9、勇者達の訓練
「それでは、各訓練のメンバーを言い渡す!」
朝9時とかいう早い時間帯(遅刻常習犯視点)に集められたかと思えば、別に分かりきったことを言い渡されるらしい。どうせ「テラスで干からびて死ぬ訓練」とか言われるだろ。やだよそんなの。
「まずは上位職。奥井咲月、風見駿、紫叶、星光輝、岸谷汐里は騎士団戦闘部隊と合同訓練とする。ここに残っていてくれ」
上位職とは、普通職、剣士や魔術師をレベルカンストさせる(Lv.100)となれる職業で、レベル上限がない。極稀に、2,30年に一人くらいの確率で生まれた時から天職が上位職の人が生まれる事がある、と本に書いてあったので、それこそ召喚者が特別である証拠だろう。
岸谷汐里は、テストで咲月、叶、俺、駿、鈴羽に次ぐ6位。運動じゃ駿、咲月、龍哉、勝昭、光輝に続く上位。読書家であまり人と会話をせず、なんでもそこそこそつなくこなす、メガネで三つ編みの美少女だ。先述のとおり微妙になんでもできるのでとてつもなく影が薄い。結界士の上位職、風壁術師らしい。
「天職が魔術系の者は魔術部隊の方へ、近接武器を扱う者は騎士団の方へ行ってくれ。それ以外の者、自分がどこへ行けば良いか分からない者は俺の所に来い」
ぞろぞろと約30人が動き出す。
それに乗って動きだそうとした拓人を見つけたので肩を叩いて止めておく。
「俺らがまともに訓練を受けられるはずねえだろ。ちょっと待ってろ」
「そっか……でも、待ってどうするの?」
「アスタルテに聞く。多分あいつが俺らのスケジュールを知ってるだろうからな」
「そう。じゃあ早くアスタルテさんのところに行かないの?」
「それこそバカだろ。ここに居なきゃ、なんで来なかったこのクズとか言われんのがオチだ。だからといって誰かにどこに行けばいいか聞くのもナシだぞ。応えはそうだな、没落貴族とでも訓練してろってとこだろうよ」
話し終えてから気づく。俺が「没落貴族」と言ったあたりから拓人の表情が強張っていた。
そういえば、俺が図書館に行っている間で二人は少し仲良くなったらしい。後にアスタルテに聞いた話じゃ拓人は大抵俺の事を話していたらしくて、ホモと疑われたのはまた別の話。
「使用人って大抵がそこそこの貴族とかお金持ちらしいから、奴隷に対する扱いが悪いんだ。まあ仕方ないっちゃ仕方ないだろうよ」
「…………」
わざとからかうように言ったのは慣れてもらう為だ。友人を悪く言われるのなら、最初は知らない誰かよりも見知った俺の方がまだ冷静で居られると思っての言動だ。
うつむいたままの拓人と無言のままに居ると、やがて俺達の存在などないかのように上位職のと騎士団の訓練が始まろうとしていた。
「拓、戻るぞ」
「あぁ…………」
どの騎士も俺達を見ないのを確認したあと、拓人に声をかけると従順についてきた。
叶がこちらを心配そうに、他の奴らも物珍しそうに見ていたが、咲月はこちらを窺うそぶりさえみせなかった。
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「アスタルテ~、今日の予定は?」
尋ねながら扉を開けると、アスタルテが部屋を掃除していた。
「なんでここにいるのよ。今は騎士団の方で話を聞いているところだったはずよね? それに予定は騎士団の方から入れられるはずよ?」
「ん? あの人ら反応がないからアスタルテが知ってるかなって。それに昨日こうなるって言った気がするぞ」
「あぁ、そんな事言ってたかもね。本当になるとは思ってなかったけど」
「ま、そうなるとあの王様は君たちに訓練を受けさせる気がないのね。そうなら今日は何もないわよ。明日からリクは座学が、タクトは生産職の手伝いが始まるわ。もしだったら私が訓練をつけてもいいけれど」
そう言われて拓人は考え込む。
基本こいつは即断即決。口を挟む必要はないだろう。
「よし。疲れるからやめよう」
殴った。タイムラグなく。
なんとはなしにネット小説大賞五に応募してみました。
期間中にチート化したいので、今城にいる描写を削っています。
嘘です。繋ぎをかく文才がなかっただけです。