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1.四年ぶりの再会

「ウォルド・マクスウェル様がお見えになりました。東屋でお待ちです」


 侍女のメアリーが知らせに来た。ウォルドと最後に会ったのは騎士になるために宮廷に行くのを見送った時だから四年前。会いたいと手紙を送っても、忙しいと断られずっと会ってもらえなかった。それならと私から会いに行こうと宮廷の騎士の詰め所に押しかけても門前払いされて一目見ることすらかなわなかった。今日会いに行くと手紙をもらって今は午後の四時で西日が傾き始めている。久々に声が聞けると思うと、いてもたってもいられず気付けば息を切らせて全力で走っていた。

 東屋の柱に黒いマントを羽織った茶髪の青年がもたれているのを見つける。記憶にある四年前の小さな少年の姿と似た面立ちのその青年は腕を組んで物思いに耽っていた。会えた嬉しさに満たされた心に微かな暗雲が立ち込めてくる。なぜか初めて見るはずのウォルドの制服姿に既視感を覚えて、居心地が悪く胸騒ぎがする。


「……ウォルド?」


 灰色の目がこちらを見る。けれど目が合う前に逸らされてしまった。

ウォルドが素っ気ないのは元からだけど久しぶりの再会なのだから、もっと喜んでもいいのにという不満が湧いてくる。一人だけ喜ぶのが悔しくて淡々とした物言いを意識する。


「お久しぶりね。一瞬誰だか分からなかったわ」

「ロクサーナか。久しぶりだな」

「声も随分低くなったのね。背も高くなってなんだかウォルドじゃないみたい」


 かっこよくなったとは恥ずかしくて口が裂けても言えないけど心の底からそう思った。

 東屋を出て少し歩く。ウォルドは全然こちらを向いてくれない。黒が基調となった制服の銀の装飾ボタンが西日を反射する。この制服を着ているウォルドを見るとどうしても心がざわつく。


「それ魔法学校の制服よね? もう着ているの?」

「殿下の護衛に任命されて他の護衛と打ち合わせしに学校に行っていた」

「すごいじゃない。殿下の護衛なんて。卒業したらきっと近衛騎士ね」


しばらく歩いているとバラの植え込みのある道を抜けて開けた場所に出た。


「ここ覚えている? 昔ここで一緒に剣や魔法を練習したわよね」


 社交界期間中で王都に来ていた時はこのグレンヴィル家の別邸で一緒に過ごしていた。


「俺は一度もお前に勝てなかったが」

「魔法を使用した模擬戦はね。でもそれも今となっては敵わないでしょうね」

「どうだかな。剣技のみなら俺が勝つだろうが、魔法使用ありだったら分からない。魔法のみなら惨敗だろう」

「そんなことないわ」

 

ずっとそっぽを向いたまま話続けていたウォルドがこちらを向いた。けれど視線は下を向いたままで私を見ていない。


「大事な話がある」


 ウォルドと私は成人した15歳。この国は18から22歳の間に結婚する者が多い。魔力保持者は三年制の学園を卒業したら結婚するのが慣習化している。少し気が早い気がするけれどプロポーズだろうか。私はもちろん受ける気でいる。


「婚約破棄したい」


 何を言われたのか分からなかった。黙っているともう一度同じ言葉を言われた。


「婚約破棄をされた令嬢が世間からどんな目で見られるか分かって言っているの?」

「結婚適齢期から外れていないし、第一お前は魔力量にも恵まれているから引手数多だろう。おまけに武術の才能もあるしな」


 ウォルドはまたそっぽを向いて私を置いて歩いて行ってしまう。


 「情けない話だが俺はお前が怖い。お前を見るとどうすれば勝てるのかシミュレーションばかりしている」


追いかけたいのに足が動かない。


「騎士の訓練を受けて身体を鍛えればその恐怖も消えると思っていた。だがまだ勝てる気すらしない」


 力が抜けて座り込んでしまう。けれどウォルドは振り返らない。


「どうしても愛せる気がしないんだ。学園でいい相手を見つけてくれ」


 ウォルドはそのまま私を置いて行ってしまった。


「私が何をしたっていうの」


 魔法を教えあったり、一緒に剣を練習したり、楽しかったじゃない。気付けば辺りはすっかり暗くなっていた。

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