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第23話 「決闘の申し出」

 

 本土に遊びに行った日から三日ほど経って、ネット通販で買っておいたメイド服が早朝に届いた。陸続きで無いから、時間がかかるのは仕方ない。速達でもないことだし。


 俺はメイド服を入れた鞄を肩に掛け、香夏とのランニングの待ち合わせ場所に向かう。珍しいことに、今日は香夏の方が先に待ち合わせ場所に到着していた。


「あれ? 先輩が荷物持ってるなんて珍しいですね」


「わけありでな」


 普段は、学園の保健室に着替えやら何やら置かせてもらっていたり、弁当は暮葉が作ってきてくれるしで、荷物を持ってランニングなんてことはなかったのだが、今日だけは致し方ない。


 ちなみに香夏の方も、着替えや教科書等は全て学園のロッカーにしまっている為、ランニングの時には荷物なんて持っていない。


「私が持ちましょうか?」


「申し出は嬉しいが、自分で持ってくよ。さて走り始めるとしようか」


「そうですね先輩。よーい、どん!」


 今日の二○キロランニングの時間が始まる。最近では、二○キロランニングが大変だと思わなくなってきた。それは俺の足と体力が鍛えられたということもあるが、何よりは並走してくれる香夏のおかげなのだろう。



 ◆◆



 昼休みがやってきた。

 まあ、俺にとっては毎時間が昼休みみたいなものだが。

 今は、いつも通り暮葉が作ってきてくれた弁当を食べている最中。


「というわけで、これを着てみてくれ。通販で買ったんだ」


 鞄からメイド服を取り出す。


「どういうわけよ! 嫌に決まってるでしょ!」


「そうか、なら後輩にでも着てもらうか。あいつこういうこと好きそうだし」


「え、こ、後輩って誰よ⁈ もしかして、遂に妄想と現実の区別がつかなくなっちゃった?」


「んなわけあるか! ランニング手伝ってくれてる子だよ」


 うーむ。暮葉なら二つ返事で了承してくれると思っていたんだけれど、現実はギャルゲーほど甘くはないようだ。きっと香夏なら面白がって着てくれるだろうし、家に持って帰って明日のランニングの時にでも着てもらおう。

