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13 知る権利など

「君は本気で行くつもりかい?君一人ならともかくただの子供と厄介事の塊の『アメミト』を連れて鎖の国境を超えることができるとでも?」

「はっ、馬鹿なことを言うなガロン。できるできないじゃねぇ、やるんだよ。」



不敵に笑い、そう言うハクさんにガロンは呆れたように溜め息を吐いた。



「全く、君は昔から僕の忠告なんて聞きやしない。いっつも無謀なことを思い付いて、僕が止めても止まらなくて、そして君はいつも……成功させる。それが君だよね。」

「当たり前だ。それにこいつらは二人とも俺が俺の意思で拾ってきたんだ。面倒くらい見る甲斐性はあるぜ?クレハだってバレなきゃ良い話だ、見た目じゃわかんねぇし。カモフラージュのためにこの店に来たんだしな。」



ハクさんに首根っこを掴まれガロンの前にぶらりと差し出される。微妙に足が届かない。



「まあ君が自分で決めたことを曲げる奴じゃないからね、仕方ないか。」



その言葉と共に張り詰めていた空気がフッと弛み、ガロファノも元のようにヘラりと笑った。




「ハクはもうこっちには帰らないの?」

「ああ、国内にもう一度戻ることはあっても、このD区に戻ってくることはねぇだろうな。」

「ひひひっ、戻ってくるなら国外の薬草や毒草を頼もうと思ったんだけどね。残念だ。君がいなくなるとD区の治安はまた荒れそうだね。E区を経由して地上まで行くんだろ?いつD区から出ていくんだい?」

「三日後の夜だ。衛国団の奴らが降りてくる前にE区に移動したい。」


「E区まで逃げられるかい?」

「コイツの身体能力は申し分ねぇ。フィオはクレハに持たせておくつもりだ。」


やっと手を離され床に足をつけることできた私は、また蔦に襲われそうになっているフィオの援護に向かった。


「へぇ…ねぇ、もしこれ以上人が増えたら困る?」

「…ついてくる気か?」


「君が許しさえするならね。僕も国外の植物がほしい。特に欲しいのがさ、国の近くにあるエルフが住む森!何て言ったっけ、ヴィータ・ボスコ?そこの植物は絶対にどこの国にもない、正に門外不出の幻の植物!是非とも僕のコレクションに加えたい!」



途中までは理性的に話してたのに植物の話になった途端に振りきれたように喋りだす。



「でもお前の愛してやまないここの植物はどうするつもりだ?」



ハクさんの言うと通り、この植物達を置いてこの人が旅に出るなんてあり得ない。そう思っているとガロンはチッチッチと言って指を振った。



「僕の子達をなめてもらっちゃ困るよ。自分達で水やりができないとでも?」

「できちゃうんですか?!」



ガロンに答えるように怪しげな植物達は(うごめ)きジョウロを掲げた。



「ハクさん、どうしましょう……ここに来てから私の中の植物という概念が恐ろしい勢いで崩れていくんですけど…。」

「諦めろ。コイツには常識なんてもんは持ち合わせていねぇ。コイツの植物を含めてな。そして一応植物じゃなくて、動植物っていう概念を作っておけ。」

「動植物……」


なんかもう、どうでもよくなってきた。


「それにさ、頼めばこの子達の面倒を見てくれる奴もいないこともないからね。」

「それはまた…随分と奇特な方もいらしたものですね…。」


私の呟きを笑い飛ばし、上に視線を投げた。


「それで、一緒に行っても良いかい?」

「はぁ、勝手にしろ。」

「ええええ!!ガロンまで一緒に行くの?!やだ!」

「フィオ、正直すぎるよ…。」

「だってこの動植物私ばっかり狙うんだもん!」

「ふひひひ、仕方ないよフィオちゃん。この子達は子供の肉が大好きだから。」

「まさかの食人植物?!」

「ガロン!フィオを恐がらせんな。」



フィオはますます警戒し、ガロンから離れ私の後ろから彼を睨み付けている。



「ひひっ、大丈夫大丈夫、さすがにこの子達は連れていけないからね。加工して持っていくよ。」

「愛しの、なんて豪語してるのに加工はアリなんですね……。」

「何を言ってるんだい?加工しようともこの子達が魅力を失うことはない!むしろより美しさは優るのさ!!」


「はあ、フィオは良い?これならフィオが食べられそうになることはないと思うけど、どう?」

「まあこれなら…。」

「じゃあ決まりで良いな。ガロンは三日後の夜、22時に俺の家まで来い。遅れたら置いていくからな.」

「ひひひ、分かってるよ。それじゃ、その日の夜にね。」

「ああ、ほら行くぞ。」

「あ、はい。」



満身創痍で眠るフィオを抱え、エルダ・メディシナルを後にする。


帰りはフィオを抱き抱えているから、妙な奴に絡まれることはないだろう。





「あの、一つ聞かせてもらっても良いですか?」


D区に外れの方へ入り閑散としてきた帰り道、私のすぐ前を歩くハクさんに問うた。



先程のガロファノとの会話から沢山の疑問を抱いた。


かつてハクさんは地上にいたらしい。いつ地下に降りてきたのだろうか。ハクさんは見る限りまだ若い。しかし地下街では確固たる地位を築き、医者紛いの職まで持っている。それをどこで学んだのか。それにハクさんが戻ってくれば歓迎する場所まである。それはどこなのか。ガロファノとの関係は?政府の動きの情報もだ。兵士を締めて吐かせるとしてもそんなレベルの情報じゃない。どう考えても正確すぎるのだ。『アメミト』のことや貴族達のことだって詳しいにもほどがある。


それにガロファノの言っていた『あれは別に君のせいじゃない』というのはいったいどういう意味なのだろうか。


そして私を引き留めてでも外に逃がそうとする理由は?


分からない。どれだけ考えても答えなんてでなくて。


改めて考えると、私はハクさんのことを全く知らない。


ハクというのもたぶん愛称だから本名も知らない。

年齢も知らない。

地上にいた頃も知らない。

どんな仕事をしてるのかも、交友関係も、かつて何をしたのかも。



私は何も知らない。何一つ分かることなんて、ない。



以前まではお互いのことを知らなくても気にしたことなど無かったのに。


何故か知りたくて、もっと近くに行きたくて。



「何だ?」



せめて今、これだけは聞いておきたい。



「…ハクさんはどうして、国外に出るんですか?外に出て、何を壊すんですか?」



知りたいということは、私たちにとって禁忌(タブー)なのでしょうか?



立ち止まり、私に向き直る。


「俺は、鎖を壊しに行く。」

「鎖…?それはいったい、」


ハクさんは荷物を持っていない方の手で私の口を塞いだ。


「悪いな、それは言えねぇ、まだな。」



その言葉は、昼に私が言った言葉だった。



「お前らを俺のことで巻き込むつもりはねぇだから、安心しろ。」



手がゆっくりと口から外され、私の頭を撫でる。


違う。


違う。


そんな言葉が聞きたいんじゃない。



「っ………。」



一瞬開きかけた口を無理やり結ぶ。



今私は何と言おうとした…?


もっと教えてほしい?

何かあるなら話してほしい?


馬鹿なのか、私は。



教えようともしない人間に、知る権利などありはしない。



馬鹿で面の皮の厚い自分が恥ずかしくて唇を噛んだ。


今の私には、どこか苦しそうな表情を浮かべるハクさんにかける言葉など見つけられなかった。

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