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江戸幕府再興会  作者: 零月隼人
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第7章 「第二次禁門の変~中編~」

掃除くん達を降ろした後。

一時試衛館からは離脱し、だいふ離れたところで、車は停止した。

「それで、敵の本陣の場所は、検討ついてるんですか?」

「・・・・・・」

私の肝心な問いに、将軍は熟考する。

・・・・・・いや、分かってないんかい!

おいおい、このままだと、掃除くん達が延々攻められジリ貧だぞ⁉

焦る私を無視するように、将軍は島津先生に指示を出す。

「島津殿、車を京都御苑方角へ。」

「・・・・・・へいへい。」

先生は肩を竦めながら、車を加速させる。

将軍の語りが続く。

「試衛館から近からず遠からずの場所で、本陣を構えやすい所となれば、旧平安京内が真っ先に思い上がる。中でも御所は、敷地面積も広い、のみならず、もともと公家の住処であった。本陣を構えるにはうってつけの場所と言える。だが、しかし・・・・・・」

将軍が渋そうな顔をする。

老中も同調した。

「ええ。相手がそこまで安直に事を構えるかどうか・・・・・・」

「ああ、そこなんだよな。いくら帝とて、襲撃に備えていることは想像に固くない。御所の防御を強力に固めているか、それとも・・・・・・御所を囮に、別の場所へ退避しているか。

━━よし。」

あ、嫌な予感がする・・・・・・

「近藤と土方で、御所に乗り込み、迫ってくる敵を斬り捨てつつ、情報収集の任につけ。私と老中、島津殿は少し離れた場所に車を留め待機。帝の居場所が判明次第、そちらへ急行する。」

いや、いくらなんでも無茶だろ!

こっちには、何故か最強認定の秀光さんすらいないんだぞ⁉

先生止めてくれ‼

「・・・・・・やれやれ。」

おい、使いものにならんな‼

才蔵も、ため息をつく。

「ッたく、まあ、試衛館側の戦場に回されるよりは些かましか。おら勇美、さっさと終わらせて帰ろうぜ。」

才蔵、最近物分かりよくなってない?

でもまあ、ここでゴネても仕方ないのは事実である。

御所近郊・堺町門周辺に車が止まると、私と才蔵は外に出る。

私達が降りると、車はすぐさま走り去る。

・・・・・・ほんっとに!人使い荒いなあ‼


義信・容永・島津を残した車の中で、将軍が島津に指示を出す。

「島津殿、車をこちらの座標に。」

この言葉に、二人は驚く。

「上さま、対象の位置が分かったのですか⁉」

「おいおい嘘だろ・・・・・・」

将軍は頷く。

「先ほどは、敵にこちらが向っているのを悟られぬよう、近藤達にもこのことは黙っていた。

だが間違いない、帝はここにいる‼」


私と才蔵が、堺町門を潜る。

警備は少ない。兵力はほぼ全て、試衛館側の戦闘に回しているのだろう。

とはいえ、ちらほら薩長の兵━━以後倒幕派と記載(・・・?)もおり、わらわらとこちらへ向ってくる。

「そこの二人、何者だ⁉」

「ここをどこと心得る!!?帝に対し、非礼千万‼」

まったく、試衛館へ向った倒幕派とおんなじこと言ってるなあ。(なぜ私はそのことを知っている?)

