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推しが押してくる  作者: 神尾瀬 紫
MUDDY STREAM
12/15

2章―5

はじめましてさんも2度目以上めましてさんもこんにちわ


神尾瀬 紫です。



年甲斐もなく初初カップルがようやくここまで来ました~(笑)

実を言うとこの場面を考えていたのは去年の夏。

リアル静紅(仮)に付き合ってもらって、某観光地での疑似デートしてきました。

その時は一緒に静紅とカレシのバージョンも一緒に考えていたんですが、こちらはなかなか進みません(笑)

カレシ、登場してるんですけどね~

まだ出会ってないからなぁ~


出来るだけ早く静紅も幸せにしたい‼


ということで、ゆっくりですが着々と進めていきたいと思ってます。


よろしくお願いします。


「今日は夕御飯要らないんだね?」

 家を出る時、紫づ花は母親に呼び止められた。

「う、うん。カラオケでオールになると思うから、帰らないかな。」

「そう。静紅ちゃんにいつも色々戴いてるから御礼言っておいてね。」

「はい。」

 そそくさと家を飛び出して車に飛び乗る。

 クリスマスイブ。

 仕事が終わって慌ててチャトルを開くと、叶多からメッセージが入っていた。

[お疲れ様(*>ω<*)♡今新幹線だよ。6時過ぎくらいに着くから、お迎えよろしくね(*¨*)♡気を付けてね~]

 そして急いで家に帰り、着替えて軽くメイクをして家を出た。

 本当は疲れた顔をしているから、仕事の後は会いたくないんだけど。

 それでも以前東京に行った時よりは時間の余裕もあるからなんとか身仕度は整えられた。

 やはり親には叶多の事を言えなかった。

 その代わり、静紅と夜通しイヴカラオケをすると言ってしまった。

 相変わらず車の音楽はF.a.U GARDENで、KANATAがシャウトをしている。

 一応違う歌手のCDも持ち込んであるが、ギリギリまで叶多の声を聴いていたかった。

 ドキドキしている。

 信じられない。

 今からこの歌を歌っている人を迎えに行く。

 そしてその人が自分の車に乗る。

 昨日の帰りに洗車をしておいた。ちょうどその時間がファウのラジオ番組の時間だったので、イヤホンで聴きながらセルフのスタンドで給油をして洗車をして、ピカピカに拭き上げた。

 冬の道路の凍結を防ぐために常に塩カルが撒かれていて、車はすぐに汚くなる。だから念入りにきれいにした。

 紫づ花は車の中には基本的に物を乗せない。

 雪下ろし用のスクイーパーや、買い物をした時用の発泡スチロールの箱と、もしもの防寒用のタオルケットが乗っているくらいだ。

 それでも一応車内もきれいにした。匂いも特に悪くないはずだ。

 実は好きな人を乗せるのは、これが初めてだった。

 だからどんな感想を持たれるのかすごく怖い。

「大丈夫・・・だよね。」

 思わず独り言が漏れる。

 いつもは大きな声で歌っているファウも、今日はそれどころじゃない。

 心臓が大きく鳴っている。痛いくらい強く。

 家から駅まで車で15分ほど。

 もうすでに着いているはずだ。思わずアクセルを踏み込みそうになり、慌てて右足を弛める。

 焦ってはいけない。焦っても良いことはない。

 街灯がまばらな道から、明るい町の中へ入る。

 帰宅ラッシュは反対車線で起こっているので、紫づ花の車はスムーズに駅へ到着した。

 鼓動が頭に響いて変な耳鳴りがする。

 何度も大きく深呼吸して、スマホを取り出した。

[お待たせしました。駅の東口のロータリーに停まってます。]

 震える指で何度も打ち間違えながら、なんとかチャトルを送るとすぐに返事が来た。

 きっと寒い中待っていただろう。一部の冷静な自分が暖房を少し強める。

 外へ出て駅の階段を見上げる。

 今日は満月に近いせいか、夜が明るくて人の姿がよく見える。

 都会の駅ほど大きくはないが、新幹線が停まる駅なのでそこそこ通行人はいた。

 わからなかったらどうしよう。

 少しの不安は、階段を降りてきた人の姿を見て吹き飛んだ。

 どこかの写真で見たカーキ色のダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、見覚えのあるデイパックを背負っている。伸びた襟足が階段を降りるごとにふわふわと揺れる。

