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第20話「メイド喫茶」

 

「今までの話しを総括するとね、メイドという職業は奉仕の…………ってちゃんと聞いてんの⁈」


「ぁああ…………。聞いてる……聞いてる」


 胃袋から込み上げてる嗚咽感と、耳鳴り。加えて、両のこめかみをゲンコツでグリグリされているような頭痛の総攻撃を受けていた俺は、口をバカみたいにあんぐり開けたまま、喉奥から絞り出すように返事をした。


「……あれ? ねえ、大丈夫?」


 ………………。


 もう声を絞り出す気力さえなかった。眼の焦点も上手く定まっておらず、目の前にいるはずの暮葉が某忍者漫画のラーメンの具材の名前がつけられた主人公並みの分身を披露してくれている。

 うん。つまりはそういうこと。

 俺、かなりの船酔い気質だったらしい。


 寝れば多少はマシになるだろう。

 そう思って目を閉じた。

 今なら某猫型ロボットを友達だと言うメガネの少年ばりに、一瞬で眠りにつけそ………う………。


 スパァンッ!


「ねえ、大丈夫?」


 あと一歩で眠れるところだったというのに、暮葉の声と頬から伝わってきた衝撃でこっち側に引き戻された。


 スパァンッ!


 二度目の頬への衝撃。

 ようやく、自分が暮葉から平手を受けていると認識できた。

 俺の意識を確かめようとしているのだろうか。にしても痛いよ。めちゃくちゃ痛い。でも、声はでないし。眼も、今更開けることなんてできなかった。


「……あれ? 寝ちゃった? おーい」



 寝れそうだったところを、お前に邪魔されたんだよ!

 と言葉にすることも出来ず、ただペチペチと頬を叩かれ続けた。


「完全に眠ってる……よね?」


 ああ、そうだよ。そうだとも。

 だからもう邪魔はしないでくれ。

 俺はもう永遠の……じゃなくて、安らかに眠りたいんだ。


「眠ってる間に、ほ、ほほ奉仕……してもいいよね?」


「……お、起きてる……‼︎」


 妙に甘ったるい声がして、このままだと危険だと俺の本能が訴えかけてきた為に、俺はなけなしの力を振り絞って声を絞り出した。


「ひゃあっ! お、起きてるの?」


「船……酔い……助け……て」


 それだけ言い残すと、俺は深い微睡みに堕ちていった。





「う……ん?」


「おっ、やっと起きた。気分はどう? 楽になった?」


 俺はベットの上で目を覚ました。目の前には、心配そうな表情を浮かべる暮葉がいる。四方にカーテンがかかっていることから、どうやら俺は医務室のベットにでも寝かされていたらしい。


「ああ。だいぶ楽になったよ」


「私の奉仕……じゃなくて介抱のおかげだね!」


 えっへんと胸を張る暮葉。

 暮葉ってエリスより胸がありそうだな、などと考えることができるくらいには、俺の体調は回復していた。


「まあ、そろそろ着くから、もう少し寝てなさいよ。着いたら起こしてあげるから」


「……そうさせてもらうよ」


 今日の暮葉はやけに優しい。

 それに、奉仕という言葉を多用している。

 俺の推測に過ぎないが、もしかしたら暮葉はメイドが好きなのもそうだけど、メイドになりたいんじゃないか?

 まあ、どっちでもいいか。




 ◆◆




「やってきました、秋葉原!」


「いえーい……」


 平日であるというのに、秋葉原には大勢の人で賑わっていた。俺、人混みが苦手なんだよなぁ。


「さて、メイド喫茶にレッツゴーだよ!」


「いやいや。もうちょっと、他の所を見て回ってからでもいいんじゃないか?」


「え? 秋葉原のメイド喫茶全部回るから、そんな時間ないよ」


「…………おーけー。メイド喫茶にいこうか」


「それじゃあ、レッツゴー」


 人混みをものともせず、暮葉はずんずんと前に足を進めていく。俺ははぐれないよう、暮葉の裾を軽くつまんで、人混みを息苦しく思いながら暮葉の後ろにぴったりとついて歩いた。



 一軒目。猫耳をつけたメイドさんがお出迎えしてくれるメイド喫茶。

「おかえりなさいませだニャンお嬢様、ご主人様‼︎」

 暮葉は目をキラキラさせていたが、俺の目はどんよりとした曇り模様。自分より年上の人に、ニャンって言われてみろ。目眩がするから。



 二軒目。可愛らしいショッキングピンクのメイド服を着たメイドさんがお出迎えしてくれた。

「お帰りなさいお姉ちゃん、お兄ちゃん!」

 どうやら、俺と暮葉の妹という設定らしい。ああ、またもや目眩が。

 どう見ても俺より年上だろ、あんた。なら、俺と暮葉が弟と妹って設定で接してくれてもよかったんじゃない?

 ただ、暮葉はとても嬉しそうだった。



 三軒目。

「お帰りなさいませ姫殿下、王子殿下!!」

 キリッとした声で出迎えられた。

 設定は中世のヨーロッパらしい。

 メイド喫茶のメイドさん達は、色こそ違えど皆同じようにメイドアーマーを身につけていた。



 四軒目。

「お帰りなさいませ奥方様、ご主人様」

 深々とお辞儀をするメイドさんに出迎えられた。

 店員の方々はメイド服ではなく、綺麗な着物を着ていた。

 俺が城主、暮葉が奥方で、俺たちが長旅から城に帰って来たという設定らしい。後から来た客も、同じ設定だった。いったいこの城には、何人の城主がいるんですかねぇ?



 一軒につき、一時間。とりあえず四軒回って、四時間が経過した。

 結構な金額も使った。ったく、なんだって年増のおばさんを見る為にこんなに金を使っちまったかねぇ。まあ、暮葉が楽しそうだから、それはよしとしよう。


 なんて、悪口のようなことをいっているわけだが、一つ学んだことがあった。

 メイド喫茶の店員さん達は、親切で優しい。

 店員なんだから当然、と思う人もいるだろうけど、誰にでも親切に優しく接するというのは簡単ではない。

 紛れもなく、彼女らは接客のプロだ。



「よし、五軒目にいこうか」


 くいくいっと服の裾が引っ張られる。


「あのさ、楽しそうなのはいいんだけどさ。他の所にも行ってみないか? ゲーセンとかさ、他にも色々あるだろ?」


 もう、疲れた。メイド喫茶にいくのはやぶさかではないのだが、五軒目となるメイド喫茶では、流石に笑顔を保っていられそうにない。相手に不快感を与える不機嫌な面になること間違いなしだ。

 それは、相手に失礼すぎる。


「しょーがないなぁ」


「なら、ひとまずはあそこのゲーセンにでも入るか」





 さて、ゲーセンに来たはいいが何をしよう。あいにくアーケードゲームは嗜んでおらず、俺はアーケードゲーム初心者だ。ガチ勢の邪魔になりそうだから、アーケードゲームは遠慮しておこう。

 となれば、UFOキャッチャーしかあるまい。


「とれないから止めといたほうがいいよ」


「……そ、そうだな」


 UFOキャッチャーも却下だ。

 ……どうしよう、することがない!


「それじゃ、五軒目に行ってみよー!」


「……おっけー」


 半ば暮葉に引きずられる形で、俺は渋々五軒目のメイド喫茶へと歩を進める。


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