フワリ…
チュンチュン
チュンチュン
朝ですよ
「おはよー」
洞窟の入口のほうで何かしてたのか、向こうから歩いてこっちに来ながら「おはようございまス〜」と、ミルキーが言う。
俺たちは洞窟で一夜を過し、
俺は今、温泉の流れる音で目を覚ました。
そう、チュンチュンじゃなくて
ポトンポト…
サララ…シャララ…
が正解だな。
なぜか朝はチュンチュンだと、
染み付いている我ら日本人。
スズメなどいないのに、てかスズメって実際はもっと凄い声で鳴いたりするよね。
俺んちに住み着いてたあいつらは、
朝と夕方に、それはもう煩く
ジュッジユッ!ジュンジュン!ピヒょーー!
とか、凄いことになってた。
「今日こそは、村まで着くッス」
「うん、頑張ろぉ、ぉー」
うん、頑張ろう、頑張れ、俺!
だが、その前に朝風呂だーい
朝イチ温泉!サイコーーー
バシャーン!
………
「もう無理、足が小鹿……」
俺はプルプルとした足をズリズリしつつへたり込んだ。
「しかたないスね、ちょっとここにいてください、向こう見てくるッス」
と、ミルキーは行ってしまった。
「うう、情けない…これしきの坂で」
俺は不気味な白い木の、
その青紫色の大きな葉っぱから覗く
綺麗な青い空を見つめた。
いい天気だ。
現地点は温泉洞窟から、だいぶ山を登ってきたところだ。
ミルキーがいうには、村は中腹にあるんじゃないかとのこと。
そんなわけで、せっせと坂を登っている最中なのである。
「ミルキーは思ってたよりタフだよな、引きこもり魔術師かと思ってたのに…」
コテンとそばにある木に頭を預けて、現代アートのような森を眺めていると、
俺はふと気づいた。
なんかが、飛んでる。
向こうの木の間を、何かがフワンフワンと。
それなりに離れてはいるけど、視認できるくらいのところ。
「なんだろ、あれ」
俺は目に力を入れて、よくよく見る。
白い布を被ったような姿
二つ穴が空いてる
なんか透けてる
それは、ハロウィンの飾り付けなんかでよく見るタイプの、オバケに似ていた。
ただ、実物?はもっと不気味さがあって、
布は使い古されたような、錆なのか血の跡なのかわからないもので汚れているし、
フワリ… フワリ…
と宙を浮く動きは、致命傷を負った敗残兵のようであり、こと切れる前のあがきのようにも見えた。
理解すると同時に、身体は強張り、
背筋が冷えた。
たぶん、あれが、
きっと、あれが、
霊物だ。
俺の中で、警告音が鳴り響いた。