 決して派手な格好じゃないのに妙に目を引く、そういう人は稀にいるものだ。まさにそんな感じだった。

 その彼が紫づ花を見て。

 笑った。

 ライブDVDでよく見る大好きな笑顔。

 右手を挙げてヒラヒラと振る。

 紫づ花はみとれたまま動けなかった。

「こんばんわ。寒いね、こっち。」

 子供の様に笑うその口から真っ白な息が漏れる。

 それを見て我に返った紫づ花が慌てて後部座席のドアを開けた。

「あ、こ、こんばんわ。あの、荷物、ここに乗せてください。」

 叶多が一瞬固まって苦笑いしたのには気付いていない。

 そして後部座席に乗せていた包みをつかんで、運転席に乗り込んだ。

 叶多も黙って助手席に乗る。

 甘い香りに包まれて、叶多の心拍数が上がる。

「おお、暖かい。」

 冷えていた指を暖房の吹き出し口に当てている姿を見て、後部座席から持ってきた包みを叶多に差し出した。

「あの、これ、よかったらつけてください。クリスマスプレゼントです。」

「え、もう?」

 叶多が驚いて受け取った。

 自分でラッピングしたらしい、英字新聞がデザインされた茶色い袋からは、黒いラメとスパンコールのマフラーが出てきた。

「都会の人はこの気候寒いかと思いまして、編んでみました。」

「わ。これ手編み?嬉しいなぁ。」

 叶多が嬉々としてその黒いマフラーを巻く。

 ぐるぐると巻き付けてみてわかった。

 両端にスパンコール、内側にとラメと無地と言うように、黒のなかでもグラデーションになっている。顔周りの肌に当たるかもしれない部分を、無地の柔らかい毛糸にすることによってチクチクさせないようにするためだ。

