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第6話

 4月も下旬に差し掛かり、そろそろゴールデンウィークという大型連休が迫っていることを学生や会社員が意識し始める、とある土曜日。

 レトルトカレーで簡単に昼食を済ませた勇気は自分の部屋に戻ると、若干緊張した面持ちで小学生から使っている勉強机の椅子に腰を下ろし、おっかなびっくりといった感じで机に置かれたノートパソコンへと手を伸ばす。そしてそんな彼の姿を、部屋の中をフヨフヨと漂うピョン吉が眺めている。

 そのノートパソコンは元々勇気の私物だったわけではなく、数日前にピョン吉を介して“怪人対策局”から送られてきたものだ。模様も無いシンプルな黒という無難なデザインをしたそれは特に高級品というわけでもなく、おそらく数万円もあれば家電量販店で普通に買えるような代物だが、初めて自分のパソコンというものを手にした勇気にとっては感慨深いものがあった。


「にしても、意外だピョン。今の子供って、パソコンなんて当たり前に持ってるものだと思ってたピョン」

「母さんのパソコンは何回か触ったことあるけど、ネットも動画もスマホで見られるからね」

「ゲームとかやらないピョン?」

「ゲームはテレビゲーム派だから」


 そんな他愛も無い会話を交わしながら、勇気はデスクトップに貼られたウェブ会議用アプリのアイコンをクリックしてそれを立ち上げた。ネットの接続やパソコンの設定は仕事でパソコンを使う母親に手伝ってもらい、事前に動作確認も済ませているためスムーズだ。

 とはいえ、今回の研修は勇気にとって初めてとなる“社会人としての仕事”だ。開始となる時間が近づくにつれ緊張感が増していくのを、勇気は少し離れた場所から眺めるような感じで自覚する。

 チラリ、とパソコンの画面にある時計に目を遣る。

 事前に伝えられていた時間まで後1分だと確認すると、勇気はアプリ内のメールボックスを開き、そこから今回の会議の“会場”となるページへと移動する。


「おっ、映った」

「とりあえず、これで参加状態になったピョン」


 “会場”に到着すると、パソコンの画面が4つの映像に分割された。

 メインとなるのは、おそらくどこかの会議室と思われる映像。白い壁に灰色のカーペットが敷かれた床に、プロジェクターから投影される映像を映し出すスクリーンが画面の大半を占めるそれが、今回の研修における講師となる人物に充てられたものだろう。

 そして残りの3つが、今回の研修における“生徒”に充てられたものだ。1つは勇気のものであり、ちょっとした身じろぎもリアルタイムで反映されるその映像に、勇気は無意識に背筋を伸ばして佇まいを正す。

 つまり残りの2つが、勇気以外の“生徒”ということだろう。今回の研修はヒーローになったばかりの新人向けに行われるものなので、所謂この2人が勇気にとっての“同期”ということになる。


『おいおい、まだ子供じゃねぇか。そんなに人材不足なのか?』


 1人は、褐色の肌に明るい金髪をした20代前半くらいの男。どちらも元々の色ではなく日焼けサロンとブリーチによる人工的なものであり、耳のピアスなどからヤンチャそうな印象を受ける。


『ふむ、特別体を鍛えているようには見えないが……』


 もう1人は、画面越しでも分かるほどに筋骨隆々な体つきをした30代前半の男。先程の男のようにあからさまに侮るような表情ではないものの、どう見ても普通の子供にしか見えない勇気を値踏みするかのような目をしている。

 と、そんな男の顔を何と無しに眺めていた勇気が、無意識に感じていた既視感の正体に気が付いた。


「あの、もしかして、この前のオリンピックに出てた――」

『な、驚いたろ? ()()から言われて渋々参加した研修で、まさかこんな有名人に出くわすなんてな』


 勇気の問い掛けに答えたのは、何故か本人ではなくもう1人の金髪の男だった。本人はそんな2人の遣り取りに『いやぁ……』とどこか照れた様子で頭を掻いている。

 その男は勇気の言う通り、前回のオリンピックにハンマー投げの代表選手として出場し、見事銀メダルを獲得したスポーツ選手だった。昨年末に現役引退を発表したことまでは知っているが、まさかそんな人物と一緒に同期の新人ヒーローとして研修を受けることになるとは、と勇気は先程までとは違う意味での緊張感に襲われる。


