いわくつきマンションに侵入
そこから俺たちはおっさんにそのいわくつきマンションを案内してもらうことに。
電車の移動で都心からは駅5つ。降りて徒歩10分といったところだ。
到着したマンションはどこにでもあるような外観の作りで、白く塗装された鉄筋の建造物。
住宅街の一角にあり、とてもここで殺人が行われたと思えないくらい穏やかな雰囲気が漂っていた。
ゴミ出しも綺麗にされていて住人のマナーが伺える。
おっさんに誘導され階段で3階まで上り、部屋の前まで到着した。
「じゃあ今からこの鍵で部屋を開けるよ。 心の準備はいいかね?」
「その何かの封印を解くような言い方やめろ!」
重く感じる空気の中、おっさんはゆっくりと部屋のドアを開ける。
部屋に入った感じとしてはしばらく放置されていた少しカビ臭いニオイはしたが、霊感がない俺には全くもって普通の部屋に感じた。
「まずはここだね~、ほらっ、未だに死体のシミ残ってるから間違いない! 」
「部屋入っていきなり死体の場所とか案内すんな! 普通間取りの説明だろ! 」
「わぁ~、ほんとだぁ。 どうか良いところに成仏できますように……ムニャムニャ 」
「お前もちょっとは警戒しろっっ! そもそもシミが残ってるって……室内クリーニングとかリフォームしてないのかよ…… 」
明らかに人型ができているシミを見ながらおっさんに問いかけた。
「事件の後に一度クリーニングはしたさー。 でも不思議なことにまたシミが出来ちゃうんだよ。 その後に住んだ人が先月ノイローゼで首吊りしたしね」
「さらに死者増えてんじゃねーか! マジでやばすぎる……。 なぁ……やっぱり違う物件探すか? って何お前風呂沸かしてんだよ! 」
「ほえっ!? ご主人様はお風呂入らない人なんですか!? 」
「風呂は毎日入るがそーゆー問題じゃない!」
「今日は飯の前に風呂をいただくか。その前にただいまのチウを……」
「おっさんが新婚生活演出してんじゃねーよ! てかなんで誰も住んでないのに水道とかガスが使えてるんだ?? 」
「実はこれもこの物件のセールスポイントでして、何故かこの部屋だけ電気、ガス、水道会社と契約していないのに使えちゃうんですよ。 これは私が思うに亡くなった怨霊の……」
「わかった……。 もうそれ以上言わなくていい。 本当に住みたくなくなるから……もうなってるけど 」
寒気が止まらない……。
しかし……今日中にこれほどの格安待遇物件を見つけるのは不可能だろう……。
一時凌ぎと思って引っ越せる余裕が出来るまではここにするしかないのか……。
……まぁ怨霊だかなんだか知らねーが、こっちには本物の悪魔がいるんだからなんとかなるだろ。
「じゃあこちらの契約書にサインを……そしてこちらが部屋の鍵になります……
あと何かお困り事がございましたらこちらにお電話を。 選りすぐりの除霊師が電話対応のみ致しますので 」
「ゴミ出しの曜日とか聞きたいとき除霊師に電話しても怒られるのこっちだろっ! しかも電話対応て……ビビってないで直接こいよぉぉ!」
ってもうツッコミ入れるのやめよう……。なんか今日はすげー疲れた。
「じゃあ私はこれで……ごゆっくりどうぞ 」
「っておっさん!! 部屋から出てすぐ体に塩ふってんじゃねー! 葬式の帰りじゃねーんだぞ! 」
ちくしょう……昨日までは実家で平穏な生活を送っていたのに、こんなお化け屋敷で悪魔と同棲することになろうとは……
これから俺はどうなってしまうんだ……。
いくら家賃が格安だとはいえ、なにか仕事もしなきゃいけないだろうし……。
いやっ……待てよ、何も俺が仕事をしなくても女悪魔にしてもらうとか……
ぐぅぅぅ~。
……そういえば俺朝から何も食ってないんだった。
時刻はもうとっくにお昼をまわっていた。
いつも以上に動きまわった為、空腹も限界に達している。
一応住むところは確保出来たわけだし、女悪魔連れて飯でも食べに行くかな……。
「ご主人様っ! ちょうど今お風呂が沸きましたよ 」
なんでこいつはまだこんな事してたんだ……。
「あの……ご主人様」
「なんだ? 」
「良かったら……」
「ん? 」
「お背中流しましょうか……」
まじか!?……まじでか……まじでか……
でもこの歳になって誰かと風呂にいきなり入るなんてハードル高すぎだろ!!
だが入りたい! 俺は入りたくなってきたぞぉぉぉ!!
「あっ……でもご主人様、もしかしてお腹とか空いてます? 朝から何も食べてないですよね? 」
「……いや、腹は減ってない。 むしろ昼飯代わりに風呂に入るタイプだ 」
そういって俺は荷物からお風呂セットを取り出し、一瞬にして脱衣所で全裸になり一足先に浴室へと向かった。
そにて俺はありえないものを目の当たりにする。
シャワーが……天井で固定だと!?
こんなところだけオシャレ感出しやがって……。
映画や高級ホテルならともかく、こんな寂れたアパートになぜこれを設置しようと思ったのか理解できない……。
これではケツを洗うときシャワーを下から当てれないではないかっ。
……しかし今はそんなこと気にしている余裕はない。
俺はすぐさまシャワーを浴び、あらゆるところを念入りに洗う。あくまでも念の為だ。
そしてスピーディーに洗い流し浴槽へダイブした。
「お湯かげんはいかがでしょうか? 」
脱衣所のすりガラス越しに女悪魔が話しかけてきた。
「う、うむ……悪くない 」
「そうですか~、よかった」
「うむ」
「なんだか一緒にお風呂に入るのって……照れますねっ 」
「うむ……」
「ではわたしも入らせていただきますね」
そういって浴室の扉がガチャリと開いた。