最後の高い声
〚ンア゙ぁアァ゙ア゙ぁアァ゙〛
聞いているだけで不安になる絶叫をあげながら、化け物は藻掻いていた。
「これが… 霊物… なんだよな?」
「そっスね」
〚ンア゙ぁアァ゙ア゙ァ゙ァ゙アァ゙〛
まるで青いオーロラが巻き付いているかのように霊物を拘束している。
これがミルキーの魔法、これが魔法か…
はじめて見る魔法の美しさに少し陶酔してしまった俺、
〚ア゙ぁアァ゙ア゙ぁアァ゙ア゙ァ゙ーーー〛
ひときわ大きくなった声に、現実へと連れ戻される。
「そろそろスね、トリプルルさんちょっと離れたほうがいいッス」
「ほえ」
倒れた状態から座り込んでた俺は、
カサカサと半ば這いずりながら距離をとる。
よく見ると、霊物の色がさっきよりも濃い藍色になっていて
そしてそれは…
〚ァーーー〛
霊物の最後の声は
それまでの憎しみに満ちたものではなく
物悲しげな
それでいて、解放されたかのような
そんな切なくなるほど、か細い
天に届くような高い声だった。
それを聴いた俺は、
なにか、よくわからないけど
胸にくるものがあった。
それがなにか、わからないけど
そう思ったんだ。
霊物を包んでいたオーロラのようなリボンは霧散し、
霊物のいた場所周辺には黒いタールのような染みができていた。
そう、
霊物はその形状を
このタールなような液体に変えた。
それが溶かされた故になのか、
潰された故になのか、
なにか違うものにされた故になのか…
魔法の知識もこの世界の知識もない俺にはわからなかったが、
霊物という脅威が去ったことに、ホッと安堵の息を吐く。
「ありがとうミルキー、ほんと死ぬかと思ったよ、ほんと助かった」
「いえ、間に合ってよかったス、焦ったッス」
ミルキーは少し疲れた顔になっていた、
汗もかいてるみたいで腕で拭っている。
やっぱ魔法を使うと疲れるのかな?
それとも走ってきたとか?
俺は心の中でもミルキーに感謝した。
今後はミルキー様!と呼んだほうがいいんじゃないか?
自分のことは敬称なしで呼んでくれって自己紹介したときに言われたけど、
やはり付けるべきでは!?
俺がもんもんと考えていると、
「なんでさっきの休憩場所から離れたんスか、まじ危ないッスよ!」
「え」
どうやらミルキーは離れるさい
休憩してる場所に障壁を貼っていて、
霊物が入ってこれないようにしてくれていたらしい…
「なななんで言ってくれないんだよ!」
「言ったっス〜、ただ今思うとトリプルルさんは物思いにふけてた気がしまス…もしかしたら聞こえてなかったんスかね」
「うわあああ」
俺的、よくある、あるある事情
なにか深く考え込んでると周囲の声とか聞こえなくなるやつーーー
俺は本日2度目の、がっくしからの地面突っ伏し体勢となった。
もうすでに、泥土まみれの身体だ
もういい、俺は大地とイチャイチャするんだあぁぁ
ミルキーが俺の肩を揺すりながら「気にする必要ないス、結構そーゆー人周りにいるっス、大丈夫ッス、オレの父もそんな感じだったんで慣れてるッス、心配ないス」
とかフォローなのかフォローじゃないのかよくわからない言葉をかけてくる。
ただ、次に出たセリフで
俺は急上昇した。
「朗報があるんスよ、この先で村らしきものが見えたんス」
ガバァッ!!
急に頭を上げた俺に、ビクッとしたミルキーだが、すぐに立て直し
「さあ、トリプルルさん行きましょう」
俺は片腕を掲げ、叫んだ。
「よーーーし!村へ出発だーー!」