『時間になりましたね。それじゃ、そろそろ始めさせて頂きます』


 と、スピーカーから落ち着いた女性の声が聞こえたかと思うと、画面の大半を占めていたメインの映像に1人の女性が姿を現した。勇気の母親より大分年上の上品なマダムといった感じの見た目に、勇気は広瀬や三澤のような対策局に勤める事務方の人間だと心の中で判断する。

 しかしその女性に対し、金髪の男が驚いたように目を見開いた。


『……まさか、本物の“ラウンズ・ピンク”か?』

『あら、知っているのですね』

『随分前から見なくなったとは思ってたが、まさか新人研修の講師をしてるとはな』

「……ねぇ、ひょっとして有名な人?」


 金髪の男の雰囲気から只者ではなさそうだとは察したものの、生憎そちら方面の知識は持っていない勇気は、本人に尋ねるのは失礼と思って自分のすぐ傍に漂っていたピョン吉に小声で尋ねた。


「対策局を立ち上げたときからヒーローだった“ファイブ・ラウンズ”の一員だピョン。今はほとんど前線に出ることは無いけど、そのときの経験を活かして後進の育成に携わってるピョン」

「へぇ、そうなんだ」


 勇気とピョン吉がそんな会話を交わす間に準備が整ったようで、メインの映像にあるスクリーンにはプレゼンで使われるようなレジュメが投影されていた。


『それじゃ今から、新人ヒーローとしてこれから活躍する皆さん向けの研修を始めさせて頂きます。参加者の方に先に言われてしまいましたが、本日講師を担当致します、元“ファイブ・ラウンズ”の一員で“ラウンズ・ピンク”といいます。どうぞよろしくお願いしますね』


 スピーカー越しでも聞き取りやすい声色と早さで自己紹介し、ヒーローとしても年齢としても先輩であることを感じさせない丁寧な動作で講師の女性が頭を下げた。しかしその名乗りは(こういう場に初めて参加する勇気でも分かるほどに)一般的なそれとはかけ離れているし、その後に本名を付け加えるような雰囲気も無い。

 しかし事前にピョン吉から事情を聞いていた勇気にとっては、特に困惑するような場面ではなかった。

 ヒーローとして活動する者は正式な場においても本名を明かさないのが通例であり、何なら素顔を隠すことも許されている。勇気もピョン吉から仮面を付けるかどうか訊かれたが、単なる一般人である自分が素顔を晒して困る理由は無いと素顔で参加することにしたのである。


 ――むしろ元スポーツ選手とかなら仮面を付けた方が良いと思うけど……。


『さてと、今回は本当に基本的なことから学ぶための研修なので、まずは対策局についての簡単な説明から始めさせて頂きます』


 講師がそう前振りしながら手元のパソコンを操作すると、スクリーンにでかでかと“怪人対策局の仕組み”とタイトルの書かれたページが表示された。そのフォントが絶妙なダサさを醸し出しているが、勇気はそれを口にすることなく黙っている。


『今から30年ほど前に、内閣府の組織として“怪人対策局”が設立されました。怪人による被害が社会問題化し、怪人専門に対処する組織が本格的に必要と判断されたためです』


 ちなみに当初は警察組織の1つ、もしくは自衛隊の一部隊としての運用も検討されていたらしい。しかし最終的に内閣府の組織としたのは、その両方に対して外部協力者という立ち位置を取ることで臨機応変に立ち回ることを第一に考えたためだという。