 そしてこのスパンコールとラメの位置が顔の少し下におさまって、叶多の少し派手な容姿を引き立てる。

 サイドミラーで自分の姿を確認した叶多が、嬉しそうに振り向いた。

「これ、俺にすごく似合ってるよね。ありがとう。暖かいよ。」

 不安そうな紫づ花が、やっと微笑んだ。

「よかったです。」

 その笑顔に、叶多もホッとする。

 新幹線を降りてチャトルが来る間待合室にいたが、ソワソワと落ち着かなかった。

 思っていた以上に暗くて人がまばらで驚いた。

 西口と東口とはいえ、往復するのに1分もいらないほど小さな駅だ。どちらに出てもすぐに合流することはできるだろう。

 けれど、初めて見る景色に落ち着かない気分になった。

 イベントやライブで初めて行くところもあるけれど、こんなにソワソワすることはない。

 やはり・・・

 紫づ花が迎えに来てくれるという状況が、叶多を落ち着かなくしている。

 チャトルが来て東口の階段を降りて、すぐに車の横に立っている紫づ花に気付いた。

 ゴシックなドレスでも、カジュアルなGパンでもなく、フワリと可愛らしいロングスカート。

 近付いてみて、薄手のニット帽が肌の白さを際立たせていて似合っていることに気付いた。

 そして━

「この音楽は、これじゃないとダメ?」

 巻き付けたマフラーに顔を埋めて、聞いてみる。

 一瞬キョトンとした紫づ花が盛大に赤くなった。

「わ、あ、すみません!音楽変えようと思ってたのに!うっかり!」

 そう。いくらナルシストの気がある叶多でも、自分の歌を聞きながらのドライブはキツい。

 慌てた紫づ花が叶多の前のダッシュボードを開き、CDを5枚取り出した。

「いろんなジャンル持ってきたので、お好きなのを・・・」

 それを叶多に渡して発車しようとして、止まる。

「ところで、これからどこに行きますか?」

「あ、あぁ、そうだった。レストランの予約がしてあるんだよ。」

 そのレストランは紫づ花にとって、名前は知っているけど高級で入ったことのないホテルの中にあった。

 驚きながらも、行ったことないのでナビを設定する。

 それからようやく、紫づ花の車は滑るように動き出した。

 真剣な横顔にニヤけながら、手元のCDに視線を落とす。

 洋楽の女性ボーカル、男性ボーカル、邦楽の男性ロック、女性ロック、そして少し古いアニメのCD。

「これ、アニメだよね?いつぐらいだっけ?タイトルは聞いたことあるなぁ。好きなの?」

 紫づ花がチラリと叶多を見て視線を前方に戻す。

 その一瞬の流し目に心臓が射抜かれる。

「はい。内容もハードボイルド系でかっこよかったんですけど、そのCDが全体的にジャズで管楽器とかかっこよくて。」

 嬉しそうに話す姿に軽い嫉妬を覚えながら、そのCDを選択する。

 紫づ花は慣れた仕草でナビの画面を開きCDをセットした。

 読み込むタイムラグを置いて流れ出す軽快なホーン。

「おお。俺の好きな感じだ。」

 思わず呟くと紫づ花が笑った。

 暖かい車内に暖かいカノジョの雰囲気。

 車はスムーズに走り、町を抜けて街灯もまばらな道を走る。

 加速も減速も緩やかで乗っていて安心する。

 たまに運転の乱暴なタクシーに当たるとイラッとするが、紫づ花の運転はその人の性格のように穏やかで心地よかった。

「ハンドル握ると人格変わる人いるけど、紫づ花ちゃんはそうじゃないの?」

 あえて聞いてみる。

 紫づ花は前方を見つめながら答えた。

「そうですね。私はあまり変わらないです。むしろおっとりするかも。」

「へぇ。そうなんだ。その方がいいよね。安心して乗ってられる。」

「車は凶器ですから。外の人にとっても、乗ってる人にとっても。だから安全には気を使ってます。」

 信号でゆっくり止まり、叶多を見て微笑む。

「そうだよね。俺はペーパードライバーだから免許とったとき以来運転してないし、今運転しろって言われたらめちゃくちゃ怖いよ。」

「都会で暮らしてると、車はいらないですよね。それはそれで羨ましいです。」

『車の維持費とか、すごいかかるんで。』と、顔をしかめる紫づ花に思わず声を上げて笑う。

「あ、寒くないですか?私は慣れちゃっててよくわからないので言ってください。」

「大丈夫だよ。ありがとう。」

 助手席の叶多がニコリと笑う。

 目を離したくないのに、運転している手前凝視出来ない。

 時々ナビが道案内をしてくれる。その通りに運転しながら、脳は酸欠状態だった。

 以前のように夢じゃないかと思うことはなくなった。夢だとしたら2ヶ月もリアルな夢の中にいることになる。

 そんな状態で今さら目覚めたくなんてない。だから、夢であっても今にすがりたい。

 テンパると顔を出す、紫づ花の中の冷静な彼女が叶多と共有する空気を吸っている。

 男らしい独特な匂いと、それを包むような懐かしい匂い。

 その香りに記憶が掘り起こされる。

 少しの胸の痛み。

「叶多さんが付けてるのは、なんの香水ですか?」

 ずっと気になっていた。ある声優のラジオ番組で香水の匂いがするという話を、動画サイトの音声で聴いてから。

 すると叶多がなぜか慌てたようにジャケットの内側を嗅いだ。

「気分でいくつか使い分けてるんだけど、今日はカルバンクライン。」

「あ、やっぱり。エタニティですよね。私もそれ好きで、付けてたことあります。メンズ。」

「マジで?」

 さりげなくゲットできた情報に、心の中でガッツポーズをする。

 そして選択を間違えなかったことに安堵する。

 気分でいくつか使い分けているのだが、今日は紫づ花のイメージであっさりした香りを選んだ。

 香りを纏っているときは甘ったるい感じではなかったから。

 相手に合わせた自分を演出することなど、考えたことなかった。

 本来の自分を認めてもらわないと意味がないと思っていた。

 それなのに今、カノジョの好みを手探りで求めて、気に入られたいと工夫している自分がいる。

 いよいよ道は暗くなってきた。

 二車線の道路の脇の街灯しか灯りが見えない。

「ずいぶん、暗いね。怖くない?」

 真剣な横顔に問いかける。

「まだこの道なら国道だから大丈夫です。少し外れるとヘッドライト以外の灯りがなくなっちゃうので。だから歩行者がもし黒っぽい服を着ていると見えなくて、それが怖いですね。」