 早朝で人もいないし、メイド服でのランニングくらい香夏なら快く了承してくれるはずだ。

 いやー、いい後輩を持った。


「それじゃ、さっきの話は忘れてくれ」


 取り出したメイド服を鞄の中にしまうその時。メイド服を持った腕が掴まれた。結構強めに。


「ちょっと待った! そのメイド服をくれるのなら、着てもいい!」


「家にメイド服ないの?」


「あるわけないでしょ! 彼方みたいに一人暮らしじゃないんだから。友達数人とハウスシェアしてるの知ってるでしょ」


 いや、知らん。初耳だ。


「そうか。ならメイド服あげるから、今着てみてくれ」


「ここで⁈」


「建物の影なら問題ないんじゃないか? なんなら俺が盾になるから」


「後ろ向いたら許さないから」


 なんとか了承をもらえた。

 俺と暮葉は建物の影に行き、俺が暮葉の前に立つ形で暮葉は素早く着替えた。まさに早業。

 暮葉の衣服は俺の鞄に詰め込んで、着替え終了。

 昼休みで中庭に人が殆どいなかったのはありがたい。


「ど、どうよ」


 少しだけ顔を赤く染め、胸の前で腕を組んだ。


「まあ、いいんじゃない」


「他にもっとあるでしょ!」


「はいはい、かわいいかわいい」


「面倒くさそうに返事するなー!」


 とは言っても、俺はメイド萌えの性癖は持ち合わせていない。

 自分でも驚くほど興奮してない。


「そうだ。試しに、ご主人様って呼んでみてよ」


「な、なんで私がそんなこと……っ!」


 暮葉は、プイッと顔を背けてしまう。


「仕方ない、後輩にやってもらうか……。にしても、まさかメイド大好きの暮葉が、メイドの基本ができないなんてな。はぁ」


 肩をすくめてため息をつく。

 ちらっと横目で暮葉を見れば、肩をわなわなと震わせていて、


「わ、わかったわよ!呼べばいいんでしょ⁉︎ 」


 ちょろい。


「ご、ごしゅ…………ごしゅッ!」


「頑張れ、あと少しだ」


「ごしゅじ…………」


 どんどん顔が赤くなる暮葉。

 頑張れ。あと一息だ。


「おい! こんなとこにいやがったか、置物野郎ッ!」


「ひゃあっ⁉︎」


 暮葉が変な声を出して、逃げるように俺の背中に隠れた。

 背中に柔らかいものが押し付けられる。

 来たよ。来ちゃったよ。

 いや、ラッキースケベではなく、鬼の形相の赤桐君が来た。


「どうしたんだよ、そんなに怒って」


「そりゃお前、三日前にやられたこと俺は忘れてないからな! ちょこまか逃げやがって! ようやく見つけたぞ」


「悪かったよ。んでさ、いまお取り込み中だから、また今度きてくれて」


「そいつか?」


 赤桐君は、俺の肩口を指差す。

 指をさされて、俺の右肩あたりから赤桐君を覗いていた暮葉の顔が引っ込んだ。


「……なあ、納得がいかねえ。こんなの納得がいかねえよ!」


「ど、どうしたんだよ」


「なんでお前には、こんなに可愛いメイドさんがいるのに、俺には筋肉メイドしかいないんだよぉおおおおおお!」


「ごめんな」


「ごめん? お前に何がわかる! 筋肉メイドから無理矢理連絡先交換させられて、ここ三日間鳴り続ける携帯のメール受信音に怯え続けていた俺の何がわかるってんだよッ! それらのメール全部に、『いつ会える? 会いたくて会いたくて、筋肉が弛緩しちゃう♡』って書かれてるんだぞ! 辛すぎて、携帯なんて海に投げ捨てちまったよ!」


「環境に悪いから、海に投げ捨てるのは止めようぜ」


 それだけじゃない。携帯の作成には貴重なレアメタルが使われている。回収ボックスとかに入れれば、とってもエコだったのに。


「うっるせぇえええええええええ! いいか、いまから俺の言う言葉を耳かっぽじってよく聞いとけよ」


 赤桐君は、ビシッと人差し指で俺をさして言い放った。


「お前に決闘を申し込む」




 ◆◆




「決闘? なんでまた」


「お前、俺と筋肉メイドのツーショット写真持ってるだろ。筋肉メイドが教えてくれたぜ」


 あの筋肉メイド、ペラペラ喋りやがって。これだから、脳筋は。


「くっ……。でも、だからどうした。お前との決闘を受けずに、俺は今からその写真を新聞部に売りつけてくることもできるんだぞ?」


「話は最後まで聞くもんだ。いいか、今回の決闘は上位ランカーの権限で一番デカイ決戦場を使う。観衆も沢山呼ぶ。この意味がわかるか?」


「…………わかるよ」


「お前が勝てば、その写真は好きにしろ。ただし、俺が勝てばその写真は返してもらう。それじゃあ、一週間後の放課後、決戦の場として使う闘技場で待ってる。せいぜい、体でも鍛えとくんだな置物野郎」


 そう言い残して赤桐君は去っていく。

 あそこまで起こるだなんて、やはり筋肉メイドによる精神的ダメージは凄まじかったようだ。


「おい、いつまで背中にひっついてるつもりだよ」


「別にいいでしょ! そ、それよりどうするの?」


「とりあえず新聞部に写真を売りつけに行くか」


「…………え?」


「だって決闘受ける必要はあまりないし。一ヶ月後に公式試合あるし。写真売りつけた方が面白そうだし」


「……性格悪すぎ!」


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