『皆さんもご存知の通り、我々ヒーローは“妖精”と呼ばれる存在から認められる、あるいは既にヒーローとなった方の仲間となることで能力を授かります。正確にはこの妖精が怪人対策局に所属しており、私も含めたヒーローは妖精を介して対策局から依頼される案件を請け負う“外部委託者”という扱いになります』

『えーっと、つまり俺達は対策局の事務の奴らみたいな国家公務員とは違うってこと?』

『そういうことになります』


 広瀬や三澤の説明では勇気に支払われる金銭は“給料”と説明されていたが、同じ妖精から能力を授けられた者達を1つのチームとして考え、そのチームに対して対策局から“委託費”が支払われるというのが正式な表現となる。


『現在対策局にヒーローとして登録されているのは、あなた方も含めて1309名。チームの数は、そこの男の子も数えると319チーム。これだけの人々が、怪人対策局の“協力者”として携わっていることになります』

『失礼。話を聞いていると随分と回りくどいことをしているように思えますが、我々が対策局に所属するのでは駄目なのでしょうか?』

『駄目というわけではありません。設立時にはそれも1つの案として話し合われましたので。しかし現在の形を採ることで、我々ヒーローは対策局に対して独立性が担保され、普段はヒーロー以外の活動も自由に行えるようになっています』


 筋肉の男の質問に講師はそう答えながら、手元のパソコンを操作した。

 スクリーンに投影されたレジュメが切り替わり、またもや絶妙にダサいフォントで“出動の流れ”とタイトルの書かれたページとなる。


『まずは怪人が出現して暴れているケースについて。通常の事件のように警察へ通報が入り、それが怪人による仕業だと判断された、もしくは疑いが強いとなった場合、警察本部の通信指令室から対策局に情報が伝えられます。そして対策局にて現場の場所や怪人の強さなども加味したうえで、妖精独自の連絡網を介して皆さんに出動要請が下されます』

『要請? 命令ではなく?』

『皆さんはあくまで対策局とは“外部協力者”という関係ですので、対策局はヒーローに命令を下せる立場にはありません』

『へぇ。てことは、その出動要請を拒否することもできるってことか?』


 言葉と表情が何やら挑発めいている金髪の男に対し、それでも講師は温和な笑顔を崩さない。


『はい、その通りです。――とはいえ、ある程度の正当性は問われますけどね。悪質な場合、人事評価でマイナスになる可能性はありますのでご注意を』


 金髪の男に釘を刺すようなニュアンスで講師はそう答えると、次のケースの説明へと移る。


『次に、警察が追う事件の犯人が怪人であるケースについて。こちらは捜査の段階でそのような疑いが強くなった場合、対策局にヒーローを派遣してもらうよう応援要請が入ります。こちらの場合、警察に派遣されている期間に応じて手当が支給される形となります』

『派遣されるヒーローについては、対策局が選ぶのですか?』

『通常はそうなります。しかし警察の方から指名された場合、特段の理由が無い限りそちらが優先されることになります。ヒーローの中には、そういった捜査協力を専門に活動する方もいるんですよ』


 もっとも、と講師はここで注釈を入れる。


『こういった依頼を要請するのは、ヒーロー活動を長年続けてきたベテランの方がほとんどです。今回参加している皆さんの場合、最初に説明したケースでの出動要請がほとんどでしょうね』

『私が所属するチームの先輩から、新人の内は怪人と直接戦闘する機会はほぼ無いと伺いましたが……』

『そうですね。詳しいことはまた別の機会となりますが、怪人と直接戦うのは役職の高い経験豊富なチームが主に請け負うことになり、新人の内は現場周辺の住民の避難誘導など他のヒーローの補佐を務めることが多くなります。ちなみに直接戦闘に関わらなくても、作戦に参加したのであればきちんと手当は支払われるので安心してくださいね』


 講師の言葉に最も大きな反応を示したのは、肩を揺らして鼻を鳴らした金髪の男だった。


『でもよ、結局は直接戦闘した奴の方が多く貰えるんだろ? だったら誰よりも早く現場に駆けつけて倒しちまった方が得じゃねぇか』

『あらあら、随分と熱心な新人さんですね』


 ――ん?


