演劇の中の演劇(笑える系)
とある社会人で構成される市民劇団。主宰の佐伯は、手元のノートを軽く閉じて皆を見回す。
「さて、次の公演なんだけど、何かテーマ案ある?」
すぐさま白井が手を挙げた。
「いっそさ、この劇団そのものを題材にしちゃおうよ!」
「自分たちを芝居に?」古賀が眉をひそめる。
「なんか手抜き感ない?」
「手抜きじゃないよ。むしろリアルで面白くなると思う」成瀬は肩をすくめた。
裏方兼役者の原田も頷く。
「裏方の俺にも出番あるってことだろ? それなら賛成だ」
「よし、決まりだな」佐伯は笑みを浮かべた。「この会議風景もそのまま芝居に入れよう」
「おいおい、今この会話も入れる気だろ」古賀が突っ込むと、全員が顔を見合わせて笑った。
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そしていよいよ公演当日、開演される劇のタイトルは「演劇の中の演劇」である。
(稽古場。丸テーブルを囲んで5人が座っている)
佐伯「さて、次の公演、どうしようか」
白井「いっそ、この劇団そのものを題材にしない?」
古賀「自分たちを演じるってこと?」
白井「そう。今してるこの会話もそのまま台本に」
成瀬「リアル感あるな。裏方のドタバタも全部見せられるし」
原田「俺にもセリフがあるなら賛成」
佐伯「じゃあ決まり。この会話も舞台に出そう」
(暗転。照明が点き、舞台上。全員運動着姿)
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佐伯「声出し行くぞ! あえいうえおあお!」
全員「あえいうえおあおー!」
成瀬「古賀、もっと腹から!」
古賀「あえいうえおあおぉぉ!」
白井「必死すぎて笑える!」
(全員で柔軟体操。前屈や開脚)
原田「はい、開脚~。おい、机倒すなよ。本番用だぞ」
古賀「柔軟と机、関係ないだろ!」
(台本を手に取る)
全員「我々は劇団である!」
白井「……これ、客どういう顔するかな」
佐伯「笑ってくれれば勝ち!」
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(机や椅子を運び込む)
原田「小道具セット完了!」
成瀬「背景パネル、あと5センチ右!」
古賀「照明もOK!」
白井「客席の視線チェックよし!」
佐伯「全員、配置について!」
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(全員、舞台中央で円陣)
佐伯「これで準備は整った!」
全員「いよいよ本番だ!」
(暗転。効果音:幕が上がる音)
―― 終 ――
―― 数日後。稽古場。
公演から数日後、稽古場は妙な熱気に包まれていた。
佐伯がスマートフォンを片手に大声をあげる。
「おい! 昨日の公演の動画、再生回数がもう百万超えてるぞ!」
白井は目を丸くし、古賀は信じられないといった表情を浮かべる。
「“裏側まで全部見せる斬新すぎる舞台”ってSNSでバズってる!」
成瀬はパソコンを開き、ニュース記事を読み上げた。
「『若手劇団の奇策が演劇界に新風』だってよ!」
原田は椅子にもたれかかりながら、にやりと笑った。
「これで俺たち、一躍有名劇団だな」
5人は顔を見合わせ、同時に拳を突き上げる。
こうして彼らは、まさかの形で名を広めることになったのだった。
終わり