セルフレジ恐怖症おじさん(笑える系)
今回の話は交通機関や公共の場では読まない方がいいかもしれません。腹筋崩壊覚悟してください
スーパーマルヨシで働く男性店員の三木は、セルフレジの前で立ち尽くす中年男性を見つけた。
作業服姿で、買い物カゴにはカップ麺と缶ビールが数本。レジに並ぶわけでもなく、ただ機械を前に仁王立ちしている。
(あれ…操作わからないのかな)
三木は声をかける。
「セルフレジ、初めてですか?」
おじさんはギロリと機械を見つめたまま、小声でつぶやく。
「……兄ちゃん、これ……間違えて触ったら爆発するんじゃないのか?」
「……え?」
三木は一瞬、耳を疑った。
おじさんは真剣そのものの表情で、画面のバーコード読み取り部分を指差す。
「ほら、この赤い光。レーザーだろ? こういうのって、映画だと触れたら警報鳴って天井から機関銃が降ってくるやつだ」
三木は吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「大丈夫です、それ、商品を読み取るだけの光ですから」
おじさんはカゴからカップ麺を取り出し、まるで時限爆弾を扱うかのように両手でそっと持った。
「よし……いくぞ……」
赤い光にバーコードを近づけた瞬間、ピッと短い音が鳴る。
「……っ!」
おじさんは反射的に身を引き、天井を見回した。
「ふぅ……よかった、機関銃は降りてこなかったな」
三木は苦笑しながらも、「ほら、大丈夫ですよ」と次の商品を促す。
だが、おじさんは缶ビールを手に取ると、またもや顔をこわばらせた。
「兄ちゃん……もしこれ、違うとこ当てちゃったら……店ごと爆発するかもしれん」
「爆発しません!」
ついに三木は笑いをこらえきれず、声をあげて突っ込んだ。
おじさんはそんな様子も気にせず、眉間にシワを寄せたまま慎重にスキャンを続けている。
まるで自分がスーパーマルヨシの命運を握っているかのように——。
おじさんは全商品をスキャンし終え、会計も無事終了。
「ほらな、俺だってやればできるんだ」
胸を張り、レシートを握りしめて出口へ向かう。
しかし——。
ゲートを通過した瞬間、ピーピーピーッと甲高い警報音が店内に響き渡った。
「しまったぁぁーーー!!」
おじさんは両手を頭に当て、天を仰いで叫んだ。
「俺、店爆発させちゃうよぉぉぉ!!」
入り口付近の客たちは、突然の大声に固まりつつも、肩を震わせて笑いをこらえている。
中には口元を押さえ、涙目で俯く女性客の姿もあった。
三木は慌てて駆け寄り、「違います!爆発しません!ただ会計し忘れが……!」と説明するが、
おじさんは「もう逃げろ!全員避難だ!」とさらに大声を張り上げる。
客たちの困惑と笑いが入り混じる中、スーパーマルヨシは一時的にカオスと化していた。
三木は額に手を当て、苦笑いを浮かべながらおじさんに向き直った。
「だから、爆発なんてしませんって。これ、会計が漏れてただけです」
未会計の商品を手に取り、レジに案内する三木。
おじさんはバツが悪そうに頬をかきながら、素直に会計を済ませた。
「いやぁ……買い物なんて普段しないもんでねぇ。
セルフレジって、まるで爆弾処理班の仕事みたいだと思っちゃって……」
そう言って、レシートを受け取るとペコリと頭を下げ、今度こそ静かに出口へ向かった。
通路の端では、まだ肩を震わせている客たちの姿があった。
三木はため息をつきながらも、口元にはうっすら笑みを浮かべていた。