第5節 賢者たち
「……何なんだよ、あの集団は」
控え室に戻るなりダンテはソファに倒れ込んだ。
「疲れた……」
ドミニクもそれに続いて反対側のソファへと身体を沈める。
「情けない。あんなもんでへばってたら、これから先が思いやられるぞ」
しばらくは動き出しそうにない二人の弟子を交互に見て、ロックは大きな溜め息を吐いた。
「皆さん、お疲れさまです」
部屋の奥から遠慮がちに顔を覗かせたのはユリアだった。一日目の今日は『時空の賢者の承認』だけが議題として取り上げられることになっていたので、議題と関係のない彼女は部屋で待機していたのだ。
「ずいぶんと、お疲れのようですね」
心底疲弊した様子の二人を見て、ユリアは目を丸くする。
「こいつらがヘタレなだけだ」
「……誰がヘタレだ。ふざけんな」
ダンテが身を起こす。ドミニクは倒れたままヘタレを決め込んだ。
あの後ロックは、『時空の賢者の力』を手に入れた経緯、大精霊に認められた経緯、本当に『力の承継』を受けていないのかなど詳しく話を聞かれ、逐一丁寧に説明させられることとなった。
特に賢者の力をどのように手に入れたかについては、他の賢者の最大の関心事であった。自力で修得することが可能との説明には納得のいっていない者も多かったが、現に力を手に入れ大精霊に認められている以上、反論の余地はなかった。
しかし、他の賢者の力も自力で修得できるはずだと展開したロックには、ほとんどの者が反対した。無理だと。唯一賛成したのは、もちろん『光の賢者』陣営だった。
彼らは、これからは『力の承継』に頼らないで『賢者』を生み出していこうと主張した。これには強い反発が予想されてはいたが、その反発たるや予想を超える凄まじいものだった。遂には「『力の承継』をせずとも『賢者』になれるということは物質界の混乱を招く」ということで、この事実を非公表にしておこうという方針まで立てられたのだ。これには、『時空の賢者』陣営、『光の賢者』陣営ともに大反対をしたのだが、他の賢者陣営に押し切られ、しばらくは非公表という方針が決まってしまった。
「しばらく」がいつまでになるのか--それは決まっていないし、おそらく今回の会議では決められないのだろう。それまではロックは表面上は『力の承継』をしたこと--つまり前賢者のテオドール・ロックを殺したことにしなくてはならない。それは『時空』『光』両陣営にとって耐えられないことではあったが、ロックの「私は構わない」という一言によって何とか会議は収束したのだった。
「クソッ! あいつら、自分達の地位が危うくなるってだけで、反対しやがって! ロックを人殺しにしてたまるかよ!」
ダンテが一度は収まっていた怒りを再燃させる。
「あいつら全員、クズだよ」
ドミニクの口も悪くなっていた。
「あ、あの……私、お茶淹れてきますね!」
ユリアはキッチンへと姿を消した。
「おい、お前ら。ユリアさんに気を遣わせてどうするんだ。もう、この議題は今回は終わりなんだから、気持ちを切り替えろ」
ロックが二人を諫める。
「何言ってんだよ!? ロック、てめぇ、自分が人殺しにされていいって言うのかよ!?」
「ロック先生! 申し訳ないですが、これに関しては自分も納得できません! 会議は明日、明後日もあるんです。何とか、説得して……」
「無理だ」
感情的になる二人に対し、ロックはあくまで冷静だった。
「俺はこの展開は予想していた。バークリーやドルバックだって分かってたはずだ。反対する必要はあったが、この結論は絶対に覆らない。それに、明日、明後日はもっと大事な議題がある。こんなことで時間を取っている場合じゃないんだ。分かるだろう」
「「……」」
「だがな……正直、ちょっと嬉しかったぞ。あんなに本気で怒ってくれて。バークリーやドルバックはポージングだったがな」
怒るわけでもなく、嬉しそうに照れる師を前に、若い弟子二人は複雑な気分を拭えなかった。