第2節 シモーネ
「何なんだよ!! あの男はよ!!」
部屋に着くたび、ダンテが大声で怒りをぶちまける。
「『ノースアカデミー』の『闇の法』の教授、『ショーン・メルケル』氏だよ……僕が元々所属してた研究室の教授だよ」
「な--!? じゃあ、昔の師匠ってことかよ!?」
「まあ……そうだね」
ドミニクがげんなりとした表情で呟く。
「すみません……皆様お疲れのところ、早くお部屋にご案内できればよかったのですが」
シモーネが申し訳なさそうに頭を下げる。
「シモーネさんは何も悪くないだろう、顔を上げてくれ。それにしても--着いて早々、洗礼を受けるとは、この先が思いやられるな」
ロックは深くため息をついた。
「この次は、絶対にあんな目に遭わせませんから!」
「へ? あ、あぁ」
先ほどとは打って変わって、力強い様子のシモーネに、ロックは少し呆気にとられる。
「あの人! 開催日の2日前からやってきて、ここでやりたい放題なんです! 準備中だって言ってるのに、会場に何度も押し掛けるし! 担当の子だって、他に仕事があるのに、あの人の世話をしなくちゃいけなくなっちゃって、2日間も余計にですよ--!? しかも--」
「ふふっ」
ユリアが小さく笑った。
「あっ--! すみません、つい……」
シモーネはハッとして口元を抑える。
「フフフッ」
ドミニクが笑ったのを皮切りに、ロックとダンテも笑い出す。
「あんた、結構言うじゃねぇか。俺の妹に似てるぜ」
ダンテがケラケラ笑いながら言う。
「あぁ、最初のイメージと違うな。典型的な巫女って感じだったんだが、今時のお嬢さんだったか」
ロックも楽しそうに笑い続けている。
「す、すみません」
対するシモーネは気まずそうに顔を赤らめている。
「何も謝ることなんかない。あなたが我々の担当でよかった。これから3日間、よろしく頼む」
「は、はい!」
自分が担当でよかったと褒められたシモーネは、ますます顔を赤くする。そうなると、肌の白さが余計に引き立つようだ。
「あの、では、遅くなりましたが、お部屋のご説明に入らせて頂きます。今いるお部屋が応接室をかねた居間になります。キッチン、トイレ、お風呂等の水回りへは、こちらのお部屋からご移動いただくことになります。後、各自のお部屋を1つずつご用意させていただいております。居間の奥にお部屋を設置しておりますので、各自お好きなお部屋をご利用ください。鍵も付いていますので、女性の方でも安心ですよ」
「だそうだ。よかったな、ユリアさん」
「え? は、はい?」
「部屋の外には大浴場もございますので、お好きなときにご利用ください。24時間利用できます」
「何か、高級ホテルみたいだな……」
ダンテが今更ながら場違い感を実感する。
「ふふ、神殿という場所柄、地位の高い方が多くお見えになるので、上も見栄を張ってるんですよ」
「言うなぁ、シモーネさん」
ロックが嬉しそうに笑う。
「ここの子たちはみんな言ってますけどね、ふふ。では、私はこれで。会議のお時間になったらまた呼びに来ますので、10時前にはお部屋に戻ってらしてくださいね。それまでは、神殿を散策されていても大丈夫です。それでは」
先ほどとは打って変わって人懐っこい笑顔を見せるシモーネに、一行は砂漠のオアシスを得た気持ちだった。