第9節 時間
「『光の法』が休講、『時空法』は自習--これで『賢人会議』がいつ開催されてるか分からない奴がいたらバカだね」
「あんまり隠してる意味ないよね」
時空法の教室の黒板には、デカデカと『自習』の文字が並んでいる。ご丁寧にも朝一でロックが書いていったらしい。
「おまけに『調査官』もいないんだから。隠す気ないでしょ、この学園」
ロックだけでなく、ダンテやドミニクも休みとなれば決定的だ。もう誰が何と言おうと、今日から3日間が『賢人会議』である。
「ドルバック先生も行ってんの?」
机に肘を突き、顔を横に向けた姿勢でユーリが問う。
「『召喚法』も休講だから、たぶん」
少し離れた席からエステルが返事をする。
「ふ~ん……前回もドルバック先生、行ってなかった? 次はテレサ先生が参加の番だと思ってたんだけど」
「私もそう思ってたんだけど、今回はテレサ先生が残ってるみたいだよ」
「じゃあ、『時空法』代わりにやってくれてもいいのに」
『時空法』は元々、テレサ先生の授業だった。しかし、色々あって現在はセシル・ロックが教鞭を揮っている。
「残ってる調査官の人達も大変だもん。おじいちゃんやロックがいない間、アカデミーを守らなくちゃいけないんだよ」
「そっちの方が大変かもね」
ユーリはそう言うと顔を正面に向け『自習』の文字を眺めた。
そして、改めて教室全体を見渡す。
教室には、エステル、ユーリの他に、ホワイトドラゴンのアレクサンドル・ケーラー、十浪中の中年男性ジョン・カーライル、そしてウェストアカデミーからの留学生であるニルス・ヘイエルダールの3人しかいなかった。
元々、受講生が少ない上に更に3人も人数が減ったとあって教室はガラガラだった。
「全く、自習にするくらいなら、休講にしていただきたいものですな」
教室中に聞こえるように不平を口にしたのは、ジョン・カーライルだった。
「生徒の時間を何だと思っているのですかな」
時間--
「あんたには、時間がいっぱいあるんでしょ? 十浪なんて、ほんっと贅沢だよね」
「--!? いっ今なんと……」
ユーリの発言にカーライルが顔を紅照させる。エステルはポカンとしてユーリの顔を見た。いつも仲の悪い二人ではあるが、今のは完全に言い過ぎだ。
「十浪なんて贅沢だって言ったの。何? アンタ、頭、悪い上に耳まで悪いの?」
「しっ、失敬だぞ! 謝りたまえ!」
「本当のこと、言っただけじゃん」
悪びれもせず言い放ったユーリに、エステルは更に驚いた。いつもはここまできつく当たることはない。謝るべきだ--そう言おうとしたときだった。
「謝りなさい」
重い低音が教室に響いた。
「謝りなさい、ユーリ・カンディンスキー」
教室中の空気が声の主に集中する。
ケーラーの赤い双瞳は、真っ直ぐにユーリを射抜いていた。
「……イヤだ」
まさか拒否されるとは思っていなかったケーラーは目を丸くする。
「アンタには……アンタにはそんなこと言われたくないんだよ! 贅沢なのは、アンタだって一緒なんだよ! だからそんな悠長に構えてられるんだろ!? アンタも、母さんも--その何でも受け入れますみたいな余裕かました目がムカつくんだよ!」
「ちょ、ちょっとユーリ君!」
エステルの呼びかけも空しく、ユーリはそのまま教室を出ていった。




