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第24話「努力」

 


『高等科二年、夢岬 彼方。至急、私的トレーニングルームに来なさい。繰り返します…………』


 暮葉と回避のトレーニング中、俺は放送で呼び出された。

 赤桐君か?

 いや、他にも権利を行使しているやつは沢山いる。まさか、赤桐君じゃあるまい。仕方なく俺は、暮葉に手伝ってもらっている特訓を途中で終了させて、私的トレーニングルームに足早に向かった。

 ドアを開け、私的トレーニングルームの中に入る。

 そこで俺を待っていたのは、


「…………エリス⁉︎」


 部屋の奥の方にいるエリスは俺の存在に気がつくと、ニコニコ笑顔をで手をふってくる。

 それに応じて俺もニコニコ笑顔をで手を振りながら、エリスの方へと歩み寄った。


「なかなか面白い権利があるあったのでな、使わせてもらったぞ彼方」


 エリスがにっこり。


「あははは、面白いでしょ?」


 思わず俺もにっこり。


「そういえば、赤桐に喧嘩を売られたんだろう」


「なんでそれを?」


「ん? あいつ掲示板やら口頭で、決闘のこと学園の全生徒に発信してるぞ。きっと、決闘から逃げられないようにしたのだろうな」


「へー」


 まあ、今更周りから何を言われようが知ったことじゃないし、決闘はパスするとしよう。それこそ、エリスに決闘を受けろと言われない限りはな。


「それで、彼方は当然決闘するんだろ? だから、折角一週間の猶予があるから、私が稽古をつけてやろうと思ってな」


「…………え?」


 ナンテコッタイ。


「嫌か?」


「そ、そんなわけない! 嬉しいよ!」


「そうかそうか! なら、今日からみっちり稽古をつけてやるから、覚悟しろよ!」


 エリスは握手を求めているのか、右手を差し出してくる。

 この手をとってしまった瞬間、俺は決闘から逃げれない。

 そのことを十分理解した上で俺はエリスの手を、


「あんまり厳しいのは勘弁してくれ」


 握り返した。


「さぁ、早速特訓を始めるぞ」



 ◆◆



「んふぅっ!」


 こめかみに強い衝撃を受けて、頭部を後方に持ってかれバランスを崩し床に尻餅をついた。

 前方に見えるのは、二丁拳銃を上機嫌に構えているエリス。


「ほらほらどうした彼方! 銃弾を避けれないようじゃ、赤桐には勝てないぞ!」


「銃弾なんて、避けれるわけないだろ!」


「言い訳はあとにしろ! 次いくぞ!」


 再び二丁拳銃の銃口を俺に向け、躊躇なく引金をひく。

 避けることが出来ないと悟った俺は、


「……頼むよ、黒夜叉」


 仕方なく霊装を展開した。

 銃口から乾いた音と共に吐き出された銃弾は、黒夜叉の装甲に衝突すると甲高い金属音を響かせ、弾かれて彼方に消えた。


「おい、それでは特訓にならないではないか!」


「いやいや、生身で銃弾を避けるとか無理ですから」


「無理ではない! それだと私が人間ではないみたいではないか! あと、なんださっきの霊装を呼ぶ時の言葉は!」


「……え?」


「『頼むよ』とはなんだ! 自分の力なのに『頼むよ』だなんて他人行儀が過ぎる!」


「……そうかな?」


 そんなこと考えたこともなかった。黒夜叉は、俺を守ってくれる絶対的な鎧。だから、ずっと俺は黒夜叉に頼んできた。

 俺を守ってくれ、と。

 それに応えるように、今まで黒夜叉は俺を守ってきてくれた。


「だってさ、黒夜叉はいつも守ってくれてるし」


「それは違う! 彼方自身が、自分の力を使って自分を守ってきたんだ! お前のその力は、お前にとって他人なのか? 違うだろ!」


「……違うけどさぁ」


「なら、『頼むよ』より適した言葉がある筈だ」


「って言われても……」


「とにかく金輪際、『頼むよ』は禁止だ!」


「……わかったよエリス」


 エリスに強く言われて、仕方なく俺は頷いた。

 かっこつけるためにも早く別の言葉を見つけなくては。


「よし、それじゃあ今日はここまでにしとこう。明日も今日の時間帯に呼び出すから、ちゃんと来るんだぞ」


 時計を見れば、すでに午後の授業が終わっている時間帯。随分と長い間、エリスと稽古していたようだ。

 稽古の間エリスは終始楽しそうだった。稽古で苦しんでいる俺の顔がそんなに面白かったのだろうか。だとしたら、エリスはサディスト決定だ。とは言え、サディストなエリスは想像がつかない。


 可愛い服を着ることを恥じるような女の子だぞ、サディストなわけがない。終始楽しそうにしていたのは、きっと別の理由があると見ていいだろう。そうでなければ困る。

 なぜなら真実かは定かではないが、香夏のサディスト設定と被ってしまうからな。だから、できればエリスには俺と同じマゾヒストであってほしい。いや、でもそれだと、俺とエリスの相性はあまり宜しくないってことになってしまうわけで……。

 実に悩ましい。


「なにしてる、早く帰るぞ彼方」


 気がつけば、ドアの近くでエリスが俺を待っていた。


「ああ、そうだな」


 その場でぐっと背伸びをしてから俺はエリスのもとへと駆け寄り、二人で私的トレーニングルームから出た。部屋から出た俺とエリスは並んで廊下を歩く。

 廊下の窓から見える空は、綺麗な橙赤色に染まっていた。


「なぁ、エリスは俺が赤桐君に勝てると思うか?」


「それは、むずかしい質問だな。今現在、彼方と赤桐の実力の差は、努力すればどうこうなるものだとは思えない。だから、努力すれば絶対に勝てる、なんて言う無責任なことは言えない。でも、勝てる可能性はあると思ってる」


「……そうか」


 当然だ。

 どんなに努力をしたからって、他の奴らが今まで積み上げてきたものには到底及ばない。そもそも、俺は要領のいい奴、センスがある奴のどちらでもない。そんな奴が、今さら努力したところで追いつける筈がない。


「なーに難しい顔をしてるんだ。可能性はあると言ったじゃないか」


 コツンッと、額を指で弾かれる。


「限りなく〇パーセントに近いけどな」


「はぁ……、どうしてそうネガティヴに考える。その可能性を高める為に、努力するんじゃないか。たった少しの努力でも、人間は変化するものだぞ」


「いや、それは違うよエリス。人間は、そう簡単には変われたりしな…………」


「でも、彼方は変わった」


「……それは、周りが助けてくれるから………っっっ⁉︎ エ、エリス⁉︎」


 突然、エリスは両手を俺の背中に回して、力強くギュッと俺を抱き締めた。逃さないように、離してしまわないように、力強く。

 エリス特有の優しい香りと温かさで、緊張を通り超して、全てを委ねてしまいそうな不思議な安心感に包まれた。


「だったら私が助けてやる! 一人で努力できないのなら、私が隣で一緒に努力してやる! 彼方は私の、大切な友達だからな」


 エリスの声が胸に響く。

 二重の意味で、胸が締めつけられて苦しかった。


「…………ありがとうエリス」


 その時だった。

 エリスの肩越しに俺は、


「彼方?」


 困惑した表情を浮かべる暮葉の姿を見た。


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