第1話 約束
「お嬢さん、名前は?」
「キララ……おじさんは?」
ある日大きなお屋敷の前を通るとおじさんに声をかけられました。
「怪しい者ではない。ちょっと来て欲しい。会いたがってる人がいるのでな。」
「知らない人について行っちゃダメだってお母さん言ってたよ?」
「いいから来い!」
そのまま私は大きなお屋敷に連れて行かれた。
(あー……私はこれから変なおじさんたちに変な事させられるんだー……)
そんな事を考えていたけど、着いた部屋には1人の女の子がベッドに腰掛けていた。
「ありがとう。下がって下さい。」
「かしこまりました。」
その子は私と違ってとても可憐で日弱そうに見えた。そしてこれが私たちの物語の始まりでした。
私の名はキララ・ハーロック平民のごく普通の女の子です。ただ少し違うのは他の子より少し体力があって少しだけ力が強い事。そしてそんな私には最近新しい友達が出来た。
「キララちゃん。今日はどんな話を聞かせてくれるの?」
この子はレベッカ・クラリス。侯爵家のご令嬢。私とは真逆で身体が弱く、品のあるお嬢様。私が毎日外を走ってどこかへ行くのを窓から見ていたらしく。レベッカが従者の人に頼んで私をここに連れて来たのが全ての始まりだった。
「それでね。今日はこの前登れなかったあの大木に登ってきたんだ!」
「そんな事をして叱られれないの?」
「あはは……黙ってれば叱られないよ!バレたら叱られるけどねー。」
「ふふふ。あまり無理はしないで下さいね。キララは私のたった1人の大切な友達なのですから。」
「大丈夫ー!私は強い子だから!あっ、そうそう!これお土産ね!」
私はポケットから四葉のクローバーを取り出した。
「四葉のクローバー……良いのですか?」
「いいわよ!私、幸せを見つけるの得意だから!」
「ふふふ。ありがとうございます!では、四葉のクローバーを頂いたのです。何かお礼を渡さなければなりませんよね……何がいいでしょう?私に出来る事ならなんでも差し上げますよ?」
「じゃあ私とずーっと友達で居てくれる?」
「ずっと……ですか?」
「うん!ずーっと!大人になってもおばあちゃんになっても私たちはずーっと友達!」
「ふふふ、キララちゃんらしいお願いですね。でしたら私をいつかキララちゃんのお嫁さんにして下さい。そして幸せにしてください!」
「おお!友達よりずっと上のポジションにいられるね!いいよ!約束!」
「はい、約束です。」
私たちはそうして指切りをした。しかし、この数日後レベッカは隣の国に引っ越す事になった。残っていた使用人さんに話を聞いた所。病気の状態があまり芳しくなく隣の国で治るまで帰って来ないと言われた。
しかし、1月、2月、3月と時は流れて行き……あっという間に5年が経過していた。
「……嘘つき……」
レベッカ以外に友達が居ないという事はない。学校に行けばみんないるし、楽しい毎日は続く。だけどレベッカの居た屋敷の前を通ると思い出してしまうのだ。だから必死に忘れる事に専念したのだ。
それから更に5年の月日が経ち、私は街1番のハンターとなっていた。
「おう、キララまた1人で狩りか?たまには俺たちにも付き合わせろよー」
「えーやだよ!だって取り分減るじゃん!」
「取り分は減るが安全性は増すぜ!」
「そうだそうだ!女1人でモンスター狩ってるなんざ危なかっしいにもほどがあるぞ。」
「いいのよ。狩りは1人の方が楽なんだもん。」
私はそのまま報酬を貰ってギルドを後にする。
「まぁ好きにさせてやりなよ。あの子は誰よりも強いんだしさ。この前も国の剣技大会で準優勝してたじゃねえか。しかもタイムアップの判定で。」
「あぁ、だからって若くて優秀なアイツをミスミス失いたくないのくらいわかるだろう?」
「まぁな。」
「それに……アイツは魔法が苦手だろう?」
「そうだな。よくソロで行けると思うよ。」
「全て剣で倒してるのか?」
「だろうな……」
ハンターは常に危険と隣り合わせ。そんな職業だからこそみんな私を心配している。だけど私はもう誰も信じないと決めている。レベッカは私を裏切った。あんなに仲が良くても人は簡単に裏切るのだ。それゆえに他人を信用する事など私には出来なかった。
「おい、見たかよ。」
「あぁ、噴水広場にいる美人だろ?」
街を歩いているとそこら中から同じ話題が聞こえる。
「旅人かしら?」
「まさか。あんな綺麗な服を着た旅人はいねえよ。」
そんなに美人なら一眼拝んでおこう。そんな興味本意で私は噴水広場へと足を運んだ。
(あー……確かに美人だな……整った顔立ちに綺麗な赤い髪。まるであの子を思い出す。)
そんな事を考えていると彼女と目があった。
「キララ……ちゃん?」
「えっ……?」
そう言った瞬間私の元へ駆けてきた美女。
「やっぱりキララちゃんですね!」
そしてその美女は私をぎゅーっと抱きしめた。
「ようやく……ようやく逢えました……」
「ちょっ!まさかレベッカ⁉︎」
「はい!どれだけこの時を待ち望んでいたか……」
私は抱きついているレベッカを突き放した。
「なんで……なんで勝手に居なくなったの⁉︎私がどれだけ傷ついたか、貴女にわかる⁉︎」
私は10年間溜めてた思いを吐き出してしまう。もちろん病気だからって事はわかる。でも、10年も手紙すらくれなかったのに今更来られたからって嬉しいはずもなかった。
「えっ……?手紙届いていませんか?」
