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第8話 「特訓」

 



「……っ。…………お、おはようございます」


 目がさめて一番に飛び込んできたのは、鼻息がかかる距離まで近づけられた蓮城先生の顔だった。


「いまは、夜だぞ」


「あははは……」


「まったく……。世話の焼ける奴だ」


「あで⁉︎」


 コツンッ、と蓮城先生に額を軽く小突かれる。

 時計を見れば、この間と同じくして午後八時のようだ。


 ……迂闊だった。

 暮葉の小太刀による神経毒はダメージが大きすぎて、一撃でも受ければ即気絶の極悪能力だったことを完全に忘れていた。

 忘れてさえいなければ、暮葉との戦闘は避けていたというのに。


 今度から暮葉には木製の小太刀を使ってもらい、練習に付き合ってもらうとしよう。


「カップ麺。味噌と塩、どっちがいい?」


「塩がいいです」


「オッケー。君は味噌ね」


「どこがオッケーなんですか⁈」


 塩味が食べたいのなら、最初からそう言ってくれればいいじゃないですか。それともなんですか。俺をからかってるんですか?


「君をからかってるのさ」


 意地悪そうな微笑みを、蓮城先生は浮かべる。


「勘弁してくださいよ」


「まあ、それはそれとして。頑張るのはいいけれど、あまり無茶はしてくれるなよ」」


「すみません……」


 と、ここで三分経過を知らせるタイマーが鳴る。

 それはそうと、最近、夕飯がカップ麺ばかりになっている気がする。少し食生活を見直した方がいいかもしれない。

 ひとまず、保健室の女医の意見を聞いておかねばならないだろう。


「俺、家でもカップ麺なんですよ。食生活を見直した方がいいですかね?」


「別に大丈夫でしょ」


 即答だった。


「あまり努力しすぎても身体に悪いからな。食べる物くらい、好きに選びな」


「蓮城先生がそう言うのなら、そうします」




 蓮城先生にカップ麺を奪われるなどのハプニングがありながらも、会話に華を咲かせながら三十分程度で夕飯をすませたあと、俺はこの間と同じバスに乗り帰路に着いた。


 次の公式試合は、二ヶ月先。

 それまでに、できるだけの努力を積み重ねて試合にのぞまねばならない。焦る必要はないが、焦って損もない。


 それなら俺は、少しでも速く、彼女のいる場所にまで辿り着きたい。そして、彼女に説教されなくてすむ男になって、ちゃんと彼女と戦いたい。


 次の日からは、暮葉に攻撃の回避の練習に付き合ってもらおう。

 これからも、香夏に早朝ランニングを手伝ってもらおう。

 いつも通り、蓮城先生にアドバイスをしてもらおう。


 誰かに手伝ってもらって努力していることを忘れずに、明日の俺は今日の俺より強くなる為の努力をしよう。


 この手を届かせたいんだ。

 エリスティアさんがいる、遥か高みへと。




 ◆◇◆◇◆




 とある日の昼休み。

 俺と暮葉は中庭にいた。


「本当にいいの?」


「大丈夫だ。おもいっきりやってくれ。そりゃあもう、日頃の鬱憤を晴らすようにだ」


 手を抜くことがないよう、そう念をおす。

 暮葉の手に握られているのは、俺が通販で買った木製の小太刀。

 何を隠そう、今から俺の回避の特訓を開始する。


「本気でいくから。後悔しないでよね」


「後悔なんてするかよ」


 その言葉を皮切りに、小太刀を構えた暮葉が俺におそいかかってくる。ここは肉体ダメージが、仮想ダメージに変換される場所ではない。攻撃をくらえば、それなりに痛い。


 だが、それでいい。

 成功の鍵は、恐怖心を煽って回避の成功率を高めることにある。


 暮葉の初撃は、俺の腹部を狙っての刺突。

 俺はその攻撃を、まずは余裕を持って躱す。

 初めから、ギリギリまで引きつけて躱すなんてことは無理難題だったんだ。最初は余裕を持って躱し、徐々に攻撃を引きつけていけばいい。


「どんどんいくよ!」


 暮葉の二撃目は、左から右への強薙。

 俺はそれをバックステップで避ける。

 直後に三撃目。鳩尾への刺突。

 身体を大きく翻し、それを間一髪で避ける。


 こんな感じの容量で、特訓を続けること二十分。

 その頃には、絶え間ない攻撃を続ける暮葉と、それを避け続ける俺は疲れ始めていた。この特訓は、俺が攻撃を受けたら終了となる。

 その為、こうして特訓を続けているわけだ。


「ああ、もう疲れたぁー!甘いのが……食べたい……っ! 食べたいっ! 食べたいっ!」


 その声と共に、暮葉の剣戟が勢いを増していき、剣筋はデタラメになる。どうやって繰り出しているのかわからない、不規則な剣筋。

 剣筋が、読めない。


「ひっ……!」


 木製の小太刀が、頬を掠めた。


「も、もう終わりにしよう! 頬に掠ったから、終了! それに授業始まるし、もう終わりにしよう!」


「あ、そう? それなら終わりにしようか」


 と、我に返ったように、暮葉は小太刀を収めて俺に渡して返す。


「それじゃあ、甘いの食べに行こうよ!」


「……へ? 午後の授業はどうすんだ?」


「まあ、一日くらいサボってもいいよね。普段、私は超優良生徒なんだし。それに、彼方がサボるのは、当たり前みたいなものだしね」


「俺が授業をバックれるのが、あたかも共通認識みたいに言うのはやめてくれない⁈」


 まあ、共通認識でもいいけどさ。

 それに、暮葉には普段から特訓相手になってもらっているんだ。一緒に甘いのを食べるくらい、快く了解しよう。


 とすれば、香夏と蓮城先生へのお礼も、考えておかなければならないわけで。さて、忙しくなるな。


「はやく行こうよ、彼方!」


「そんなに急がなくても、スイーツは逃げないっての」


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