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後宮の亀仙女 -怪異解決簿-  完全記憶能力をもつ主人公が、宮廷内の謎や事件を解決します  作者: 秋名はる
第一章

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第三十話 翠玄の兄‐蒼玄‐

数日後、摂政は翠玄に呼び出された。なんでも捜査に進展があったらしい。しかし、指定された場所は翠玄が住まう宮でも、殺害現場でもない刑部のある一室だった。摂政は訝しみながらも指定された場所を訪ねる。案内された建屋の戸を開けた先には、驚くべき光景が広がっていた。


「_翠玄、一体何をしているのだ!」


摂政は思わず叫んだ。


翠玄は、部屋の奥に張り巡らされた赤い蜘蛛の巣状の紐に、逆さにくくりつけられていた。まるで、それはあの事件の被害者と全く同じ光景に思える_。


唯一異なる点は、括りつけられた翠玄はまだ生きていて、摂政にこう答えたことだった。


「摂政様、やっといらっしゃいましたか」


「翠玄、お前、どうしてそんな有様に」


「ああ、これですか」


翠玄は逆さ吊りになったまま呑気に答える。


「あの後、私なりに色々調査していたのですが、ちょっと気になることがあって。事件の様子を再現してみました」


「ど、どうやってこれを⁉︎」


摂政が疑問を投げかけると、部屋の奥からもう一人、見慣れない人物が現れた。


「摂政殿下、お初にお目にかかります。私は翠玄の兄、蒼玄(そうげん)と申します」


そう言って恭しく拱手をしてきた男は、翠玄の兄を名乗った。背丈は高く、眉目秀麗な若者に見えるが、翠玄とは全然似ていない。


「翠玄に兄がいるとは初耳だな」


突然現れたこの男に、摂政は警戒心を顕にする。


「今回の事件ですが、実は刑部より命令があり、私が担当させていただくこととなりました。偶然にも、数日前に妹の翠玄から事件の捜査をする旨を相談されていまして。私が上官に願い出て、捜査に協力することとなったのです」


蒼玄はそう言って、馴れ馴れしく摂政にすり寄る。一見人当たりの良い印象を受けるが、その目つきはどこか怪しげで、摂政は信用ならない印象を受けた。


「お前たち二人で、この異様な試みを行ったということか?」


摂政は逆さまになった翠玄の事を指さして追求した。


「はい。実は我が一族は古くからの刑部官吏の家系なのです。

つい先日まで、刑部の職務で遠征に出ていたのですが、ちょうど朝廷へ帰還したところでございました。

妹からのたっての依頼とあれば、私も血が騒ぐと申しまして」


確かに、蒼玄は興奮した表情で、翠玄が貼りつけにされているのを眺めていた。まるでそれは、翠玄が初めて殺害現場を目にしたときの反応を思い起こさせる。


「_似たものどうしということか…」


改めて翠玄を見やれば、翠玄もされるままになっている。たとえ兄妹だからといっても、実の妹を貼り付けにして笑っている兄とは一体何なのだろう。なんだか納得がいかない。


「とにかく、まずはその有り様をどうにかしろ。

話はそれからだ。」


摂政は、おもむろに前に進み出て、翠玄を貼り付けにしていた紐を解きながら言った。


「それで、殺人の真似事までして、何か分かったことが?」


「もちろん、色々面白いことがわかりましたよ。」


貼り付けの状態から帰還した翠玄は自信ありげにいった。


「そのまえに、まずは私のほうで刑部で調査した情報を持ってまいりましたので、それを報告させていただきます」


蒼玄が声を上げた。


「まず、犯行が行われた時刻についてです。犯行時間帯は、事件前日の夜十時以降から翌朝早朝と考えられます。戸部の役人全員に話を聞いたところ、犯行前夜の十時ごろに、遅帰りをした役人数人が、倉庫の前で蓮照の姿を目撃していました。」


「そうか。犯行時刻が割り出せれば、容疑者も絞り込めそうだな。」


ただ、と蒼玄はさらに続ける。


「それ以降、戸部の役人は、蓮照を残して全員退勤したということです。警備のものにも話を聞きましたが、犯行時間帯の不審人物の目撃情報や、不審な行動は目撃されませんでした。」


それを聞いて摂政は渋い顔をする。



「また、被害者の交友関係なども調べたのですが、被害者は真面目で寡黙な性格。交友関係はほとんどないとのことでした。特に勤務態度や素行に問題は無く、恨みを買うような人物とは思えません。」


「なかなか有力な手がかりには結びつかないな。」


 摂政は腕を組んだ。


「ただ、先ほど遺体の状況を再現してみて、犯人の特徴について、いくつか興味深いことがわかりましたよ。」


そばで聞いていた翠玄が声を上げた。


「被害者を殺害し、現場にあの異様な文様を作り上げた犯人は、

_左利きである可能性が高いです」


「左利き?」


「はい。まず、被害者の後頭部を殴打した打撲痕。これは被害者の左側の後頭部に残っていました。犯人は何らかの鈍器を手にし、左手で左側から殴りつけたのです」


摂政は目を見開いた。


「次に、現場に残されていた蜘蛛の巣状の模様です。これらの結び目は、全て左側に紐が来るように結ばれていました。そして、その縄を切った跡。これも、左側から右にかけて切り口ができている。これは犯人が何か刃物を左手に取って、紐を切断したからだと思います」


「なるほど」


「このように、一連の作業が統一的に行われていることから、犯人は左利きの単独犯である可能性が高いですね」


翠玄は言いながら頷いた。


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