第十八話 模造本の罠
翌日、翠玄は眠そうな目をして、再び朝早くから書庫へとやってきた。
「胡相様、おられますか。昨日お伝えした、作戦の品をお持ちしましたよ」
翠玄はこの日、手にあるものを持っていた。
「翠玄、その手に持っている書籍は一体どうした」
「まあ、まずはご覧ください」
翠玄は手に持っていた書籍を胡相に手渡す。
「これは……盗まれた『故宮示意図』ではないか。一体どうやってこれを」
「いいえ、胡相様。よく見てください。これは盗まれた書籍そのものではありません」
「どういうことだ?」
「これは昨晩、私が寝ずに作業して完成させた、故宮示意図の精巧な模造本です」
「何? 模造本だと」
胡相は目を見開いた。
「はい。私は以前に故宮示意図を読んだことがあります。
当然、中に何と書かれていたか、内容を正確に覚えています。」
翠玄は得意げに微笑んだ。
「昨晩、私は礼部で執筆を担当している官吏を一人つかまえて、私の言った通りに書物の写しを書写してもらいました。
書籍の表紙はもちろん、使っている紙、中の地図の配置や細かい注釈まで、精巧に再現していますよ」
「ご覧ください」翠玄はそう言って書籍を広げて見せる。
「確かに……これは故宮示意図の内容そのものだ。見事だな」
胡相は感嘆の声を上げた。
「これで取り急ぎ、紛失した書籍は手元に戻りました。しかしこのままでは、本物が外部に流出したままです。そこで私はある作戦を考えたのです」
「ある作戦?」
「はい」
翠玄は声を潜めた。
「犯人は書庫の常連のはずです。入退記録に不審な点がなかったということは、以前から頻繁に出入りしていた者の犯行です」
「なるほど……」
「ならば犯人は、再び書庫を訪れる可能性が高い。
そこで私は、犯人を誘い出す罠を仕掛けようと思うのです」
翠玄の目が鋭く光った。
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早速、翠玄は書庫へ入っていくと、大声でこう言った。
「胡相様、この度は運がよかったですね。まさか紛失してしまった故宮示意図は、ちょうど内容に誤記があって改訂予定だったなんて」
翠玄は大声で嘯いた。
「ああ、本当だな」
胡相が応じる。
「紛失してしまったことは残念だが、あの書籍は内容も古く、持っていても価値のないものだった。こうして新しいものが完成したので、ちょうどよかったよ」
胡相はそう言うと、翠玄が作成した模造本を、もともと故宮示意図が保管されていた書棚に戻した。
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書庫の外に出て、胡相が小声で尋ねた。
「翠玄、これで本当に犯人が炙り出されるのだろうか」
「おそらくそのはずです」
これは翠玄が考案した作戦だった。
犯人が何か良からぬ企みのためにあの書物を盗んだのだとする。しかし盗んだ書物の内容が正確なものではなかったら──犯人は再びこの模造本を確認に来るはずだと思っていた。
「旧版に誤りがあると聞けば、犯人としても無視できないはずです。
もし間違った地図で強盗に入ったら、計画は失敗するかも知れない。だから犯人は必ず、新しい版を確認しに来るはずです」
「なるほど……」
胡相は感心したように頷いた。
「では、明日以降も私の言いつけどおりに対応をお願いしますね。」
そう言って、翠玄は眠い目をこすりながら書庫を後にしていった。