こうなってはもう話は聞き入れられないだろう。やむを得ない。

私は刀を抜き、構える。

隣の才蔵も、拳を構える。

「勇美、さっさと片付けて、奥にいるやつを引きずり出すぞ。」

「ええ。・・・・・・将軍の思い通りに動くのは癪だけど。」

命は奪わない。

全員生かしたまま、無力化する‼


戦闘開始後、数分が経った。

薩長の兵士、なかなかに手強い!ちゃんと訓練を受けてる人間、そう一筋縄では倒されない。

それでもなんとか、確実に一人一人仕留めていく。

才蔵の方も苦戦している。才蔵は拳だ。いくら強いといえど、刀を持った相手数人を同時に相手するのは荷が重すぎるだろう。

私が頑張らなくては。

そう思い直したその時。

御所の中心・内裏に直接通ずる門━━建礼門が開いた。

紫宸殿より、二人の人物が出てくる。

「何やら、騒がしいでごわすな。」

「ああ。帝がおわすこの時分にて、侵入者とは慇懃無礼な。我ら自らの手で、始末してやろう。」

何やら強そうな奴らが来たぞ。

私も才蔵も、雑兵達も、動きを止める。

二人は私達の姿を認めて、名乗りを上げる。

「おいどんは、造士館1年あ組学級委員の、西郷高森でごわす。腕の立つ剣士とお見受けする。一騎打ちを申し込む。」

「同じく、明倫館1年壱組学級委員の、桂孝允だ。下賤なる侵入者よ、まずはその名を伺おうか。」

ほう、敵の将校級かな。

彼らなら、帝の居場所を聞き出せるかもしれない。

私と才蔵は、それぞれ名乗りを上げる。

「昌平坂高校1年A組、近藤勇美。」

「同じく、1年A組、土方才蔵だ。」

私達の名乗りを聞き、二人は神妙そうな顔をする。

「ほう・・・江戸幕府再興会、とは申さぬのだな。」

「ええ。無理矢理協力させられているだけなので。」

私がはっきり言い放つと、西郷さんは不憫な目をする。

「・・・・・・貴殿らも、苦労してるのでごわすな。」

なら協力してほしい━━ところだがそうはいかぬか。

両陣営名乗り合いが終わったので、桂さんは刀を、西郷さんは拳を構える。

なるほど、この感じだと、私が桂さんを、才蔵が西郷さんを相手するのが相性よさそうだな。

才蔵に目配せすると、私の意を理解して、西郷さんの方へ向った。

私も桂さんと対面し、刀を構える。

「それでは、始めましょう。」

「ああ、いざ尋常に勝負‼」


私と桂さんの刀が、高速で何度も交わる。

さすが、長州の実力者、雑兵達とは格が違う。

桂さんの剣術の流派は、神道無念流と呼ばれるらしい。一撃一撃が力強く、一発でも受けたら絶命は必至だ。

必然的に、私は防御に回ってしまう。

「なるほど、天然理心流か。見事だ。」

桂さんが、私の剣術に感嘆したようだ。

しかし、追撃の手は緩まない。一手一手、私を敗北に追いやるため、力がこもっている。

ふぇー、なんか、もう勝負を中断して、道を譲ってくれないだろうか。

それか、わずかでも反撃の隙が作れればいいのだが・・・・・・


才蔵と西郷の戦いは、共に拳と拳を交わす、まさしく武術の鑑となるような試合と化していた。

西郷の方が巨体であるため、力で才蔵を押しつぶそうと、体術を掛けてくる。才蔵は、取り付かれないよう、小回りをきかせ立ち回る。

「おんどれ、なかなかにやるでごわすな。」

「フ、俺だって、素手の相手にここまで苦戦することになるとは思わなかったぜ。」

西郷はスピードにかけてはそこまで優れていないため、技自体は当たる。しかし、耐久性がすさまじいため、決定打には到らない。

才蔵は、瞬時に、勇美と桂の戦況を見やる。やはりあちらも桂が優勢、このままでは勇美も自分もジリ貧なのは明らかだ。

勇美の方が勝利困難である以上、こっちを早め片付け、援護に向うのが急務だ。

それにはこの西郷を、なんとかしなくては・・・・・・

確実に一撃で仕留めるには、相手の懐に飛び込まざるを得ない。

かなり危険な賭けではあるが、才蔵は自身の力を信じた。

猪口才な小回りをやめ、西郷に取り込ませる。

西郷とて、わざと才蔵が回避しなかったことには感づいている。しかし、勝負を決めるのは今しかないと、才蔵の策略に乗る。

才蔵の身体を、全身でガッチリと固め、そして━━

「轟・神・掌‼」

力の限り押しつぶし、そのまま地面に叩きつける。

才蔵の背中は地面に強打し、損傷する。しかしッ‼

「秘拳・燕返‼」

これこそ才蔵の必殺技、全力の拳を、西郷の腹部に直撃させる。

そのまま西郷の身体を浮かせ、自身は離脱する。

「ふう、これでなんとか。」

かなり身体にダメージを受けたが、それもお構いなしに、勇美の援護に向おうとする。

ところが━━

「ほぉー、今のは凄まじかったでごわすな。」

西郷がむくりと立ち上がったのだ。

さすがの才蔵も驚愕する。

「そんな・・・・・・俺の全力の拳を⁉」

西郷はゆっくりと態勢を立て直し、再び構えた。

「なればおいどんも、本気を出すでごわす。」

そう言うと、手に持ったリモコンを機動させた。

たちまち。

御所北西部・薩摩藩邸方角より、高速で、重機が駆けつけた。

「サイゴー・アーマー。

これがおいどんの、最終兵器でごわすよ。

そしてッ!」

西郷がサイゴー・アーマーに飛び乗り━━そのまま一体化した。

「何だと⁉」

さすがに才蔵も、声を上げざるをえない。

次の瞬間。

西郷/サイゴー・アーマーは、光速で才蔵のゼロ距離まで接近し、そのまま拳を叩きつけ、才蔵の身体を十数メートルまで吹っ飛ばした。

才蔵は吐血し、内臓があたり一面に飛び散る。

「大・粉・砕☆大・粉・砕☆」

才蔵の骨は全身砕け散り、もはや微動だにもできない。

「くそぉー・・・」

西郷は、接近する。ここまで勝負が確定しても、まだ油断しない。

拳を振り上げ、才蔵の息の根を狙う。

「これで終わりでごわす。

大・粉・砕━━☆」

これにて、才蔵の命運は尽きた━━そう思われた。

「―ッ‼」

「な⁉」

なんと、才蔵が、サイゴー・アーマーの拳を受け止めたのだ。これにはさすがの西郷も、驚愕を禁じ得ない。

そしてその瞬間、西郷に隙が生まれた。

その一瞬を見逃さない。

「燕返 ━百極━‼」

先ほど必殺技を当てたのと同じ位置に、拳を食らわせ、そしてそのまま・・・・・・身体を貫いた!

