拓人のこれは流石にだめだと思うんだが。
「俺は刀で。拓人はレイピアにしてくれ。ちょっと厚めの」
「レイピアはわかったわ。でも、カタナって何かしら? 聞いたことないのだけれど」
嘘だろ。
日本人たるもの武器は刀であろうものが。まあいいや。
「じゃあ普通に剣でいいや。ついでに短剣も使わせてくれると助かる」
「了解。30分程度で戻って来るわね」
「おうよろしく」
アスタルテが出ていくと、拓人がきいてきた。
「ねえ、どうしてレイピア?」
「ん? 適当」
-・-・-・-・-・-・-
思ったより早くついた。
俺がなんか剣を振れたのと、アスタルテが予想外に強かったからだ。しっかりテンプレしてくれてますねぇ。
「なんか早く着いたわね。昼食は2階くらいで食べるつもりでいたから結構予想外よ」
安全地帯と呼ばれる部屋でサンドイッチの入ったバスケットを開くアスタルテ。
次元倉庫的な何かからとりだしても何も言わないところからして、拓人も異世界の雰囲気に流されつつあるのだろう。
さて、なぜこんなにも彼女の考えが外れたか説明しよう。
俺が案外剣を振れたことは先にも述べたが、そんなことでは非戦職なのでさほど変わらないのだ。
大きな理由は、拓人の戦闘能力が絶望的だったということだろう。逆じゃないかって?
拓人が敵陣に突っ込む
↓
絶望的に戦えない
↓
ピンチになる
↓
アスタルテが助けに入って魔物を倒す
↓
戦闘が終わる
そりゃあ早く進めるわ。
アスタルテさん超強いんだもの。実質ほとんどアスタルテが戦ってるんだもの。
「レイピアが合わないのかもしれないわ。帰ったら色々試してみましょう」
まあ恐らく武器なんて使わないんですけどね。
それでも疲れきっている拓人を見て俺は言う。
「まずは基礎トレな。絶望的な運動神経もそうだけど、圧倒的に体力がない」
「冷酷な奴め」とか言ってる拓人を無視して俺はアスタルテと相談する。
「とりあえず湖まで行ったら往復30分くらいか。降りて同じだけかかるとして、3時にはつくじゃねえか。早いな」
「そうね。でも帰りはタクトを下げてリク中心に戦うから少し時間は増えるわよ。だとしても夕食に間に合わないと思ってたから、予想よりは早い帰りでしょうけど」
「ま、あれほど駄目とは俺も思わなかった」
「いや、反射神経はいい方よ。特訓すれば強くなれる」
案外アスタルテの評価は低くないらしい。
お世辞でも、俺の非道な言葉を受けてからじゃ救いの言葉か。
「え、夕食に間に合わないって、それどうするんだ?」
「タクト自慢の料理の腕を見せてもらおうと」
「あいつ料理上手かったか?」
「あなたの腕よ」
なんでだよ。まあ、それなりに料理はしていたが。拓人が自慢することじゃないだろう。
「ま、帰れるのならそれでいいけどさ」
「そういえば、なんで湖なの? このままかえっても良さそうだけど」
「ま、やりたいことがあってね」
エアーズキャッスルの4階は、比較的魔物の少ないフロアとされている。
中心に湖があり、その正面に人形の魔物がいる。湖から離れたところに魔物の巣が大量にあり、その他はまばらにちょっとだけいるというだけだ。一定の時間になると水を飲みに、又は浴びにこの湖に魔物があつまるといった仕様。
俺が考えたのは圭一先生に貰った毒草を、その湖に投げ込むという罠だ。昨日植物図鑑を見たら葉一枚で1ML程度汚染できるみたいだ。なんでそんなモン城周辺に生えてんだよ、恐ろしい。
ってことで魔物に会うことなく湖にたどり着いた。
「拓人これ投げろ」
俺は拓人に毒草の入った瓶を投げる。
「なんで僕が? というかこれ何?」
「昨日話したろ。毒草。お前が投げないとお前の罠にならない」
「毒投げただけで罠になるの?」
「なっお前毒水っつったら罠の基本だろ」
「あ、そう」
俺と拓人でそこそこ不穏な会話をしていると、アスタルテが入ってくる。
「気を付けてよ。ここの水人は誰も飲まないけど、奥に巨大モンスターがいるって話だから」
湖に毒草投げ込むことに注意しようよ。
「じゃあ行くよ~。ていっ」
拓人が瓶を投げ、アスタルテが「それじゃ」と帰路につこうとしたその時、地が揺れた。
「何よこれ、地震?」
数秒後、水面に二つの光が映ったところで自分の失態に気づいた。
「そうか、瓶だ!」
「ウィンドカバー!」
恐らく投げた瓶が底にいた魔物に触れたのだろう。それだけで出てくるってどんだけ短気だよ。
もうちょっと柔らかい紙などに包んで投げれば良かったと嘆いてももう遅い。
アスタルテの張った結界のような魔法が水面を覆い、魔物が出てくるのを防いでいるが、その結界もヒビがはいりつつある。
「無理、破られるわ!」
その声とともに結界が割れ、巨大なナマズが姿を表した。
戦闘描写から逃げました。
先日PVの意味を知って見てみたらユニークが1000越えてました!
ありがとうございます!