お昼のお風呂タイム
「おいコラ、ちょっと待て」
「えっ!? なんですかご主人様??」
「なんで風呂に入るのにお前は服を着たままなんだよ」
「あっ、わたしのこの衣装は濡れても全然平気なんですっ! 特殊素材なので……」
「素材がどうとかそんなものは知らん! 風呂に入るときは服を脱ぐっていうこの国の法律があるんだよっっっ!!」
俺は訳のわからないことを言って女悪魔の腕を掴んだ。
「えっ!? ……ちょっ……ご、ごしゅじんさまっ、まだわたしそんな……」
「俺の事が嫌いなのか?」
「……そ、そ、そんなことはないです。……でも……恥ずかしくて……」
「じゃあ何も迷うことはないだろう。 ……さあ」
「えっ……あっ……」
ザーーーーーッ
「…………」
「……」
天井からシャワーが降り注ぐ中、お互い無言で見つめ合っていた。
女悪魔は照れているのか、少しずつ頬が赤く染まっていく。
小刻みに震えているのが掴んでいる腕から伝わってくる。
天井からシャワーを浴び続けている俺は濡れ髪効果で、イケメン率が120%上昇しているはずだ。
ふっふっふ……どうやら俺に落ちるカウントダウンが始まったようだな。
俺も興奮のあまり全身がピリピリしてきやがったぜ。
……いや待て……
……ピリピリどころか、痛くなってきたような……
「っうおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
「きゃぁああぁぁぁあぁ~~~っ!!!」
俺と女悪魔は叫びながら浴室を飛び出た。
「あっあああぁぁーーーっちああぁぁ!!! なんじやこりゃぁぁ!!!」
浴室からはすさまじい蒸気が立ち込めていた。
突然の出来事でパニックになってしまったが、どうやらシャワーの温度がおかしい。タコも一瞬にして茹で上がる熱さだろう……。
「大丈夫でしたか!? ご主人様っっ! 突然大きな声出すからびっくりしちゃいました……」
「ああ……危うく大火傷するとこだった。 お前は大丈夫だったのか?」
「私には届いてなかったので大丈夫です。 でもこんなに熱くするなんて、以前住んでた人は余程熱いお風呂がお好みだったのかしら……」
「こんな熱さ好んでる奴いたら汚れとともに皮膚もトロトロになるじゃねーか! どうせ給湯器の故障だろ」
とは言ったものの以前の住人が殺人鬼ということを思い出し嫌な予感がしたけど、あまり深くは考えないでおこう。
俺は仕方なく修理を依頼する為、携帯電話を取り出した。
プルルルーッ……プルルルーッ……ガチャ
「はい、こちら鬼嫁除霊事務所でございます。 ご用件は何でしょう?」
……し、しまった。馬鹿か俺は……。家主と勘違いしてかけてしまった……。
「あ、あのーシャワーの温度がおかしくて……多分給湯器の故障なのかなって……」
「はっ?」
「いや、このアパートで困った事があったらこちらに電話しろと言われたもので……」
「うちは除霊事務所です。 修理はおこなっておりません。 そして家主でもありません。 もう一度ご確認後おかけ直しくだい」
ガチャ……ツーーー
いや……うん、わかってたよ。こうなること。
忘れてかけてしまった俺も馬鹿だがあの不動産のおっさんをものっそいしばきたい……。
その時脱衣所から女悪魔の呼ぶ声がした。
「ご主人様! 原因はこれじゃないでしょうか? 給湯器の設定温度が99℃に……」
俺も脱衣所に向かい確認する。
「ありえないだろ……なぜそこまで上限を設けたのか問い詰めたいわ……」
俺は設定を40℃に切り替え、シャワーの温度が下がったのを確認し、無事止めることが出来た。
もう風呂に入る気分でもなく、空腹で限界の俺は、ガランとしたリビングに倒れるように横たわった。
そのすぐ横に女悪魔はちょこんと正座で座りだす。