記憶喪失の悪魔
「起きてくださぁ~い。ご主人様っ」
「う~ん……むにゃむにゃ……」
「もおっ、は~や~く~起きてってばぁ~」
誰だ……俺の身体を揺すっているのは……
うっ……身体中が痛い……
そうか……昨日おやじに殴られたんだっけ……
そういえば昨日何かあったような……
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 」
俺の眠りは一気に覚醒した。
そして隣には昨日の女の子と、やたら俺を威嚇しているラクダがいた。
一夜明けても居るってことは幻覚とか夢じゃなく、昨日のことは現実だったんだな……。
「昨日は眠ってしまってごめんなさい。 久しぶりのお布団があまりにも気持ちよくて……って自己紹介まだでしたね。
わたしは……あれっ? わたしの名前は……なんだったかしら? 」
朝から何言ってんだこいつ……と思ったが
「俺に聞かれてもわかんないよ。そもそも君が何なのかすら理解できてないし…… 」
女の子は微笑みながら
「テヘッ! 名前は忘れちゃいました。」
「忘れちゃいましたって……自分の名前なんて普通忘れないだろ? 」
「それが、名前だけじゃないんです……先程から過去の記憶を辿ってはいるのですが……すべてをはっきり思い出せないの……でも……」
「でも?」
「わたし多分……悪魔だと思うのです。」
やはり……とゆーか登場の仕方から考えても人間な訳ないよな。
正体を自白してくるってことは悪魔との契約の話に持っていくつもりだな。
望みを叶えてあげるからわたしと契約しましょうとか……そんなところだろ。
ふっふっふ……甘すぎるぜ。
俺は自分を犠牲にしてまで叶えたい望みなどない!
だから願い事は何でしょう……なんてそんな手には乗らないぜ!
「ほう……で、要件を聞こうか」
「えっ!? あの……要件ていいますと……何の事でしょうか? 」
「じゃあ言い方を変えよう。君は俺に何か頼みたい事があるんだろ? 」
「頼みたいこと……そうですねぇ……はいっ。ありますっ! 」
ほらきた!!可愛い顔しても所詮は悪魔。
俺は絶対に契約なんてしない!!
「ふーん。でも残念だったな!俺はお前の頼みを聞くつもりはない!」
俺は声を大にしてキッパリとそう答えた。
「そ……そんな。……」
女悪魔は怯えた様子でオロオロとしている。
俺は追い打ちをかけるうように
「悪魔を召喚してしまったのは俺だが、全てが思い通りにいくとおもうなよぉぉ!!!!」
「……うっ。……ひくっ。…………ひくっ 」
ちょっと感情的になって俺は女悪魔を泣かせてしまった……。
「どうして……ひくっ。……どうしてご主人様はそんな事おっしゃるのですか? ……私の事、嫌いなんでしょうか? 」
女の子を泣かせてしまった俺は動揺してしまい
「い……い……いや、嫌いとかそんなんじゃなくて……。お……俺は契約するつもりはないって事を言いたくて……」
「ぐすっ……。契約って何のことでしょうか?」
「へっ!? だから……俺の望みを叶えるからお前と契約しないといけないみたいな……」
「……ごめんなさい。 ご主人様のおっしゃってることがよくわかりません……」
「ファッ!? だって君はさっき俺に頼みたいことがあるっていったじゃないか!? 」
「……ひくっ。それは……」
女の子は涙を浮かべながら
「わたし、ご主人様とここで一緒に暮らしたいです! 」
「一緒にって……俺と!? 」
「はいっ……」
なぜだ……。
なぜ契約のことを言ってこない。
そもそも契約なんて作り話なのか?
それとも……もしかして本当に記憶喪失なのか?
いや……迂闊に信用しちゃいけねぇ。
こいつは悪魔であることは間違いなさそうだし。
しかし……なぜ俺と一緒に暮らすという話になるんだ?ただ行くところがないから?
でもまぁ……召喚した本人が悪魔を呼び出しておいて、不気味だからサヨウナラ~って訳にもいかねーか。
俺が非日常を望んだのは確かだし。
一緒に暮らすといってもずっと居るわけでもないだろうし、もしもの時には護身用魔法陣を使えばいい。
「……別に構わないが……本当に契約とかはしないからなっ 」
「も、もちろんですっ! ご主人様っ 」
泣きやんだ女悪魔の笑顔は本当に嬉しそうで、見ているこっちが照れるくらいだった。
しかし、そうは言ったものの一緒に暮らすといってもこの家はまず無理だ。
おやじに『悪魔召喚しちゃったから今日から一緒に暮らすお! キャピッ~!』なんて言ったら間違いなく殺されるだろう。
バレないように隠し通すってのも不可能だし、それに昨日みたいな暴行を毎日受けるのは身体がもたない。
う~ん……家を出て住むところを探すか。
正直、実家暮らしは食い物に困らないけど精神的ダメージがデカすぎる。
ちょうどいいきっかけかも知れない。
FXで大損ぶっこいてしまったが残り僅かな金を口座から出金すればひと月は家賃も含めて暮らせるはず。
しばらくギャンブルはおあずけだな。
「じゃあさっそくだけど、大人の事情があってここに一緒に住むわけにはいかない。 だから今からここを出て新しい部屋を探すことになる。 それでもいいか? 」
「わたしはご主人様とご一緒であればどこでも構わないですっ! 」