邪悪なもの
「はわ、はわわわわ」
俺の顔は今きっと、埴輪みたいになってる、
もしくはムンクの叫びみたいになってる!
こ、これは絶体絶命というのではなかろうか?!
「どどどどど、どう、どう」
馬をなだめる、よくわからないセリフが出てしまう。
そんな謎な言動をしてる俺を尻目に、
霊物の形容は変化していった…
歪に空いていた目のような
ふたつの穴からは、黒いタールのような
液体が流れ落ち、
その跡をチャックが上からひらくように
穴は大きくなっていく
その中は、
果実の柘榴を割ったときのような
ハッとするほどの鮮やかなルビー色で、
みっしりと老婆のような
黄色く黒ずむ、歪な歯が縦に生えており
そのふたつの穴はそれぞれ不規則に
ガチガチと歯を噛み締め
息を吐くたび、腐臭が拡がった。
「ひょええええーーーーー」
ややややべーーーーーー
てか目じゃなくて口だったの〜〜〜〜
しかもふたつあるの〜〜〜〜
俺は、もはやダメだ!と理解し走り出した。
ゼェハァ
ゼェハァ
〚ア゙ぁアァ゙〛
〚ア゙ぁアァ゙〛
後ろから…
死ぬ間際に、死なずにすむかもしれない可能性を見せられて、死に物狂いで這いずりながら出してる…
そんなうめき声がきこえる…
半透明で、樹木を貫通してたはずなのに
草木をかき分けるような…
ガサガサガサガサ…
という音もきこえる
それがどんどん自分に近くなってきていて
恐ろしくて
もう、恐ろしくて…
俺は後ろも見れず
ただひたすら、ただひたすら、
自分にとってのゴールという希望を胸に
ミルキーが去った方向へ走る、
走る、
走る、
〚ンア゙ぁアァ゙〛
「うわああああ」
お、俺はただの、
アイスクリームが好きなだけの
ただの異世界人なんですぅぅーー
食べてもおいしくないよ!!
ちょっとバニラ味かもしれないくらいだよ!
やべーーー美味そうじゃないか〜〜
「しぬしぬしぬ死ぬ!ミルキーーー!」
俺はもともと小鹿レベルに疲れていた足に
鞭打って走っていた。
もはや限界が近い…
ここまでか……
俺は膝カックンとなり転がった。
勢い余って転んだため、泥だらけになりながら回転しながら倒れる。
ゴツンッと幹に頭をぶつけた。
朦朧としながら、〝アレ〟が間近に来たのを察する。
嗅覚の鋭い俺には耐えられないほどの腐臭を吸いながら、
終わったな
と思った。
その時、
ボワッと膨張した空気が通り過ぎた、
つむっていた目をあわててあける
「はなれろ!邪悪なものめ!」
鋭い声が響く、
恐怖のあまり白黒に見えていた世界は
青のグラデーションで彩られていた。
瞬時、その人は見知らぬ人に見えた
その姿は淡い青のモヤを纏い
手からは燃え立つ青炎
指先から化け物までビームのように繋がった
その線上の空間は、多彩な青の世界となり、
リボンが舞うように色の層が変わる、
それに晒された化け物は、本来の色を
青色に侵食されながら拘束され、
もがいている。
その蒼の本流のなか
髪の赤が、その相反した色彩が、
孤高な神々しさを感じさせ
胸に 安堵、感動、歓喜、を抱かせた。
さながら、神の降臨を描いた名画のようだった。
しかし、その全てを台無しにする
「トリプルルさんー、大丈夫ッスか〜?」
というチャラい男の声を聞き、俺はがっくしと地面に突っ伏した。




