第十五話 徳妃‐梨耀‐
以前に芙蓉妃が言っていたように、近々後宮内で皇后様主催の大規模な茶会が開かれることになっていた。
茶会には皇帝陛下が主賓として参列するほか、後宮中の貴妃や貴夫人たちが勢揃いする。普段は夜伽の御渡りでもない限り、陛下との接触する機会がない妃嬪たちにとって、これは一大チャンスであった。当然、彼女たちの気合の入れようは凄まじいものがあった。
翠玄も当然、茶会に招かれている。しかし、彼女は濱妃とはいえ色恋沙汰には関さない自負があるので、本人の反応は冷ややかだった。
茶会の招待が届いた日の晩のこと、雀玲が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「翠玄様、どうしましょう。せっかくの晴れ舞台なのに、まだ翠玄様にふさわしいよそ行きの装束を用意することができませんでした」
「そんなものは必要ないわよ。
別に着飾っていく必要もないし」
翠玄は後宮に登用されたものの、妃では無い自負があった。
「でも、これでも後宮の才人たるもの。
他の方々と比べて見劣りするようなことがあれば、張り合いがありませんよ」
「それは、そうなのだけれど_。」
言われて考え込む。
確かに、公式の行事に普段着で参列するのは礼を欠くだろうか。とはいえ、これといって何も準備していない翠玄である。今から礼服を仕立てたとして間に合うか─。
と翠玄が腕を組んで考えていた時、あることを思い出した。
「そういえば、芙蓉妃の一件で摂政様から授かった褒美の中に、絹一反がなかったかしら」
というわけで、この日翠玄は珍しくよそ行きの新品の一張羅を着て茶会に参列していた。
摂政様から下賜された絹一反は、薄い翡翠色をした布地に銀糸の刺繍の入った正絹だった。華美とは言えないが、目立つのが嫌いな翠玄にはぴったりの品だった。
茶会は後宮内にある皇后陛下の住まう鳳凰宮の敷地内で行われることとなっていた。
秦国の最上位の霊獣たる鳳凰を冠したその宮は、後宮内で最も広く格式高い宮である。鍼や柱、屋根瓦には惜しげもなく金塗りが施され、壁や門には色鮮やかに神話の壁画が描かれている。荘厳な雰囲気は見るものを圧倒させた。
会場となる大広間には、すでに大勢の妃嬪たちが集っていた。
誰もが皆、この日のために念入りに着飾り、その様は天界の女仙と見紛うばかりだった。そして、妃たちの華美な装いは、彼女たちの位が上がるにつれて顕著になってる。
会場入りした翠玄は早速雰囲気に圧倒されてしまう。慣れない場に気疲れするのは目に見えているので、目立たないよう他の才人や近しい身分の夫人たちに混じってさっさと席についた。
席についてほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間──。突然、背後から鋭い声が響いて、翠玄は肩をびくつかせた。
「あなたが、この間新しく後宮へ上がってきたという、翠玄ですね」
振り返れば、妖艶な顔つきの妃嬪が、背後に数人の侍女たちを連れて立っているのが目に入った。
連れていた侍女たちの顔から、彼女が徳妃・梨耀であると分かった。
玄鉄の艶やかな髪に、牡丹のように鮮やかな唇。豊満な体型から漂う艶やか雰囲気は、さすがは後宮の最高位、四夫人の一人と称えられるだけのことはある。
「まったく、あなたのような家柄も見栄えも良くない小娘が。
どうしてこのような不釣り合いな場所にいるのかしら。」
燐耀妃はのっけから、あからさまに翠玄を目の敵にしていた。
「梨耀様。お初にお目にかかります。翠玄と申します」
上級妃ということもあり、翠玄はとりあえず丁寧に礼をした。しかし、燐耀妃がどうして翠玄にこのような露骨な態度を取るのかは、いまいちよくわからない。
すると、燐耀妃は続けざまにこんなことを言い出した。




