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03月05日




「お姉ちゃん」

 そう呼ばれて振り返った先にいたのは、御年47歳になる会社員の父だった。

 父は普段、私のことをお姉ちゃんと呼ぶ。理由はもちろん、私が和也(かずや)の姉だから。



 私に美晴(みはる)という名前を付けたのは、どうやら父らしい。見ているだけで晴れ晴れとした気分になれるような輝いた人であってほしいという、父の強い願望が由来だと母は言っていた。


 しかも何と父は、神様が、まだ私を男にするか女にするかどうかさえも定められていなかった頃から、生まれた子の名は美晴にすると決めていたというから、さらに驚きだ。

 あまりにスピーディーな行動に、初めてその話を聞いたとき、私は思わず、男の子だったらどうするつもりだったのか、と、問い返してしまった。




 しかし父が私を美晴と呼んだことは、全く記憶にない。自分で名付けておいたくせに、全く……矛盾している。

 お母さんのことは「美樹(みき)」、和也のことは「和也」って名前で呼ぶくせに、私のことは本当に「お姉ちゃん」としか呼ばないものだから……実を言うと、たまに父が私の名前は忘れてしまったんじゃないかと心配になるときもなくはない。







「はい、お姉ちゃん。郵便物」

 ほら、またお姉ちゃんって言った。

 少し顔をしかめながら、封筒を手にする。送り主はなんと数日前に受験した国立大学からだった。


 塾が出した予想合格判定はギリギリ50パーセント。直前まで志望校の変更を勧められたが、どうしても通いたくてそれを押し切って受験した大学。


 ゆっくりと封を切り、中身を取り出す。まるで割れ物を触るかのように、とにかく慎重に慎重に取り出していく。


 目に入ってきたのは白い紙に印刷された、合格の二文字。


「やったぁ!!」

「良かったわね、美晴」

「すごいよ、姉ちゃん」


 家族が次々にお祝いの言葉を口にする中、ふと目の前に立っている父と視線がぶつかった。

 この大学は、父の母校でもあった。


「美晴、おめでとう」

「……ありがとう」


 手にしていた合格通知よりも、その後食べたお祝いのケーキよりも、何よりも父のその一言が嬉しかったのは、言うまでもない。

 合格通知を手にした03月05日は、私の中で忘れられない記念日となった。






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