第8話 ねだられたから……
翌日の昼には新しいベットが出来ていた。そしてその夜にレベッカからこんな話を切り出された。
「ねぇ、キララちゃん……」
「何かしらレベッカ?」
「お風呂入らないのですか?」
「入らないわね。基本体を拭くだけよ。」
この家にはお風呂はない。と言うより平民の家でお風呂がある方がレアである。
「作らないのですか?」
「作らないというより作れないわね。家が狭いから。街に行けば公衆浴場があるし。週1で行けばいいかなと……」
「作りましょうよ!お風呂!」
「ええー……」
急に言われて私は不服の声を出した。
「キララちゃんはお風呂嫌いですか?」
「嫌いというか……入らなくても困らないかな?入る暇があるくらいなら寝て体力を回復させたい。」
「ぐぬぬ……ダメですか?」
「ぐっ……上目遣いしてもダーメ!」
私はそっぽを向いてその夜は寝た。
翌日……私は1人で公衆浴場に来ていた。そして竈門に薪をくめるおっちゃんに話を聞いていた。
「何?風呂を作りたいって?」
「はい、なので仕組みを教えて欲しくて……」
「はぁ……あのなーガキんちょ。仕組みが分かったからはい作れますなら公衆浴場に人がこんなに集まるわけないだろう?」
「そうですけど、簡易的な物ならもしかしたらいけるかもと思って来たんですよ。」
するとおっちゃんにゲンコツを落とされた。
「風呂屋舐めんな!こっちとら丹精込めて石を積み上げてそこに隙間なく土を埋めて水漏れを無くして作った風呂に水張って汗掻きながら下から火で調節して風呂を温めてんだ!生半可な気持ちなら帰れ!」
流石の一言だった。私はその後ものすごい剣幕のおっちゃんに追い返された。でも仕組みは怒鳴らながらも教えてくれたので私は謝罪とお礼を言って一旦帰って設計図を書く事にした。
「何をしてるのですか?」
「お風呂の設計図よ。とりあえず作れるかどうかを設計図を見て決めてるの。」
「作ってくれるんですか⁉︎」
「し、仕方なくよ!それに家にお風呂が有ればわざわざお金払って入る必要ないし、長い目で見れば経済的なのよ!」
照れ隠しに私は敢えてツンツンした態度を取った。
「……ですがその頭のたんこぶはどうされたのですか?」
レベッカは私の頭のたんこぶを撫でながら聞いて来た。
「これはね……風呂屋のおっちゃんに気合い入れて貰ったの。」
「そうですか……やはり難しいのですか?」
「はっきり言って難しいわね。大衆浴場は広くてそれなりにメリットも大きいし、全て土や石を使ってるわ。それによって熱伝導を良くしてるの。」
「そうなのですね……でもキララちゃんの設計図だと竹を使ってますね。」
「うん。土や石で作ったら予算オーバーを遥かに超えて向こう半年はタダ働きする派目になりかねなかったから却下になったわ。」
石1つは安いだけどそれを何千個も買うとなると話が変わる。それを更に加工、組み立てまでの時間をかけてたらそれまた半年は掛かる。なので簡易的な竹で作れるお風呂を考えたのだ。けれど……
「やっぱり机上の空論ね。下から温めてたら竹が焼けちゃうし。」
私は設計図を折り畳んでゴミ箱に捨てた。しかしレベッカはそれを拾い上げて私の前に広げた。
「捨てるにはまだ早いと思いますよ?」
「でも、いい案は出ないよ?」
「ですが、捨てるには勿体無いです。お昼今から作りますので折角なのでその間考えてて下さい。」
そう言われてもと思いつつ私は設計図に目をやった。
(やっぱり難しいなー……)
私が四苦八苦してる横で竈門に薪をくめてマッチで枯れ草に火をつけるレベッカ。そしてそんなレベッカからある疑問を向けられる。
「そう言えばこの竈門はどの様に作ったのですか?」
「あぁ、それは流石に作って貰ったんだよ。必要な物だからギルドの先輩で土魔法の名手の方に金貨20枚払ってね。」
「金貨20枚……確かにその価値はありますよね。」
金貨20枚あれば1月は余裕で暮らせる。こちらとしては1月分の稼ぎを取られるのだから頭の痛い話だ。それでも2つも作ってくれてるのだからありがたいとしか言えない。普通2つも作ってくれたのなら金貨30枚は持って行かれるのだから。
「うーん……どうしたものかなー……!」
私は設計図から目を離して鍋に水を入れて沸かすレベッカを見ていた。
(鉄はあんなに薄くても燃える事ないのか……ならばもしかして!)
私はもう1度設計図に目を向けた。そして新たな材料を書き足す。
「キララちゃん。昼食出来たよー……」
私は無我夢中で設計図に書き込みを続けていた。そして気がつくと目の前にレベッカがいた。
「あっ!レベッカ……昼食できたの?」
「ええ、だいぶ前に……でも、真剣な目で書いてるキララちゃんがかっこよかったから邪魔せずに眺めてました。」
「先に食べてれば良かったのに……」
「一緒に食べた方が美味しいし、楽しいよ。」
確かにそうだ。1人のご飯は何か味気ない。1人暮らしを始めたのが10歳からだからもう5年前になる。たまにギルドのおっさん連中に誘われて食べに行ってたがその時は味も何も分からずただただ話すだけだった。それでも楽しかったのはよく覚えてる。
「それじゃあ食べましょうか。」
「うん!」
「「いただきます!」」
やはりもう料理は冷めていた。でも、2人で食べるご飯は心を温めてくれるのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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