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第4節 材料

「フェニックスのドロップとは、ヒトの寿命を延ばすことのできる妙薬である。『血』の濃さに比例し、一粒で数年から数十年の延命効果がある--だって、エステル」

「うん……」

 数年から数十年--結構、幅がある。ユーリは何年寿命を延ばしたいのだろうか--『もう少し生きたいだけ』--ダンテの言葉がエステルの頭をぐるぐると駆け巡っていた。

「もう! エステルが知りたいって言うから、こんなに重~い『魔法薬学辞典』借りてきて上げたのに、全然、聞いてないんだから」

「あ、ごめん! でもちゃんと聞いてはいるよ」

「本当かなぁ」

 クレアは二段ベッドの上からその下にいるエステルの顔をひょいと覗き込んだ。エステルは悩みごとがあると決まってベッドの中でゴロゴロする。半年以上も寮で同室であればその癖に気付かない訳はない。

 例のごとくベッドに潜ってぐだぐだしているエステルに、クレアは更に続けた。

「フェニックスのドロップの材料は、『フェニックスの血』、『ドラゴンの鱗』、『三日月草』である。『フェニックスの血』には不老不死の効果があるが、飲み続けなければその効果は得られない。一度の摂取で十分な効果を得るために、『ドラゴンの鱗』と『三日月草』を配合する必要がある--ふ~ん、『フェニックスの血』って、飲み続けなきゃいけないんだね」

「飲み続けるってどれくらいなのかなぁ?」

「う~ん……それは書いてないけど、少なくとも月一とかじゃ足りない気がしない?」

「毎日ペースかなぁ?」

「毎日だったら確かに飲み続けてるよね」

 二人はどうでもよさそうなところで立ち止まる。

「結局、寿命を延ばそうと思ったら、『ドラゴンの鱗』と『三日月草』がいるんだよね? 『ドラゴンの鱗』はケーラーさんがくれるとして、『三日月草』なんて手に入るのかなぁ?」

「それを言うなら、『フェニックスの血』の方が入手困難でしょ」

「そうなんだよね……私もフェニックスさんが血を分けてくれるなんて思えないよ……」

 フェニックスは召喚の賢者『アメリー・コレット』の唯一の契約精霊だった。エステルが見たことがあるのは、燃えるような赤い長髪が印象的な男性の姿のフェニックスだけだが、本来は炎の羽根を持つ巨大な鳥である。彼は契約者たるアメリー・コレット以外とは、決して口を利かないことで有名だった。ヒト嫌い--というより、自分が認めた者以外を蔑んでいるのが態度からも明らかなのだ。

「ロックも難しいかもって言ってた……フェニックスさんはアメリーさんにしか血を分け与えたりしないんだって」

「えっ!? じゃあ、アメリーさんって今、不老不死の状態なの?」

「うん、それは私もおじいちゃんから聞いて知ってたんだけど、実際に見たときはほんとにびっくりしたよ。もう、五十歳近くのはずなのに、私達と同じくらいの見た目なの」

「へぇ、じゃあ『飲み続けて』るんだね」

「そうだよ、『飲み続けて』るんだよ」

 二人は意味もなくうんうんと頷き合った。

「でも、頑張って説得してみるって。ロックから。アメリーさんとは付き合い長いんだって」

「そうなんだ、よかったよね」

「期待するなとは言ってたけど……でも、ユーリ君にお手紙書いてもらったらいけるんじゃないかなって思ってるんだ」

 エステルは目をキラキラとさせる。

「お手紙?」

「うん! こういうのは気持ちが大事だと思うんだよね! ユーリ君が、どういう想いでお願いしてるのか、フェニックスさんにもアメリーさんにも伝われば、きっとちょっとだけなら分けてくれると思うの!」

「そんなに簡単にいくかなぁ……」

 眉をひそめるクレアを余所に、エステルはなぜか自信満々だった。

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