モミジレディ
そして今俺たちは、不気味な森にいる。
空はあまり見えない
青紫色の大きな葉っぱの隙間から
微かな光が目に届く
ここの木は、みな独特な形をしていて
下の方はうねうねとネジ曲がっているけど、
上のほうはスーッとまっすぐ伸びている
そして上にいくほど幹が白い。
そして地面には猫草みたいな、
ツンツンとした草が茂っていて、この草からは仄かにオレンジ色の優しい光がこぼれていた。
「うわあ、めちゃ蚊みたいなのがいる」
手で払っても払っても付きまとう蚊もどきに、うんざりしながら言うと
「それはカーモという虫っス、刺されると卵を産み付けられるス、人間の体温だとスぐ孵化スるんで、刺されたら即お陀仏っス」
「えーーーー」
なにそのヤバいやつ、え、俺刺された?刺されてないよね?いや、刺されてたら死んでるんだっけ、あれ、俺、死ぬの?
……………
お母さん、お父さん、かん吉、
俺はみんなの住む世界とは違う世界で
蚊もどきに刺されて死ぬことになったよ…
骨の身ですら、そちらに帰れそうもない
モテるかもとか思ってアイス屋で働くんじゃなかったかな、でも新作でたら味見で食えるし
割引とかもあってさ、
そーいえば来月から俺の好きなこの時期限定のアイス
『モミジレデイ』がでるんだ、栗のアイスにほろ苦いモカのぺーストが合わさって、大人な雰囲気なんだけど突如として現れるダークチェリーがまるで子供が顔を出したようで、ふふふ…あ、ヨダレが
「えっと、ごめん、
お祈り?してるとこ悪いんスけど、
そろそろ行かないとやばいっス暗くなるス」
「あれ、俺なにしてたんだっけ」
「普通にわかんないス、なんか叫んだかと思ったら跪いて遠くを見てヨダレを垂らしてたっス、普通にキモかったっス」
「普通にひどい」
跪いてお祈りポーズをしてた俺はスクッと立ち上がる、群れる蚊、いやカーマだっけ。
え、死ねる
「なんでこんなにカーマがいるのに俺は生きているんですか?」
正直に聞いた、そう、神に問うように厳かに。
もしかしたら選ばれし戦士は刺されないのかもしれない。
「それはボクが障壁を張ってるからっスね」
「え」
そーゆーことは最初に言ってくれ!!!
「あと、カーマじゃなくてカーモっスね」
…………




