幼馴染と俺
「タクちゃん!オレね、3組のマドンナに告白されちゃった!」
「良かったな、ちゃんと返事はしたのか?」
「うんっ、2番目に優先するけどそれで良いなら付き合っても良いよ、ってちゃんと言ったよ!タクちゃん」
…2番目?
常識的に、恋人なら1番に優先するべきなんじゃないの?2番って、完璧愛人や浮気相手の立場だろう。
いやいやいや、待て。幼馴染の場合、1番は家族、とか言い出す場合も有り得る。それもどうかと思うが、まぁ、家族なら良いか、と寛大な女性なら許すかも知れない。…大抵は、家族より私を優先して!だけどな。
幼馴染はいつにも増してキラキラ輝いているが、その無駄な輝きは俺の前で振り撒くべきじゃない。美形度が増すじゃないか。それを振り撒くのは女性の前だけにしなさい。
「…………ちなみに1番目は誰なんだ?」
「もっちろん、タクちゃんに決まってるじゃん!」
「…………。」
幼馴染が失敗を犯した。
あぁどうしよう、取り敢えず躾直しか?躾直しなのか?
「どうしてそうなる!?いいか?女はな、彼女になったら自分を1番に優先してくれないと嫌な生き物なんだ。それをまぁ、………しかも俺を1番に優先してどうする!二股でもないぞ、それ」
「だってオレ、女の子なんていなくても平気だけど、タクちゃんがいなかったら生きていけないし」
「俺はお前の母親じゃないんだけどなぁ………。……どこで育て方間違ったんだ俺」
幼馴染は俺を中心として考える人間だった。中学生になって、更にモテ出した幼馴染はよくこう口にしていた。
『オレはタクちゃんがいないと生きていけないから。』
その言葉の所為で、クラスメイトや教員にからかわれる毎日。女子からは嫉妬の眼差しで、男子からは憎悪の眼差しで見られる事が多かった。
なんせ幼馴染は美形だ。
男女問わずにモテる男だった。
高校は幼馴染と別だと解り、これで幼馴染離れ出来ると思ったのも束の間、一緒の所じゃないと無理、と幼馴染が勝手に同じ所にしていた。幼馴染に俺の両親は大層甘い。母から言わせれば俺の方が幼馴染に甘いらしいが、そんな事はないと思う。
「タクちゃんタクちゃん!ネクタイやってっ」
「自分で出来るだろ?自分でやりなさい、俺は忙しい」
「無理。タクちゃんがやってくんないならこのままで学校行くよ?先生とかに注意されてもタクちゃんがやってくれなかったから、って言うよ?」
「おいコラ。お前人の所為にすんな。なんで俺がお前の面倒を見ているのか謎だ。出来る事なら出逢う前に遡って回避したい関係だ。」
「とか言って、ネクタイやってくれるタクちゃんが好きだよ?」
そう。
俺もやはり、この幼馴染に甘かった。
結局俺がネクタイを結んでしまうのだ、もうどうしようもない関係だな。こうなったら幼馴染に早く良い彼女が見つかって、結婚してくれるまで待つか。いや、そうすると俺は幼馴染が結婚するまで誰とも付き合えないし結婚も出来ない、という事になる。
こいつに早く長続きする彼女が出来ないものか……。
「ほら、出来た。二股とかしてないで、ちゃんと良い彼女作れよ」
そしてその彼女にネクタイを結んでもらえ。
幼馴染は笑って、こう言った。
「オレにはタクちゃん以上の存在なんていないよ。オレの世界はタクちゃんだけだからね」
俺は幼馴染の育て方を完璧に間違ったようだ。