第七話 冷宮での暮らし
翌日、翠玄と雀玲は摂政に言われた通り、後宮の一角にある宮のところにやってきた。
たどり着いたそこは、華やかな後宮の貴妃たちが住まう宮殿とは程遠い場所だった。
庭には草木が生え放題。その奥にある宮は、壁の所々に漆喰がはがれ落ちていて、瓦屋根のいくつかが吹き飛んでいた。中に入れば、そこらじゅう埃だらけ。長い間手入れされていないのが窺える。とても快適に住めるようには思えなかった。
「どうやら、長く人が住んでいなかったため、あまり手入れはされていないようだ。
すまないが、しばらくは辛抱してほしい。」
付き添いで来ていた摂政さまは、そう言って気まずそうな顔をする。
(_まあ、こんなものよね)
はなから高待遇など期待していなかったので、翠玄はさほど気に留めなかった。
才人とはいっても所詮は数多い妃たちの中で最下位の位である。贅沢はできない。それにこの宮の荒れ具合を見るに、どうやら元々はどこかの冷遇された妃が捨て置かれていた冷宮なのではないかと思われた。
「まずは身の回りを片付けていくことから始めてみようと思います。」
いきなり宮住まいをせよと言われても、落ち着かない。こうして手近に仕事ができて、逆に良かったのかもしれない。
「必要なものがあれば何なりと言ってくれ。
私も出来るだけの手助けはしたいと思う。」
「ありがとうございます。」
そういうと、摂政さまは去っていった。
後には、翠玄と彼女の侍女として抜擢された雀玲だけが取り残された。
「翠玄様、私にお任せください。きっとすぐに快適に住めるように整えますから」
雀玲がわざとらしく翠玄の事を様付けで呼び出す。
「雀玲、その言い方はやめてと言っているでしょう」
翠玄が才人に取り立てられ、ついでに雀玲も彼女の侍女として抜擢された。雀玲はそれを喜んでくれたとともに、かなり張り切っていた。
「別に、今まで通りでいいから。
炊事も家事も手伝うし」
翠玄は、雀玲がついてきてくれることになって、正直ほっとしていた。一人でこの広々とした宮に住まうには、さすがに心細い。同胞の雀玲が共にいてくれるだけでもありがたかった。
「何をおっしゃっているのですか。これからのことはどうかご心配なさらず、私にお任せください」
雀玲はそう言って腕まくりをしてみせる。
「わかった。じゃあ、私たち以外に人がいる時はその話し方でいることを許すわ。でも二人だけの時は無しよ。なんだか落ち着かないから」
「わかりましたよ。
しかし、どうしましょう。こう広いと、一体何から手をつければよいやら…」
言ったものの、雀玲は目の前の広大な荒地に、呆気に取られている。
「少しずつ片付けていきましょう。幸い、先日下賜された褒美の金銀が豊富にあるから、必要な材料を整えるには困らないわ」
二人は少ない荷物を抱えて、二人は仲良く宮の中へと足を踏み入れた。
_そんな二人のやり取りを、宮の外の門の影に隠れて、密かに覗き見ているものがいた。
邪な目を向けて翠玄たちの動向を探る視線。
この時彼女たちはまだ、その存在には気づくことはなかった。




