石灯籠怪奇文学賞
毎年夏になると公募が始まる。
石灯籠怪奇文学賞。
公募としては小さな規模で、ホームページで応募を受け付けているだけの賞だった。
賞金も書籍化もない。与えられるのは名誉だけ。
第一回の応募数は108通で、第二回は107通。そこから106通……105通と減っていっているが、概ね横ばいだった。
第十回まで行われたけど、この公募には特徴がある。
夏の終わり、忘れた頃に結果発表がホームページ上でされるのだが――
【毎年、最優秀賞の受賞者がいないのである】
公式から発表される応募者数の推移が毎年一人ずつ減っていくことから、噂が囁かれるようになった。
受賞者が消えているのではないだろうか?
いったいどこへ? どうなってしまったのか?
ネット掲示板などで調べてみると、ある種の都市伝説化していていくつか考察を見つけることができた。
書いた人間が自作の怪異によって殺されている。
書いた人間が怪異そのものになってしまう。
何を目的に作られたかもわからない、この文学賞自体が怪異である。
私は初めて、筆を執った。噂を信じたのだ。
生きることに飽きてしまった自分にとって、この文学賞は天から伸びた蜘蛛の糸。
私は死ぬなら怪異に殺されたい。
毎年一人しか連れて行ってもらえないのだ。
ああ、なんて羨ましい。
しかも自分の望む怪異を描き、それによって殺されるのである。
きっと恐ろしかっただろう。自分の生み出した殺意や悪意や憎悪や狂気によって、追われ、追い詰められ、悲鳴を上げても誰にも届かず、闇に蝕まれ命を吸い尽くされるのは。
憧れをもって、私はキーボードを叩く。
短いながらも、恋文のような渾身の一作が出来上がった。
初めて書いたものだ。稚拙だろう。もっと上手い人間はごまんといるだろう。
けれど、お願いだから……私に最優秀賞を。怪異に殺される絶望を味わう栄誉をくれないか?
私は……。
八尺様が好きだ。
自分よりも巨大な女性に潰されるように精気を吸い上げられたい。
干からびるまで吸い尽くされたい。
恐怖と喜びを交互に感じながら闇に堕ちたい。
抗うことの出来ない恐怖に蹂躙されたい。
作品を応募フォームに写して、送信キーを押した。
これから毎晩、眠れぬ夜を過ごすことになる。
いつ、怪異が私を襲ってもいいように、身綺麗にしておこう。
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毎晩、怪異にいつ襲われるかと期待して日々を過ごした。
真夏の夜は過ぎ去り、季節は秋になっていた。
ダメだったのだ。私は選ばれなかった。
石灯籠怪奇文学賞のホームページを、震える手で開く。
今回も最優秀賞は空欄だった。優秀賞と奨励賞にも自分の名前は無い。
ああ、羨ましい。妬ましい。
不思議なことに、今年の応募者数は去年と同じだった。
私が増えたからだろうか。途端に気恥ずかしくなった。美しいn-1の流れを自分が壊してしまったのだ。
他の参加者を殺して、数を調整したいと思った。
私が怪異に代わりに、殺してあげよう。きっとこれは善行だ。
いけない。
そんなことをしたら、私は地獄に堕ちないではないか。
そもそも、公募の主催者が誰かもわからない。ホームページを運営している会社は、大阪の方にあるらしいがあくまで代行だ。
応募者の個人情報を私が手に入れる術もなかった。
恨めしい気持ちで終わってしまった今年の夏の応募要項を、じっと見る。
来年こそは。もう一度、条件を確認した。
指定ジャンルホラー
指定テーマうわさ
指定キーワード石灯籠怪奇文学賞
投稿数制限はありません。
お一人で複数作品を投稿いただくことも可能です。
種別短編・連載作品(未完可)
文字数投稿可能な文字数であれば不問
年齢制限全年齢対象(R15作品可)
その他 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※。
「ああ……そうか……だから私は落ちたんだ」
言葉が漏れた。
年齢制限に全年齢対象とあった。
私の作品は最初から選外だった。
天から垂らされていた蜘蛛の糸は、最初から途切れていたのだ。
すべてに絶望した私は、自室で首をくくった。
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オカルト板@***
本当にあった怖い名無し(ワッチュイ b49d-UtMa):なあ今年の石灯籠怪奇文学賞なんか変じゃね?
本当にあった怖い名無し(ワッチュイ b49d-UtMa):あー毎年誰が送ってるかもわかんないやつだっけ
本当にあった怖い名無し(ワッチュイ b49d-UtMa):いやほらタイトル変わってんだよ
202X年の石灯籠怪奇エロス文学賞募集開始。