死神ドローン(怖い系)
颯斗は登録者十万超えのドッキリ系YouTuberだ。過激な企画と派手な編集で人気を集めてきたが、最近は再生数が頭打ちになり、伸び悩んでいた。
「もっとインパクトが必要だ」
そう考えた颯斗は、友人の翔と共に新たなネタを練り上げた。
その夜、ふたりは人影の少ない公園に立っていた。
颯斗の手元で小型ドローンのローターが低く唸り、黒いローブと骸骨マスクを吊り下げた姿が浮かび上がる。
風に煽られたローブがひらめき、街灯の光が骸骨の空洞の眼窩に反射して一瞬だけ光る。
まるで夜空から舞い降りる死神のようだった。
「よし…撮影開始」
ゴーグル越しにドローンのカメラ映像を確認しながら、颯斗はゆっくりと高度を上げた。
まず、公園脇の歩道をランニングしていた若い女性が、視界の端に死神の影を捉えた瞬間、甲高い悲鳴をあげて全力で逃げ出した。
続いて、コンビニ袋を下げた仕事帰りのサラリーマンが足を止め、口をぽかんと開けたまま後ずさる。
「な、なんだ…?!」
驚きで手からポケットティッシュを落としてしまい、拾うことも忘れて後退していく。
颯斗と翔は、物陰に身を潜めながらモニター越しにその様子を見て、声を押し殺して笑った。
「やべぇ、反応バラバラで面白すぎ!」
「これ絶対バズるって!」
ドローンは黒い影を揺らしながら、ゆっくりと次のターゲットへと向かっていった。
一方で、冷静な通行人もいた。
「あれ…ドローンか?」とつぶやき、スマホを構えて撮影を始める者、さらには画面越しに見て「これ颯斗くんの動画じゃない!?」と興奮して近寄ってくる若者まで現れた。
颯斗と翔は、物陰に身を潜めながらモニター越しにその様子を見て、声を押し殺して笑った。
「やべぇ、反応バラバラで面白すぎ!」
「これ絶対バズるって!」
ドローンは黒い影を揺らしながら、ゆっくりと次のターゲットへと向かっていった。
「あのお爺さんビビらせようぜ!」
「おいおい高齢者はやめとけって。」
公園の外を歩いて杖をついたお爺さんを驚かすのは命の危険もあり、断念したが翔が次のターゲットを物色していると、不意にモニターの隅に、ゆらりと動く黒い影が映り込んだ。
「おい颯斗、あれ……俺らのドローン?」
「は? 違うって。俺、操縦してねーし」
ローブのようなものを纏った影は、ゆっくりとカメラの中央へと滲み出るように迫ってくる。
風の音とローター音しか響かないはずの夜に、ザッ、ザッ、と砂利を踏みしめるような雑音が混じる。
颯斗が焦って高度を変えようとするが、ドローンの視界から影は消えない。
いや、むしろ距離が縮まっている。
「ちょ、待て待て……これマジで誰だよ」
「演者の知り合い呼んだ?」
「呼んでねえよ!」
影は公園の中心から外れることなく、一直線に二人の物陰へと向かってきた。
「おい…あれもドローンか?」翔が声を潜めて聞く。
しかし颯斗は首を振るだけで、視線を逸らせなかった。
ザッ…ザッ…ザッ…
一定の間隔で響く雑音が近づく。
街灯の下に差し掛かった瞬間、その姿がはっきりと見えた。
黒いローブ、骸骨の顔…だが、吊り下げ用のワイヤーもプロペラも見えない。
「な、なんだよあれ…」
返事をする暇もなく、影は一気に距離を詰めた。
「うわあああああああっ!」
「やめろォォォ!」
闇の中に、二人の絶叫が吸い込まれていく。
スマホのライトが転がり、かすかに骸骨の眼窩が赤く光った。
――翌朝。
地元ニュースは、公園で配信機材やスマホが残されたまま行方不明になった二人組YouTuberの件を報じていた。
画面の端には、事件直前に視聴者が撮影したという動画の一部が映し出される。
そこには、街灯の下をゆらゆらと漂う黒い影が、レンズ越しにじっとこちらを見つめていた。
終わり。