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後宮の亀仙女 -怪異解決簿-  完全記憶能力をもつ主人公が、宮廷内の謎や事件を解決します  作者: 秋名はる
第一章

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第二話 陽春宮の宴


翠玄はその日の晩、金糸髪の青年と従者に付き添われて、後宮の陽春宮(ようしゅんきゅう)へ向かっていた。この時、翠玄はなぜか一緒に来ていた従者と同じような官吏の服を着せられ、長い髪を隠して男装させられていた。


やけに小柄な官吏がぎこちない足取りで二人の後を追って歩く様子を見て、行き交う何人かが不審そうに首をかしげる。


「旦那様、私に男装などさせて、一体何が始まるというのです?」


翠玄が小声で尋ねると、青年は苦笑した。

彼は当初から一貫して、翠玄に名を名乗らなかった。

仕方なく、翠玄は彼らを旦那様と呼ぶことにする。


「今にわかる。すまないが、私の身分では女人をむやみに傍に置くわけにはいかないのだ。かといって下働きのままでは、お前の行動が制限されるだろうからね」


「はあ……」


(胡散臭いやつだ。)と翠玄は嘆いた。


先程。後で事情を説明すると言っていたくせに、未だろくに説明もされていない。

理由もわからぬまま、翠玄はただ彼についていくしかなかった。


会場へと入ると、青年は他の官吏や側近たちを差し置いて、さらに上座──皇帝の近親者が座るはずの席に、当然のように腰を下ろした。そしてその後方に、翠玄と従者が並んで座る形になる。



しばらくして会場が静まり返ると、中央の壇上に見目麗しい若い女性が現れ、皇帝の御前に進み出た。

見覚えのない妃嬪だったが、それもそのはず。


「今宵は、新しい妃を後宮に迎えるためのお披露目の宴が催される」


座って落ち着いたところで、青年がようやく口を開いた。


「今宵、陛下は新たに寵妃を迎えられることとなった。相手は南部の大領主の愛娘、芙蓉妃(ふようひ)だ」


青年は声を潜める。


「実は先日、ある奇怪な事件が起こった

妃が宮入して間もない頃、妃のもとに脅迫文が届いたのだ」


「脅迫文……?」


「そうだ。」


男は続けた。


「文にはこう書かれていた。

『吉日相見、取汝性命、以贖吾辱』──来る吉日、ここで相まみえ、お前の命をもって我が辱めを贖わせる、と」


翠玄は息を呑んだ。随分な言いようだ。まるで、妃に対して強い恨みを持っているような文面である。


「吉日というのは……」


「おそらく、今宵のこの宴のことだろうな」


青年は頷いた。


「実を言えば、以前から彼女の周りでは奇怪な事件が続いていたのそうだ_。」



それは、芙蓉妃が最初に陽春宮に上がったその日にまで遡る_。


芙蓉妃と使用人たちは彼らの新たな居城となる陽春宮へ入った。彼女の居室を整え、実家から運んできた衣服や調度品を運び入れていた時のことだ。


私用品を整理していた侍女が、奇妙なものを見つけた。それは枯れた鬼灯の枝にくくりつけられた手紙。開くと、中にはこう書かれていた。


『我求雪此辱ーー我、ここに辱めの償いを求む』


まるで、芙蓉妃の縁談を怨恨しているかのような文面だった。しかし当の芙蓉妃には、まったく身に覚えがないという。


彼女は寵妃となるためにその身を捧げ、南部では評判の深窓の姫として育った。男性との交際など、あって良いはずも無かった。


「妃の意向もあり、当初はこの件を隠匿した。

入宮前に不穏な噂が広まれば、宮中での生活にも影響があるやもしれぬ、とな」


彼は更に続けた。


「しかし怪異はさらに続いた。翌日には、死んだ雀の死骸が妃の寝床に捨て置かれていた。

そして今回の脅迫文だ」


「鬼灯に雀……」


翠玄はかつて書庫で読んだ知識を思い起こす。鬼灯は別名"鬼提灯"といって、生者や死者を冥界へ誘う植物。花言葉は裏切りや偽りを意味する。


そして雀は、本来は夫婦円満や家内安全を意味する鳥。その死骸を置くことは、家庭や夫婦の崩壊を暗示させるものだった。


「芙蓉妃もいよいよ蔑ろにはできないと判断し、我々に助力を求めてきたのだ」


「それで、回り回って私にお声がけを……?」


(あまりにも唐突ではないか?)


「そうだ、本件は内密に処理するように皇帝陛下からも直々にご命令がある。

 下手をすれば芙蓉妃の心証にも影響のあることだから、むやみに外部の衛士や役人を介入させるわけには行かなかったのだよ。」


男はそう言って翠玄の方を見つめる。


「_こんなことを申し上げるのは心苦しいのですが、この件は私の手に余ります。」


翠玄は戸惑いながらも訴えた。

単なる下働きである自分に、知りもしない妃の脅迫相手を探し出せというのか。無理がありすぎる。


「いや、私はこれでも、人を見る目は確かだと思っているのでね。」


青年はなんの自信があるのか、あっけらかんとして微笑んだ。


「お前には期待している。お前は目が良い。その瞳で、ぜひとも異変を読み解いてほしい」


有無を言わさぬ口調だった。やはり胡散臭い話だった。のこのことついてくるべきではなかったのだ。


翠玄は嘆いた。

とはいえ、今更逃げ帰るわけにもいかないだろう。



翠玄は諦めて会場内を見渡した。

会場には皇帝の家臣や側近など、大勢の人々が来場している。宮中の要人たちなので、ほとんどは見覚えのある顔だ。


だが給仕する使用人や下働きを含めると、警戒範囲はぐっと広がる。彼らは忙しなく会場を出入りし、宴の料理や酒を運び入れている最中だ。


さらに会場の内外には、この宮を警備する無数の警備兵が配備されている。これら全ての人物の動向を追うのは、さすがに無理があった。


「仕方がありません。

_では、改めて会場を確認したいので、少し席を外してもよろしいでしょうか?」


翠玄が問うと、青年は従者を同行させることを条件に、許可してくれた。


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