 東京でも路地に入れば街灯も少なくなって、暗い道はかなりある。それにしても、ここまでは暗くはないだろう。

 普段忘れがちな、夜の本当の闇を垣間見た気分だ。

 紫づ花が続ける。

「あ、でも、星は結構見えると思いますよ。私としては昔よりも見えなくなったと感じてますが、やっぱり都会よりは星空は綺麗です。」

 それを聞いたとき、叶多はふいに先日見上げた三日月を思い出した。

 同じ空が紫づ花の上にも続いていると実感した日。

 車窓に流れる夜空を見上げると、確かに星が瞬いていた。

「今日はまだ満月にはならない、中途半端な丸さでしたね。」

「ほんと?じゃ、もうすぐ満月なのかな?」

「そうですね。多分明後日くらいじゃないですか?」

 紫づ花が運転しながら、フロントガラス越しに月を探す。

 叶多も同じように月を探し、左後方からついて来るのに気がついた。

「今日は月が大きいから明るいですね。」

 信号で停まった車内から2人で月を見上げる。

 同じものを見て、微笑みあう。

 あまり会えないからこその大切な瞬間。

 車が静かに動き出す。

 ハンドルに添えられている彼女の左手にそっと手を伸ばした。

 一瞬ためらった後、思い切って握ってみる。

 ビクリとしたその小さな手は振りほどかれるかと覚悟したが、滑らかな感触で叶多の手に納まった。

 暗くてもわかるくらい真っ赤な顔でちらりと叶多を見て、再び前方に視線を向ける。

「あの、曲がるときは左手も使うので、放してもらえると・・・。」

 小さな声で控えめに訴えてくる様子がたまらなく愛おしい。

「了解。それ以外は繋いでいていいんだね。」

 叶多が緩んだ笑顔で返事をする。

 そして、心の中の不安を見つめる。

 今夜、紫づ花は自分のそばにいてくれるだろうか。

 嫌がられたらどうしよう。

 この車に一泊用の荷物が見当たらないのも不安に拍車をかける。

 すると、ナビの音声が目的地に近いことを告げた。

 いつの間にかカラカラになった口の中を強引に湿らせる。

 しゃべる仕事をしていればこういう状態はいくらでもあって、それをバレないようにごまかす手段は持っている。

 叶多はいつになく真剣に、へその下の丹田に力を込めた。

「紫づ花ちゃん。俺はレストランの下のホテルに泊まるんだけど、紫づ花ちゃんも一緒に泊まってくれる?」

 一気に言い切って、無意識に息を吐く。

 心臓が暴走してる。鼓動の衝撃で頭が揺れそうなほど強く脈打っている。

(思春期のガキじゃあるまいし、どうしたんだ俺は)

 思わず空いている左手で口を覆う。

 初彼女から20数年、ホテルに泊まるのも家にお持ち帰りするのも何度もしてきて何でもないことのはずなのに。

 今さらカッコ悪いくらい震えている。

 紫づ花は、スピードを維持して車の流れに乗りながら、チラリと叶多を見た。

 自分の左手を握っている手が微かに震えている。

 叶多くらいのプレイボーイ(本人は否定してるが)ならば、ホテルに誘うくらい何でもないはずなのに。もっと自然に話を持っていけるはずなのに。

 そこで、叶多も緊張していたんだと理解する。

 変なコンプレックスに身を固めていた紫づ花は、少し気持ちが楽になった。

 テンパッた際の冷静スイッチではなく、普段の紫づ花になる。

「こんな高級ホテルのディナーなのに、私ウーロン茶だけですか?」

 僅かに笑いを含んだその声に、弾かれたように叶多が紫づ花を見る。

 真っ赤になりながら、照れたように笑ってる。

 叶多も思わず笑った。

「そうだよね。せっかくだからシャンパンで乾杯とかしなきゃね。」

 そしてナビがホテルに到着したことを告げた。


 クリスマスディナープランで予約した部屋はとても豪華だった。

 思わず叶多はあっけにとられて立ち尽くす。

 しかし紫づ花は意外と普通に部屋に入って行った。

トランクに入れていたレザーのリュックを片背負いしながら、大きな窓に近づき夜景に見入っている。

「高台に建ってるから夜景がきれいですよ。平坦だけど。」

 振り向く彼女がまぶしい。

 叶多もようやく室内に足を踏み出した。

 まず、広い。

(俺の1LDKよりも広いのじゃないだろうか。)

