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後宮の亀仙女 -怪異解決簿-  完全記憶能力をもつ主人公が、宮廷内の謎や事件を解決します  作者: 秋名はる
第一章

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第三十二話 聞き込み調査

戸部の土地管理部署。そこに辰羅(しんら)という男が在籍していた。


彼は、一見口数の少ない陰気な男であったが、性根は真面目で几帳面な性格であった。任された仕事を黙々とこなすため、周りからの評判も良い。


昼時、突然、摂政を名乗る男と、その従者らしき官吏が二人、辰羅の元を尋ねてきた。一人は刑部の役人であった。訝しんだ彼であったが、先日の事件の捜査の件であると聞き、彼らとの面会に応じた。


「突然押しかけてしまいすまないな」


摂政と名乗るその男性は、噂に聞くように風変わりな見た目をしていた。彼は物腰柔らかに言った。


「とんでもございません、私めにどういった御用でしょう」


「実は先日、戸部にて戸籍庫の管理を任されていた官吏が凄惨な死を迎えるという事件が起こった」


「はい、聞き及んでおります」


男は、来訪者たちを室内に据えられた椅子に腰掛けるよう勧める。


「殺害現場の戸籍庫の入退記録にお前の名前があったものだから、念のため事情を聞きに来たのだ。事件の数日前に、お前は戸籍庫を訪れているな。一体何の用があったのだ?」


「ああ、その件ですね」


男はほっと胸を撫で下ろした。


「お疑いいただくようなことはございません。私は土地管理という仕事柄、時折、土地所有者の戸籍を改めることがあります。戸籍庫を訪れた日、私は自分が担当する土地所有者の経歴を確認する必要がありました。それで、戸籍庫を訪れたのです」


それは、戸部の役人であれば不自然でもなんでもない理由と思えた。


「そうだったのか

その際に、同じ室内に殺された蓮照がいたはずだが、彼の様子について覚えていることはあるか?」



「いえ、何も。実のところ私と蓮照は、同じ戸部の所属という以外に、接点はほとんどありませんでした。

彼も私も、あまり他人と関わる事に興味を持たない性格でしたから。」


辰羅はキッパリといった。


「そうか。

 _もう一つ、犯行があった時間帯、お前はどこで何をしていた?

それを証明できる者はいるか?」


摂政は、今度は彼を疑うような、突っ込んだ質問をしてきた。


すると男は、少し動揺しているのか、懐から手ぬぐいを出して、額の汗を拭った。

拭ったその手は、彼の“左手”であった。


「はい、私は犯行があったとされる日、同僚とともに夜十時過ぎから、町に出て宴会に参加しておりました。そこから夜通し同僚たちと飲み明かしていましたので。同僚に聞いていただければ証人になっていただけると思います。」


「そうだったのか」


摂政は少しだけ目を見開いた。


「時間を取らせてしまいすまなかったな。あれだけの凄惨な殺人事件が起きていながら、犯人は巧妙に手がかりを隠している。我々や刑部の役人の捜査も行き詰まっているのだ」


摂政はそう言って肩を落としてみせた。


「何か他に気がついたことがあれば、教えてもらいたい」


「はい。私も犯人が逮捕されることを願っております。あの事件は残忍極まりない。少しでも力になれるよう協力させていただきます」


そう言うと、摂政たちは立ち上がって、部屋から去ろうとした。

しかし、戸口のところで若い小柄な身なりをした従者が声を上げる。


「あれ? これはあなたが所持していたものでしょうか」


摂政に同行して様子を伺っていた翠玄が、辰羅に声をかけた。手には小さな携帯用の手帳のようなものを持っている。


「ああ、すみません。この部屋に入る際に落としたようです」


辰羅はそう言って、差し出された手帳を"左手"で受け取った。


** *


その後、翠玄たちは念のため、辰羅が事件発生時に宴会を開いていたという、彼の同僚からも話を聞きに行った。当日の辰羅の様子を聞くと、同僚たちはこんなことを言い出した。


「はい。確かにあの日、辰羅と我々は間違いなく夜十時頃から夜通し宴会をしておりました」


辰羅たちに犯行時間帯の犯行は無理だということは、宴会参加者たちが証明した。


「しかし、正確にいうと、彼は少し遅れて登場したのです」


「_遅刻した?

 それはどのくらいですか?」


すかさず翠玄は食いついた。


「そこまで長くは待ちませんでしたよ。あいつは当日の昼頃から外出していて、会場には一人で合流してきました。先に我々で始めていたので気になりませんでしたけれど」


「そうそう、確かに。彼は急いできた様子だったから、なんだか服装も乱れていました」


別の役人が口を挟んだ。


(服装が乱れていた。)


同僚の一言に、翠玄はなにか引っかかるものがあった。


** *


辰羅やその同僚たちへ聞き込みを行った帰りがけ、摂政様が口を開いた


「やはり、辰羅は左利きであったな。翠玄が差し出した手帳を受け取ったとき。そして、彼が額の汗を拭ったとき。どちらも彼は左手を用いていた。」


「はい。たとえ利き手を矯正されたとしても、一部の作業は本来の利き手が出るようですね。」


翠玄が指摘した通り、左利きの者が右利きに矯正される際、全ての動作が右に矯正されるわけではない。表向きは矯正されるものの、彼のように一部の動作や仕草に元の利き手が現れることがある。


「要注意人物であることは間違いないのだが、彼には犯行時に別の場所にいた証明があったようだ。」


摂政は苦虫を噛んだような顔をする。


「目撃者からの情報によると、犯行時刻は深夜十時以降。

でもその時間帯、彼は同僚と宴会を開いていた」


「他の手がかりがあるとすれば、彼は厳密に言えば宴会を少し遅刻してきたこと、そして、その際の服装がいつもより乱れていたことくらいか。」


同行していた蒼玄も続けた。

翠玄は再び考え始めた。


「そういえば、今朝方辰羅の元を訪ねていった際も、なんだか彼の服装はぎこちない感じがいたしませんでしたか?」


「ぎこちない?」


「はい、なんだか。他の官吏たちが身につけているのと比べると、なんだか少し違和感があるというか」


考えながら、翠玄はハッと閃いた。


「なるほど、なんだか閃いたような気がいたします。

 私はもう一度、調べたいことがありますのでここで失礼します。」


そう言うと、翠玄は一人立ち去ってしまった。

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