「はぁ⁉︎1つもないよ!」
「チッ……やっぱりか……」
あれ、今舌打ちした……私の聞き間違いかと思った。レベッカはそんな舌打ちをする様な子じゃなかった。というか周りを見るとみんなの注目の的になっていた。
「とりあえず場所を変えましょう。ちゃんと説明しますから……」
「う、うん。」
目の据わったレベッカに促され私達はその場を離れる事にした。
私たちは街で1番の大木の所に来ていた。
「まずは、ごめんなさい……本当はキララちゃんとお別れしてから引っ越したかったの。でも、そんな余裕もない程に私は弱ってたの。」
「そう……だったのね。」
子供だったとはいえレベッカを責めたさっきの自分を許せなくなった。
「だけど引っ越してから徐々に病気も回復してきてからは1月に1度はキララちゃんにお手紙書いていたの。」
「私……1つも貰ってないよ……」
「うん、さっき聞いた。たぶん出して無いんだと思う。私は外に出られないから使用人の奴に渡してたの。たぶんお父様が捨ててたんだと思う。私はキララちゃんが筆不精なの知ってるから読んでも出してないだけと思ってたわ。」
(あれ、さっきから言葉の端々になんか品のない言葉が聞こえる様な……)
「それでね……2週間前も私にお見合いの話がきてたの。」
「え?あぁうん。そんだけ美人なら引く手数多だよね。」
「でも、私結婚する気なんてさらさらないからそれをお父様に伝えたの。そしたら……」
「それは平民の娘との約束があるからか?」
父にそう言われた私ははっきりとこう言った。
「はい!私はあの人の隣以外で生きたくありません。」
「お前を生かす為にどれだけの金を出したと思ってるのだ?」
「それは感謝しております。ですが、私の人生は私が決めます。」
「お前のせいで母さんが亡くなったのにか?お前の治療費を母さんに渡せば母さんが助かっていたのだぞ。」
「つまり、私など生まれて来なければよかったと?」
「違う!お前私の後を継ぐ者を産まねばお前を生かした意味がないと言っているんだ!」
「それが実の子に言う言葉ですか?」
私は冷徹な目で問いを投げかけた。そして返ってきた答えがこれだ。
「子供は親がいなければ育たん。その親の為に子が尽くすのは当然であろう。」
「そうですか……つまりお父様は私とお母様を天秤にかけ利用価値がある方にお金をかけたのですね。」
この人の言い方だと私にはそう聞こえたのだ。私を育てたという恩を売った方が得だから生かしたのだと……
「そう捉えるならそれでいい。分かったなら早くこの婚約者リストから……」
私は続きを聞かされる前に父だった人を殴り飛ばした。
「お前みたいなのは私の父親じゃない!もう2度と私の前に現れないで!」
「貴様!親に手をあげて良いとでも……」
「さっきも言ったけど、もうあなたは私の親ではありません!出て行きます!」
私はそのまま家を飛び出してきました。
「と、言う事で、家を飛び出してきました。」
「はあ⁉︎それ大丈夫なの?」
「知りません。家出したと言うより勘当してきたので!」
「ええっと……大丈夫じゃ……ない……よね……それ?」
「良いんです!それより……」
レベッカは私に顔を近づけて目を細めた。
「約束守ってくれますよね?」
「えっ……?」
「忘れたなんて言わせませんよ?私とずっと、ずっと、ずーっと一緒に居てくれますよね?」
誤解は解けたけど。なんか色々と問題が起こりそうな予感がする。ええい後は野となれ山となれ!
「じゃあ私に捕まって。」
「えっ?は、はい。」
返事をしたレベッカは私抱きつく様に掴まった。
「ごめん、やっぱりおんぶになる形でお願い……」
決まりの悪い事この上ないが仕方ない。だってこのままだと登れないからだ。レベッカをおんぶする形で私は大木を登り始めた。
「えっ?キララちゃん!私1人でも登るよ⁉︎」
「うるさい!今は私にしがみついてて!」
「でも……私重いよ?」
「へへへ。軽いわよ!」
私があの日大木へ登った時に思った事……それはレベッカとあの景色を見る事。それはずっと心の中の引き出しにしまってた事……その時はレベッカを担いで1人で登れるくらいの体力と力を付けておかないとと思い毎日鍛えてきたんだ。
あぁ……私は結局なんだかんだ言ってレベッカの事信じていたんだと登りながら気づいた。
「到着!」
「凄い!流石キララちゃん!」
「へへへ!どんなもんだい!」
私はヘラヘラ笑いながらレベッカにピースで答えた。
「この景色が……キララちゃんの見てた景色だったのね。」
「うん。2人で……もっと……早くに……」
「えっ?キララちゃんなんで泣いてるの⁉︎」
「うるさい。誰のせいだと……」
私が続きを言う前にレベッカのキスで口を塞がれてしまう。
「私のせいよね。でも今はこの言葉を言わせて……」
私はレベッカを真っ直ぐにみた。
「私をここまで連れて来てくれてありがとう!」
その瞬間私はレベッカに抱きしめられていた。まるで子供の様にレベッカの胸で泣いた。そうして私が落ち着いてから2人で大木を降りて行った。
私達の時間は再び動き出したのだ。
ここまで読んで頂きありがとうございました!久しぶりの新作です。ゆっくり書いていきますので何卒よろしくお願いします!
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