 ライヴの時などに利用するホテルにあったものよりも立派なデスクに、座り心地の良さそうな椅子。

 その他に応接室のような大きなテーブルと重厚なソファ。

 テレビは何型だろう。叶多の家には置けない大きさなのは確かだ。

 そして、扉が二つ。

 右手にある引き戸は多分バストイレ的なものだろう。なんだか大きいような気もするが、場所的にもそうだろう。

 では、奥の重そうな木の扉は。

「スイートルームって泊まるの初めてです。」

 紫づ花が何の気負いもなくその扉を押し開ける。

「クローゼットこちらですから、荷物どうぞ。」

 豪華な調度品に目を奪われながらその声についていく。

 まず、キングサイズのダブルベッドがドンと鎮座している。

 そのベッドの足の方向、部屋の入り口がある壁には、またもや大きなテレビがあった。

 もはや開いた口が塞がらない叶多を尻目に、紫づ花はさくさくと備品のチェックをしている。

 思わず叶多が声をかける。

「紫づ花ちゃん・・・。ビビらないね。初めてだって言ってなかった?」

 紫づ花はクローゼットの中にくっついている懐中電灯を取り外し、ちゃんと点くことまで確認していた。

「泊まったことはないんですけど、お掃除をしていたことがあるんです。何ヶ所か。その中にはスイートルームもあったし、会員制のホテルではもっと部屋数があって大変でした。」

 小首をかしげて余裕の笑顔の紫づ花がまぶしい。

 カノジョが臆してないのに、カレシがビビッているなんてかっこ悪い。

 叶多は多少強がりを込めてクローゼットに荷物を下ろした。

 巻いていたマフラーをほどき、大切なことを思い出す。

 そのマフラーを丁寧にハンガーに掛けて、デイパックの中を探った。

 傷つかないようにしまっていた細長い箱。

 それを背後に隠すように持ち、紫づ花をリビングに誘い出す。

 夜景の見える窓の前。完璧なシチュエーション。

「はい。メリークリスマス。」

 綺麗にラッピングされた細長い箱が差し出される。

 紫づ花が大きく目を見開いて叶多を見た後、嬉しそうに両手で受け取った。

「早く開けて。」

 そわそわと催促する叶多に照れ笑いを浮かべながら、包み紙を丁寧にはいでいった。

 現れたものに、、紫づ花が声もなく息を呑む。

 ピンクゴールドのチェーンの先に小さなダイヤ、それを紫色のアメジストが花のように囲んでいる。

「それ見た瞬間に、紫づ花ちゃんが思い浮かんでね。まさに紫の花、でしょ。」

 固まっている紫づ花の手元からチェーンを取って、紫づ花の背後に回る。

 一応渡し方も付けてあげるところもイメージトレーニングをしていたが、思っていた以上にうまくいって逆に緊張している。

 まさかこんなに景色が良いとは思わなくて。

 その輝く夜景の中に紫づ花が立っている。

 その窓に、自分の首に光るペンダントを映して。

 ガラスに映る紫づ花と目が合った。

「ありがとうございます。」

 簡単だけど万感の思いがこもったその声に、嬉しそうな笑顔に、思わず後ろから抱きしめる。

 紫づ花が身を固くする。

 レストランの予約していた時間がすでに過ぎているので、本当は急がなくてはいけないのだけど、もうこの際だからもう少しだけ。

 髪に顔を埋める。柔らかなさらさらとした感触が頬をすべる。

 甘い香りで肺が満たされる。

 小さな声で『うひゃ~』というのが聞こえた。

 密着している叶多の胸が紫づ花の背中で激しく鼓動する。

 もう少し・・・

 もうちょっと・・・

 体を離し、紫づ花の肩をつかんで反転させる。

 真っ赤な顔が見上げている。

 叶多の脳は浮かされて、すでに考えることを放棄していた。

 両手で頬を包み込む。優しく、綿菓子に触れるように眼鏡をはずす。

 小さな唇に吸い寄せられる。

 そっと、触れるだけのキスは一瞬で離れた。

 しかし2人にとってはとても長い一瞬だ。

 紫づ花がうつむく。

 叶多は大きな塊を吐き出すように息を吐いた。

 もう一度、今度は正面から紫づ花を抱きしめる。

 優しく髪をなでて、離す。

「さて、そろそろレストラン、行こうか。」

 無言で頷く紫づ花の前に左のひじを出す。

「恋人だからね。エスコートしなきゃ。」

 顔を上げた紫づ花がはにかんだように笑って ━━━

 そのひじに右腕を絡めた。





お読みいただきありがとうございます。いかがでしたてしょうか。


ここまでかよと(笑)突っ込みが聞こえるようです(笑)

デート編前編。

全年齢対象なので、サービスシーンは期待しないでください(笑)先に言っておきます(笑)


ただ、R指定つけて短編でアップするかもしれないので、もし望んでいただけるのでしたら、メッセージいただけると頑張るかもしれません(笑)


それではデート編後編でお会いしましょう。


ありがとうございました。

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