「ぐお!」

さすがの西郷も、この攻撃には意識を保てない。

そして才蔵は、未だ貫いている拳を、上部に振り上げ━━心臓を斬撃した。

これにて西郷を、絶命に至らしたのであった。

「・・・・・・やれやれ、俺としたことが、ここまで手こずるとはな。」


私と桂さんの交戦は続く。

あっちの方で、才蔵が西郷さんを負かしたことを確認した。それは、桂さんも同様のようで、若干動きに焦りが見える。

今が、絶好の好機といえるだろう。

しかし、相手が脅威な存在であることは、依然として変わりはない。

━━なら私も、“奥義”を出すしかないか・・・・・・

私は慌てず、その時が来るのを待つ。


功を焦った桂さんが、ついに仕掛けてきた。

「奥義・無常斬‼」

神速の剣が迫る。

私は、それを紙一重で避ける。そこに大きな隙が、相手に生まれる。

「天然理心流極意━━浮鳥」

これぞ、天然理心流の神髄。いかなる時も臨機応変に対応し、勝機を掴むのだ。

そして!

「龍尾剣‼」

敵の攻撃を鍔で受け、そのまま刀先で相手の胴を切る。

「グハッ」

これにて、桂さんは倒伏した。


「桂、西郷、帝が・・・・・・な⁉」

奥の清涼殿から慌てて出てきた男が、しかし倒れている二人を見て言葉を失う。

あれ?この人、前の試衛館の時に会った、生徒会・副会長の人じゃね?たしか名前は、九条直只さん、だったっけ・・・・・・?

しばらく狼狽していた九条さんだったが、やがて私達の方をみて、面持ちを取り戻す。

「貴様らが、桂殿と西郷殿を・・・・・・徳川の下僕め、なんと忌々しい。」

それだけ言うと、九条さんは、そのまま奥へ走っていった。

え、さすがに引き際潔すぎない?

「どうする勇美、追うか?」

才蔵が聞いてくる。

うーん・・・

さっきの話だと、帝の身に何かがあったように見える。その上で、私達をここで押しとどめずにそのまま奥へ逃げたということは、そこに帝にいるとは考えにくい。先ほどの将軍の予測のこともある。

私はあることを察した。

「将軍が・・・・・・何か仕掛けたか。」


京都市伏見区。

そこに、日本のみならず世界でも注目を集める、神宮があった。

名を伏見稲荷大社。

帝こと天野孝明は、そことその背後の稲荷山に立て籠もり、戦況を窺っていた。

そこへ。

「おい、火の手が上がったぞ‼」

「fire、fire‼」

社の関係者や観光客から、悲鳴が上がる。

(何が起こったのだ?)

孝明は不審に思い、祠の外へ出る。

見るとそこは、火の海と化していた。

「な⁉」

帝は驚愕を禁じ得ない。

そこへ。

「やはりここでしたか、陛下。」

やってきたのは、義信と容永だった。

「征夷大将軍、越前守・・・・・・なぜここに⁉」

唖然とする孝明に、義信が説明をする。

「陛下、私達は雲隠れしたあなたの場所を、血眼になって探しました。門跡や離宮なども全て見て回り・・・・・・

そんな中、ふとあることを思い出したのです。天皇とは、天下の統治者であると同時に、もう一つ大きな役割があったと。それが、神道の代表者、祭祀の執行者であるということです。

神道の聖地、すなわち神社━━━しかし、そこは神への祈念には最良の場である一方で、防衛には不向きと言えます。隠れ潜むには城、もしくは・・・・・・山。

また、山は古代、これまた信仰の対象になったと言われますしね。さて、そんな「神社」と「山」の特徴を合わせ持つ場所が、ここ、伏見稲荷大社というわけです。

また、ここは逃げ込まれると厄介な場所ですが、登るのは決して困難ではありません。武官でないあなたでも、容易に山頂にたどり着けることでしょう。

まさに、鉄壁の城郭━━━火を付けられる以外では。

焼き討ちとは、古くから有効手段としてよく用いられます。今回も・・・・・・功を奏した。」

満足いくまで説明しきった義信は、ついに刀を抜いた。

「陛下、いや天野孝明!貴様の陰謀もここまでだ。その首、貰い受ける‼」

一方、追い詰められた孝明は、必死に頭を回して、どう逃れようか思案する。

(ここで撤退、は無理であろうな。火の手が上がっている以上、朕は後ろに下がれん。・・・なれば、ここでヤツを倒してこそ、活路を開けるというもの。たとえ勝てずとも、時間さえ稼げば、桂や西郷が駆けつけてくれるであろう━━━━━━)

それは叶わぬ望みであった。

しかしながら、孝明は考え抜いた末、刀を構えた。

「よかろう。朕自ら相手してやる。今度こそこの抗争に、ケリを付ける‼」

両陣営、トップ同士の決闘が、今始まろうとしていた。

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