 変わらずニコニコと温和な笑顔でそう話す講師だが、それを見ていた勇気はその雰囲気に違和感を覚えた。


『こうして新人研修の講師をしていると、あなたのような新人さんに出会うことが何回もありますよ。如何に早く現場に駆けつけて、他のヒーローが到着する前に怪人との戦闘を始めるような方が』


 まぁ、とそこで一旦言葉を区切り、そして続ける。


『そういった方は例外無く、後遺症の残る大怪我を負って引退するか、あるいは亡くなってしまいましたけどね。――チームが違うとはいえ仲間だった方の葬儀に参列するときの遣る瀬無さを、皆さんには味わってほしくないものですね』

「…………」


 そう語った講師の表情は笑顔のままだったが、勇気には何故かその顔が泣くのを堪えているように見えた。映像はお世辞にも鮮明とはいえないので、もしかしたら映像の掠れやぼやけ具合がそう見せているのかもしれない。


『――――チッ』


 しかし金髪の男は先程までの挑発的な笑みを消し、講師の言葉にも反論せず居心地悪そうに舌打ちするに留めていた。





『それでは以上で、今回の研修は終わりとなります。3人共、これから怪人の魔の手から日本を守る担い手としての活躍を期待していますよ』


 それから1時間ほど続き、講師の締めの挨拶と共に研修は終了した。3人が画面越しに頭を下げて数秒後、向こうから接続が切られたことで画面がブラックアウトしたのを確認し、勇気はアプリのブラウザを閉じた。

 小学生から使っている勉強椅子の背もたれに深くもたれ掛かり、体に蓄積した緊張を口から抜くように大きく息を吐き出した。


「プロのヒーローとしての初仕事、お疲れ様だピョン」

「正直、あんまり実感は無いけどね」


 勇気のその言葉は、今日の研修自体それほど難しい内容でなかったことも起因していた。広瀬と三澤から事前に貰っていた資料にも載っていたことがほとんどであり、正直これだけならばわざわざ休日の時間を使って研修に参加する必要はあるのだろうか、とさえ思った。

 しかし途中の、金髪の男の発言を受けての講師の言葉。

 あの言葉から滲み出る、ヒーローとして怪人と戦うということの危険性と、それに立ち向かう覚悟。

 それをほんの一端でも感じ取ることができただけでも、今回の研修に参加した意義はあったと勇気は思った。


「んで、今度は先輩ヒーローを交えての実地研修だっけ?」

「そうだピョン。向こうの都合もあるから日時はまだ未定だけど、それが終わったらいよいよ本格的にプロのヒーロー生活の幕開けだピョン」


 ワクワクというオノマトペが似合う弾んだ声でそう言うピョン吉。

 それを受けて勇気が口にしたのは、特に深い意味の無い、それこそ学生ならばそう考えて当然ともいえるものだった。


「研修するなら、せめてゴールデンウイークの後にしてほしいなぁ」



 *         *         *



 ヒーローカンパニー・アント。

 現在日本において最も多くのメンバーを持つヒーローチームの名称であり、そのチームのリーダーが社長を務める企業の名称でもある。その人数は56人にも上り、複数のチームが共同で運営する企業を含めてもぶっちぎりで最多のヒーローを抱える、その業界では知らぬ者はいない有名企業と言えるだろう。

 主要地方都市に支部を構えるその企業が本部を置くのが、日本の政治経済の中心とも呼べる霞が関・丸の内から程近い場所にある虎ノ門ヒルズのオフィスビルの一画だ。その知名度の高さから様々な企業とスポンサー契約を結んでいるとはいえ、そこに本部を置くにあたって()()()()()の意向と便宜が働いたのは想像に難くなく、そしてそれは紛れも無く事実だった。


