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後宮の亀仙女 -事件解決簿-  完全記憶能力をもつ主人公が、宮廷内の謎や事件を解決します  作者: 秋名はる
第一章

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第三十八話 町散策中の事件

これまでに何度か摂政の下で事件を解決したことで、翠玄はそのたびに摂政から大量の褒美を賜っていた。おかげで宮での生活も潤っており、宮の整備や生活に必要なものも一通り揃ってきた。


この日、翠玄は雀玲を連れて町へと繰り出していた。

宮での生活品や食料などは後宮内でも大体のものは手に入る。しかし町で流行りの菓子や、衣服などの装飾品は、町に出かけて直接購入する方が種類も多く揃う。


「翠玄様、二人きりで露店での買い物なんて久々ですね」


「そうね、こうしてたまには外に出てみるのも悪くないかも」


下働きをしていた頃はめったに町へ出ることなんてなかった。たまに上司に頼まれて買い出しに出ることは度々あったが、少ない給金でやりくりする下働きの自分たちには、こうして自分のものを買う経験なんてほとんどない。


この日、雀玲は朝から張り切っていた。町で流行りの襦裙や簪などの装飾品を扱う店や、流行りの菓子などの店を事前に調査しており、そのために翠玄を連れ回していた。

翠玄自身も、このところ重大事件が多発していたこともあり、良い気分転換になっていた。


________________________________________

お昼時になって、どこか露店で昼食でも取ろうと、一軒の茶屋に入った時、それは起こった。


「きゃー!」


「おいおいお嬢ちゃん、お前がよそ見をしていたせいで、俺の衣服にお前の汁物がかかってしまったじゃねえか。どうやって落とし前をつけてくれるんだ」


見れば、雀玲が見知らぬ大男に絡まれている。


「そんな、言いがかりですよ。そっちがぶつかって来たのではないですか」


翠玄が見れば、雀玲は大男にぶつかられて尻もちをついていた。にもかかわらず、大男は自分の衣服が汚されたと言って、雀玲を攻め立てていたのだった。


「お客様、騒ぎを起こすのはおやめください」


慌てて奥から店主らしき人が出てきて、その場を収めようとする。しかし大男は譲らなかった。


「うるせえ、俺はこのお嬢ちゃんと話をしてるんだ。部外者は引っ込んでいろ」


「では、私が代わりにその衣服を弁償します。それならよいでしょう?」


すかさず、翠玄が立ち上がって雀玲の前に立ちふさがった。


「いいや、これは上等な衣服なんだ。お前の小銭で許してやるわけにはいかねえな」


大男は嫌味な笑みを浮かべた。


「このお嬢ちゃんには今から俺の店で弁償代金を稼いでもらう。ちょっと来い!」


「ちょっと……離してください!」


雀玲は抵抗したが、大男はそのまま雀玲を軽々と肩に担ぎ上げると、そのまま店を出ていってしまった。


「ちょっと、待ちなさい」


翠玄は慌てて雀玲と男を追いかけていった。

________________________________________


なんとか二人を見失わないよう人混みをかき分けて後を追っていく。

その先にあったのは、この町最大の賭博場だった。雀玲と男はその建物の中に入っていく。中は胡散臭い怪しげな雰囲気がプンプンしていたが、雀玲を見捨てるわけにもいかない。

翠玄はそのまま賭博場へと入っていった。


まだ昼間であるのに、中は薄暗い明かりが灯されている。そして昼間だというのに、既に大勢の人たちでごった返していた。


中にいる人の身なりや身分は、実に様々であった。全財産を搾り取られて浮浪者のようになった浪人。酒に溺れてこの賭博場に囚われたまま行き場を失った者。はたまた賭けで一儲けして羽振りのよい男もいる。

そして上の階から見え隠れしているのは、上級席で趣味の賭け事に興じる貴族や役人らしき人だった。中はまるで蠱毒のように、様々な人間模様が渦巻いていた。


室内に入り、翠玄は男たちに追いつくと、再び大男に詰め寄って雀玲を引き渡すように交渉する。


「いいや、だめだ。このお嬢ちゃんは俺が見つけた上玉だ。ここでたっぷりと稼いでもらう」


「わーん……翠玄様、助けてください。私はこんな場所で一生を終えるなんて嫌です」


雀玲の目には涙が浮かんでいた。


「この娘は私に仕える侍女なのよ。勝手は困るわ、いくら払えばこの娘を解放してもらえるのかしら」


「借金を返すまでは俺のものだ。そうだな、迷惑料とだめになった服の弁償を合わせて、銀百枚といったところだろう」


「銀百枚!?」


それは秦国の貨幣価値に換算しても法外な金額だった。いくら生活が潤い始めた翠玄にも払える額ではなかった。


「そんな、流石に吹っ掛けすぎじゃないかしら」


翠玄は憤慨する。


「文句があるなら大人しく引き下がるんだな」


「翠玄様……申し訳ありません。こんなことに巻き込んでしまって……」


翠玄は一瞬考えた。ここは一旦身を引いて役所に通報したほうが良いのではないか。

確かに、その方が役人たちを伴っているのでこちらの要求を通しやすい。しかし今から行って、その間に雀玲が何をされるかわかったものではない。


「わかったわ……。あなたが望む金額をこれから用意します」

翠玄は決意した。


「その代わり、私が戻ってくるまでの間、その娘に指一本触れないと約束して」


「ふん、小娘にそんな金額が用意できるとは思えないな。どうやって資金を調達してくるんだ?」


「……もちろん。ここで賭けに勝って元手を増やしてくるに決まっているでしょう」


そう言って、翠玄は賭博場へとくり出した。

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