初めての引っ越し
こうして俺は女悪魔とラクダもどきを引き連れて実家を出ることになった。
両親には『今までお世話になりました。俺のことは捜さないでください 』と書き置きをし、ある程度の生活用品と黒魔術の本を持って出発した。
ご近所の目を気にしながら、まずはATMに向かい残り僅かになった金を出金。
そしてその足で電車に乗り都心へ。
到着した俺達はすぐさま不動産を探し、出来るだけ怪しげな店舗に立ち寄った。
「すいませーん」
中に入ると小太りのおっさんが受付に座っていた。
「うぃ~。っしゃいやせ~ぃ」
うぃ~ってなんだよ。てか酒臭っ! こいつ仕事中に飲んでんのか!? 昼間っからパラダイスだな……。
ルックスといい、営業態度といい、普通ならすぐ店を後にする気分だが俺が求める物件はこういった店にしかないはず……。
「あのー、急遽住むところを失ってすぐにでも住める家電付き物件を格安で探してるんですが。 敷金礼金ゼロ、あと保証人も抜きで。 因みにペットもいます 」
「はっはっはーそんな物件はないっ! と言いたいところですが何か訳ありみたいだね。」
小太りのおっさんは顎をジョリジョリ撫でながらニヤついている。
「普通の方には勧めないのですが……一つだけございますよ。もちろんいわくつきですが。 ここならお客様の条件で家賃月二万円で結構です。
ただ女性の方には刺激が強すぎるかも知れませんが…… 」
おっさんがニヤニヤしながら舐めるように女悪魔を見ている。
なんかムシャクシャするから目潰しをかましてやろうかと思ったが止めておいた。
「わたしの事ですか?? そんなの気にしないですぅ。 だってわたしは悪……」
「うぉぉいっっ!!!!!」
俺は必死に会話を遮った。
「あぁ……こいつの事なら心配いりません! 鋼のメンタルを持っていますので 」
「ちょっとー、ご主人様ぁ~、わたしだって怖いものとかはあります。
先程みたいにご主人様に嫌われちゃうというのがすごく辛くて怖いのです。
言葉じゃうまく説明できないけど私の中の何かが崩れていってしまうような感じなの……だからご主人様に嫌われちゃったらわたし…… 」
女悪魔は捨てられた子猫の様な目で俺を俺を見る。
これはもはや告白されているのか……?
恋愛に不慣れな俺は返答に困っていると、おっさんが会話に入り込んできた。
「ヒャッハーッッッ! なかなか見せつけてくれるじゃないかっ! おじさんも仲間に入れてくれよぅ 」
「いやいや、あんたは仕事をしてくれ」
おっさんは冷めた目で俺を見る。
ひとつ咳払いをして
「えーっ、まぁさっきの話に戻すと……そのいわくつき物件てのはこれなんだが……」
俺達はおっさんが差し出した資料に目を通した。
「へぇ~。 思っていたより新しくて綺麗じゃん! しかも3階建マンションの最上階で角部屋って……」
「うんうん! わたしもそう思いますっ。ご主人様っ! ぜひここにしましょうっ!!」
「築年数もそんなに経ってないし、立地条件も悪くないな。 で……何がいわくつきなの?」
おっさんは頭をバリバリ掻きながら答えにくそうにしていた。
「う~ん……なんと言うか……あれだ、ちょっと人がお亡くなりになっててね。
以前の住人がサイコパスだったみたいで、この部屋で猟奇的殺人を何十人も殺っちゃったみたいなんだ……。
今思えば来た時から怪しいと俺は感じてたんだよなぁ。 商談中も常に横揺れしててブツブツ独り言いってたし。
でもまぁうちとしても経営が苦しいからとにかく住んで欲しかったわけよ。 そしたらこの結末だ。いやぁ~まいったまいった」
全然ちょっとじゃねーだろ……。 しかも何ベラベラ喋ってんだこのおっさん……。 普通隠すだろ。
部屋も見てないうちからすげー寒気してきたよ。
「ねぇおじさま……、この物件もう少しお安くなりませんか? その環境でもわたしは平気ですが普通の人間であるご主人様にはちょっと……」
値切るより俺はもう住みたくないんだが、そして会話に地雷を入れるなっ!
「お嬢ちゃん、そうは言ってもこっちも商売だからねぇ。これ以上安くするわけには……」
……このおっさんには気になるという思考はないのか。
「そこをなんとか……お願いしますっ!!」
上目遣いでお願いする女悪魔になぜかおっさんのやる気スイッチがオン。
「……千円でいいよ、うん。 後はおじさんがなんとかしておくから」
「えぇぇっ!? ホントですかぁ!? おじさまっ、ありがとうございます! ご主人様っ!良かったですねっ」
もう仕事辞めちまえよこのエロおやじ……
それにそんな価格で提供するってもう命の保証もないじゃねーか……
と思ったが低予算の俺に選択の余地はなくこの物件にせざる負えなかった。