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第15話 「黒くて固い」

 


 急いで向かうのもアレのため、平常心を装いつつエリスが座るベンチの所まで普通に歩いて向かった。

 別に、エリスは俺の女だ! とか、そんな格好良いことを思っているわけでもない。ただ、なんとなく嫌な気分になっただけだ。

 嫉妬って言われたら、そうなのかもしれない。

 いや。そうなんだろうな。


「お待たせエリス」


 あくまでもナチュラルに。

 平然として駆け寄った。


「おお! 待ってたぞ彼方。というわけだから、悪いが君達の誘いには乗れないんだ」


 エリスが君達と言った、二人の男。

 一人はいかついゴリマッチョ、もう一人はチャラい細マッチョ。

 遠目では分からなかったが、近づいた今、俺はこいつらに見覚えがあった。


 名前までは覚えていないが、不良グループを束ねるツートップだったはずだ。荒くれ者を束ねているだけあって、二人とも実力は、学内序列上位に食い込むまで秒読みだと聞いたことがある。


「……ほう、友達とは『置き物』のことだったか」

「こんなゴミほっといてさ、俺達と遊ぼうぜ。いいこと沢山教えてやっからよぉ。おら邪魔だ、どーけーよっ!」


「いてっ⁉︎」


 突然、細マッチョの男に胸を強く突き飛ばされて、後ろによろける。細マッチョの男は、そんな俺を尻目にエリスの方へと歩み寄っていき、エリスの胸元に手を伸ばした。

 その手をエリスは、手の甲ではねのける。


「てめぇ……いい度胸してんのな。いくら最強といえど、俺ら二人、いや俺らのグループを相手にして勝てるとでも思ってんのか? あ?」


「…………行くぞ彼方。こんな奴らにはかまってられん」


「おいおい、無視してんじゃねえぞ。クソ女ァッ!」


 細マッチョの怒気を纏った左手がエリスへと伸びる。

 怒号に振り向いたエリスだったが、僅かに反応に遅れる。



「……あ?」


「汚い手で、エリスに触るな」



 俺の左手は、エリスへと伸びる細マッチョの腕を掴んでいた。




 ◆◆




「……おい、離せ」


「離さない」


「離せって、言ってんだよオオッ!」


「だから、離さないって言ってんだろ」


「……ああ? なら、お前から死ねや!」


 細マッチョの空いている右手に、徐々に赤い光の粒が集まっていき、指出しグローブが形成される。


 グローブ型霊装【仁王の憤怒】

 握力強化倍率を跳ね上げ、握力だけで人間の腕を捻じ切ることができる霊装。


 その右手が、俺の左手を掴もうとする時。

 ……頼むよ、黒夜叉。

 俺は心の中で念じた。


 黒夜叉の発動範囲は、相手に悟られないように、左手の人差し指の第一関節だけ。

 それだけでも黒夜叉は、一人の男の態勢を崩すには、十分すぎる程に高重量だ。


「んなっ⁉︎」


 黒夜叉の高重量もあってか、力を入れずとも俺に腕を掴まれていた細マッチョは、体勢を崩して前のめりになった。

 そして、丁度いい具合にガラ空きになった細マッチョの懐に、俺は膝蹴りをくらわせる。

 一撃入れたら、霊装を解除して距離をとる。


「うぐっ!…………ふざけやがってええええええええッ!」


 細マッチョの左手にも赤い粒子が集まり、霊装を形成する。


「おい待て。校外での霊装は、規約違反だ。何よりここには他の人がいる。あまりにも危険だ!」


 エリスがそう注意をするも、


「うるっせええええええッ!」


 細マッチョは聞く耳を持たない。


「おい! 準備しとけッ!」


 細マッチョのその言葉に、後方で待機していたゴリマッチョが頷く。ゴリマッチョの周りに黒い粒子が集まり、粒子は一つの物体を瞬時に形成した。

 それは映画などでしか目にする機会がない、重火器。

 対戦車擲弾発射器。通称、RPGだった。


「……やむを得ん。吼えろ、【双頭ノ月下狼オルトロス】」


 エリスの足下に粒子が集まり、そこから双頭の狼を模した粒子の集合体が出現する。双頭の狼は、エリスの手前で二匹に分裂すると、左右の手のひらに粒子となって巻きついていく。

 そうして左右の手に現れたのは、蒼と白の二丁の拳銃。

 二丁拳銃型霊装【双頭ノ月下狼】だ。


「彼方は、公園の人々に事情を説明して避難を促せ!」


「わ、わかった!」


 エリス一人で大丈夫なのかとも思ったが、エリスは学園最強で俺は学園最弱。俺が共闘したところで、邪魔になる未来しか見えない。だとしたら、ここはエリスを信じよう。

 公園で遊んでいる子供とその家族のもとに、俺が急いで向かったその時だった。


「くぁ……ッ! 足が……ッ!」


 背後から聞こえてくる、エリスの声。振り向いてみれば、エリスは地面に片膝をついていた。

 忘れていた。失念していた。

 今のエリスはハイヒールのせいで、機動力が格段に落ちている。さらに最悪なことに、足首を強く捻ったのか、エリスは立ち上がれないでいた。


「エリスッ!」


「私なら大丈夫だから、気にするな!」


 気にするな、って……………………。

 そんなこと言われても、


「気にしないわけないだろぉッ!」


 踵を返して、エリスのもとへ駆けた。目先で捉えた細マッチョの口が、卑しく弧を描く。

 さらにその奥のゴリマッチョの霊装が、キューーーーンという高音を響かせると共に激しい光を放ち始めた。


 なんだ、チャージしてるのか?

 だとしたら、その範囲は、威力はどれぐらいだ?

 仮想ダメージに変換されない今、当たったら即死か?

 様々な思考が、頭の中で浮かぶ。

 でも今は、そんなことは気にするな。

 今はひたすら…………、


「バカッ! なんでこっちに来た! 彼方まで巻き添えをくらうぞ!」


 エリスを守ることだけを考えていればいい。

 俺はエリスの盾になるように、エリスの前に立つ。

 俺の霊装で防げるか?

 いや。防がないといけないんだ。


「バカ彼方! はやく逃げろ! せっかくできた友達を危険な目には合わせたくないんだ! それぐらい分かれ!」


「…………それは俺も同じだ」


 腕を組み、エリスの前で仁王立つ。

 エリスに傷はつけさせない。


「くっははははは! 男と女の友情劇ってか? 泣かせてくれるねぇ〜。……つまんねえから、死ねや」


 …………来る。


「また刑務所生活と考えると悲しくなるが、かまわねえ! 最大火力でブッ飛ばせえええッ!」


 瞬間。ゴリマッチョの対戦車擲弾発射器型霊装は一際輝き、それと同時に耳を劈く爆発音を聞いた。

 爆ぜる視界、歪む視界、そして視界は白い光に染まる。

 俺は目を閉じた。


 …………頼むよ、黒夜叉。


 今度は人差し指の第一関節だけでなく、全身を黒い鋼で包み込む。そして、予期していた通り、激しい衝撃が体を襲った。

 痛い。痛い。めちゃくちゃ痛い。

 でも、衝撃にさえ耐えれば、俺は負けない。

 俺の黒夜叉は……。


 誰よりも黒くて固いから。


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