第2話:通信簿と誕生日
ぽかぽか良いお天気で春うらら。の今日は3学期最後の終業式。
小学3年生だった私は終業式を終え、ランドセルと2つの手さげカバンをこれでもかと膨らませて帰り支度をしていた。
「春休みに入る前に教材は持って帰るように言ったでしょ!!」
と担任の先生が異様に声を張り上げていたが、そんなの知ったことじゃあない!何せ明日から春休み第1日目を迎えるのだ。
肩に荷物を食い込ませ、うんせうんせと家路を歩いていると、後ろから兄がランドセル一つで私をヒョイと抜き去った。
「ちょっと待ったー!」
「無理」
え”−−−
兄への嘆願はあっけなく砕け散り、澄ました顔で私の前をサクサクと歩いていく。
家に着くと、母がお出迎え。
「はい、通信簿は?」
その声にたじろぐ私をよそに、学校から持たされた通信簿を兄が母に渡した。
「おお〜、さすがだね〜」
横から覗くとキャー眩しいオール5の通信簿。
クラスでもなかなかお目にかかれないその眩しい通信簿は、毎年のように我が家に届けられている。
「あんたは?」
「無い」
「無いわけないだろー!」と私の荷物を家族3人がかりで探してくれて、掘り出された私の通信簿が公開された。
「お!図工が4になっているね!」
えへ。 何かと良い所を探しては母は私を褒めてくれる。
だけどね、母、図工の時間に提出したからくり箱、実はお兄ちゃんが作ったの。これ内緒♪
さて、次の日。休み第一日目から早速友達とエンジョイして夕方に家に帰ると、おばあちゃんが、テレビを凝視中。
「お母さんは?」
「居るように見えるか?」
おお、いつもながら簡潔で分かり易いお答え。
「お前、今日誕生日だよな」
お兄ちゃんが声をかけてきた。
!?そうだ!!今日はマイバースデイだった!やばい、すっかり忘れていた。
時計を見るとすでに20時を回っている。そうだ、思い出した。去年の12月、兄の誕生日会の時「お前の誕生日ケーキも大きいの買ってくるからね」と母が私に言っていた。
ウキウキわくわく、ドキドキドキドキ・・・
・・・・再度時計を確認。針は22時を指して終わったところだ。
う〜ん・・来ないねぇ母。
家族3人がしびれを切らしていた頃、ようやく母が自慢の真っ赤に輝く軽自動車に乗って帰ってきた。
!!「お帰りーー!」
黄色いを通り越して超黄色い声援で母を迎えた。
しかし、母の手には荷物らしきものと言えば、近所の商店の買い物袋一つしかないようで。
「ただ今帰りましたよっこらせ」と入ってきた母は少し酒臭い。
か細い心臓が震える。まさか?一応聞いてみた。
「今日何の日か知ってる?」
「もっちろーん」
と買い物袋から取り出し見せてくれたのは、りんごパン。まさかのあのりんごパン。
確かにケーキと同じ丸い形をしているけど。
それから母は自分のポケットからライターと3本のローソクを取り出し、あのりんごパンにぶっ刺し歌い出した。
「ハッピィバースデイ To you〜♪」
え”−−− え”−−−−−!!
その後、私は祖母と兄に慰められるも、立ち直るのに長い時間を必要とされた。
「私って幸せよね?」
疑問に感じた年であった。めでたし、めでたし?