「研修終わりましたぁ」

「おぉ、お疲れ」


 会議室を出て執務スペースへとやって来たのは、先程まで新人向けの研修を受けていた褐色肌に金髪の男だった。そしてそんな彼に、コーヒーを片手に仲間と談笑していた先輩達が労いの声を掛ける。

 執務スペースといっても事務机が綺麗に並ぶシンプルなデザインのそれではなく、クッション性の高いソファーやハンモックチェアが不規則に並び、観葉植物などを随所に配置することでリラックスできる空間作りが工夫されている。まるでホテルやマンションのラウンジのようにも見えるその空間は、一見オフィスと言われてもそれと分からないほどだ。


「どうだったよ、研修? 他に参加者っていた?」

「自分以外には2人いたッスね」

「へぇ、割といたな。俺のときは1人だったのに」

「俺のときもそうだったわ。タイマンで研修とか結構キツいんだよなぁ」

「何か面白い奴とかいた?」


 先輩の問い掛けに、金髪の男は「えーと」と呟きながら考える素振りを見せた。

 正式な場でも本名は明かさない、仮面を付けても許される、ということからも分かる通り、ヒーローの正体について無闇に吹聴するのは良しとされていない。それはこういった雑談の場においても同様であり、なので頭の中でどこまで話して良いか情報の取捨選択をしているのだろう。


「とりあえず、研修の講師は“ラウンズ・ピンク”だったッス」

「えっ! それってまさか、あの“ファイブ・ラウンズ”の!?」

「マジかよ、俺のときなんてよく分からん謎のおっさんだったぞ。俺がその研修受けたかったわ」

「一緒に受けた新人は、どんな感じだった?」

「1人は、元スポーツ選手でしたね。それなりに有名なんでこれ以上言えないッスけど」

「へぇ。てことは、またいつもの所かね」

「何だよ、その“いつもの所”って」

「ほら、引退したスポーツ選手ばかり受け入れてる会社あるだろ。セカンドキャリアだか何とか言って」

「んで、もう1人は?」


 先輩からの問い掛けでもう1人の参加者のことを思い出したからか、筋肉の男について話すときは無表情だった金髪の男の顔に明らかな侮蔑の色が浮かんだ。


「もう1人は別に大した奴じゃないッスよ。高校生くらいの奴で、見た目も全然弱っちぃ感じなんで」


 しかしそれを聞いた先輩達の反応は、金髪の男に同調するものではなかった。


「高校生? それって――」

「あぁ、確かこの前“社長”が言ってた奴じゃないか?」

「時期的にも合うしな、多分そいつだろ」

「はっ? 先輩、知ってるんスか?」


 思っていた反応と違ったためか、金髪の男が困惑気味に尋ねた。


「いや、社長も人伝(ひとづて)に聞いたらしいんだけど、高校生で“リーダー”になった奴が最近出たんだってよ。しかもそいつ、正式にヒーローになる前に妖精から能力を貰って、それで怪人をとっ捕まえてるらしいんだわ」

「なっ――!」


 金髪の男が驚きで目を丸くしている間も、先輩達の雑談は続く。


「確かその怪人って少し前にニュースになってた、女の子だけ狙う連続殺人鬼だっけか。怪人だって分かる前だったから、対策局にも情報が行ってなかったんだよな」

「そうそう。上の連中からしたら、警察の尻拭いを自分達がしてやったって形だから気分良いだろうよ」

「しかしその高校生も災難だよな。正式にヒーローになった後だったら手当とか色々付いただろうに」

「いや、何か知らんけどそいつには特別に支払われたらしいぜ――」


 しかし先輩の雑談は、金髪の男の耳には届いていなかった。いや、耳には届いているのだが、脳がそれを認識できない状態だった。


「――――チッ」


 金髪の男はこの場にいない、既に顔すらあやふやになっている少年のことを思い浮かべ、忌々しげに舌打ちをした。

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