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後宮の亀仙女 -怪異解決簿-  完全記憶能力をもつ主人公が、宮廷内の謎や事件を解決します  作者: 秋名はる
第一章

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第二十話 竪穴に潜む魔物


「翠玄、事件だ。一緒に来てくれ」


ある日突然、摂政様が宮を訪れ、開口一番こんなことを言い出した。


「またですか……」


後宮に上がってからというもの、翠玄は度々事件に遭遇している。全く、摂政様も忙しいお方だ。


今回はどこへ連れて行かれるのだろう_。

と、いつものように男装の支度をしようと立ち上がったところ、摂政様がこう付け加えた。


「今回は、私とともに地方のある町へ出てもらいたい。

数日滞在するかもしれないから、その心づもりで荷物をまとめてほしい」


「遠征ですか!?」


いつものように宮廷の付近に出かけるものと思っていた翠玄は驚いた。


「ああ。今回は実際に現場視察してほしい。皇帝陛下からの言いつけだ」


(一体どんな事件なのだろう。)


訝しみながらも、翠玄は言われた通り荷物をまとめた。


宮廷を出て、そこから数人の側近や従者とともに馬車に乗り込む。その道中で、摂政様が今回の事件のあらましを説明してくれた。


「先日、村の者から、ある地下洞窟に魔物が出たと訴えがあったのだ」


「魔物ですか?」


「そう噂されている。これから訪れる街で、先日大規模な地震が起こったのだ。その際に付近の村の農地の一部が陥没して、地面に大穴が開いたらしい」


摂政様は続けた。


「その大穴には、地下深くに封印された魔物が潜んでいて、地震により封印から目覚めた魔物が、農民を食い殺してしまうとか」


「_ほう。それは確かに奇怪ですね」


翠玄は興味を引かれた。

翠玄は礼部の書庫の蔵書を片っ端から暗記している。その無数の蔵書の中には、科学や史実に関わるものだけではなく、神々や神獣、魔物や妖怪といった幻の生物たちのおとぎ話も多数含まれている。


翠玄はそういった幻の存在をこれまでに実際に遭遇したり、目にしたことはなかった。彼女自身は興味があって、何度かこれらの存在と遭遇できるように試みてみたことはあるのだが、実物を拝めるには至っていない。


それは単なる想像上の産物であり、実物は存在しないことを示しているのか。はたまた、人知を超えたものの存在は、平民の翠玄にはお目にかかれないだけなのか──。真意は明らかになっていない。


なので、こうして探している魔物が出没したと聞かされれば、行ってみたいという思いを抑えきれなかった。


摂政様とともに町を出てから、約一日荷馬車に揺られて郊外の村に向かう。

目的の村にたどり着く頃には、時刻は既に夕暮れ時になっていた。

山間の麓の村に着くと、そこにはすでに大勢の農民たちが集まっていて、翠玄たちを出迎えた。


「ここで魔物が出たと聞いた。詳しく話を伺いたい」


摂政の側近の一人、芥胡という男が、彼に代わって村人に尋ねた。村人たちは早速、翠玄たちを現場の洞窟に案内する。


その穴は村の郊外にあった。道中通りかかった民家の一部は、地震による影響なのか、一部家屋の屋根が傾いたり、古い小屋などは完全に崩壊している物もあった。それは地震の被害の大きさを物語っていた。


背後に山がそびえる雑木林の縁にやってくると、村人の言っていたように、突然地面に古井戸ほどの穴が開いているのが見えてきた。


「私めが、説明させていただきます」


現場につくと、老いた長老のような村人が進み出て、事件の概要を説明し始めた。


数日前、この地に地震が起こった。近くの民家や建物に大きな損害はない程度のものだったが、山の麓にある岸壁の一帯に、一部地面が陥没して大穴が空いてしまった。


穴自体はそこまで深いものではなく、付近の農民たちが中の様子を確かめようと中へ入っていったが、降りたきり誰も戻ってこない。


不審に思った別の村人も中に入るが、これも降りていったきり二度と戻ることはなかった。

村人たちは恐ろしがって、中にはきっと恐ろしい魔物が潜んでいるのだと噂をし始めた。

そして以降、誰も穴の様子を確かめたり、中に入ろうとする者はいない。


しかし流石に、洞窟や中に降りていった人たちをこのままにするわけにもいかず、役所に届け出て調査を依頼したとのことだった。


「なるほど。確かに、降りていった者たちが一人も戻ってこないのは不審だな。中で生きているのであれば、何らかの反応を示すだろう」


芥胡が頷いた。


「きっとこれは山に潜む恐ろしい魔物の仕業なのでございます」


長老が震える声で言った。


「入るだけで二度と戻ってこれないなど、尋常ではございません。恐ろしい妖魔が待ち構えていて、人々を丸呑みにしてしまうのです」


「でも、それであればなぜ大穴から出てこないのでしょう」


横で聞いていた翠玄が小首を傾げた。


「それほどの強大な妖魔であれば、出てきて村人を襲う可能性もあるのでは?」


翠玄がこっそりと恐ろしいことを言うので、村人は更に震え上がった。


「まずは中の状況を確かめるより方法はないようだな」


芥胡が提案した。


「朝廷より屈強な兵士を大勢動員して中に攻め込もう。どんなに恐ろしい妖魔であろうとも、我が兵にかかれば太刀打ちできないものはない」


「待ってください

軽々しく洞窟内に侵入するのは、危険かもしれませんよ」


翠玄は芥胡の提案を遮って声を上げた。


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