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江戸幕府再興会  作者: 零月隼人
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第3章 「上京」

次の日。早朝から私と才蔵は集合がかかり、島津先生の車まで押し込まれ、京都まで向かわされた。

「京都といえば君達の先祖達の組織、新撰組の屯所が置かれた地。もともと新撰組は、京都所司代支配下の京都見回組とは違い、浪士で構成された非正規組織だった。ところがね・・・・・・」

車で高速を走る間、将軍は江戸時代の蘊蓄(うんちく)などを延々と話している。

が、当然私達は全く興味がない。

無駄な数時間が、その場では流れていた。


京都。

古き都の地。

江戸時代は、その名の通り将軍がいた江戸が、政治の中心であった一方で、天皇を始めとした朝廷は、この地で儀式を執り行ったとされている。

・・・

車から降りた私達は、沖田総司の末裔がいると噂の場所、私立試衛館高校までの道のりを歩いていた。

将軍が先ほど同様、またしてもくだらない蘊蓄を披露する。

「それで、今回会う人の祖先である沖田総司だけどね、実は今日行く試衛館高校の前衛である、試衛館という道場出身の、剣士だったんだ。ま、元々試衛館は、江戸―つまりは東京にあったから、今ある高校の場所とは、何の関係もなかったんだけどね。で、後々君の先祖、近藤勇の創設した新撰組に参加することになるんだけど・・・」

興味がないので、無視無視。


そして、ついに私達は、私立試衛館高校の門をくぐる。

守衛の方には、すでに話がいってるようで、止められることなく通してくれる。

試衛館高校も、昌平坂高校と同じく、歴史のある建物って感じの雰囲気が感じられた。ただし、若干京都っぽい感じなのも、これまた魅力的だ。

っと、校舎の中に入ると、そこの教師陣に出迎えられた。

校長らしき人が、私達に歩み寄る。

「ようこそ遠路はるばるお越しくださいました、全校生徒、教員一同、心から歓迎致します。」

将軍があいさつを返す。

「こちらこそ、丁重に出迎えていただき、ありがたく思う。それで、事前にお話ししていたある生徒についての件だが・・・」

いや、なんでお前そんなえらそうな態度なんだよ。

島津先生も、呆れたように、肩をすくめている。

っと、その時。

「なんだ、この汚らしい奴らは。」

私たちの背後から声がした。

見るとそこには、眼鏡をかけた、長身の生徒が立っていた。ここの高校の生徒かな?

すると、校長が名前を紹介してくれる。

「おお、ちょうどいいところに。彼が徳川様のご所望の生徒、環境美化委員会委員長、二年一組の沖田掃除です。」

おいおい、目当ての生徒って、まさかのコイツかよ。

将軍の目がギラリと輝く。

「ほう、君が・・・」

一方の掃除君は不機嫌そうだ。

「なんだ、くすんだ目をこちらに向けるな。」

すると、老中が将軍と掃除君の前に立ちふさがる。

「上様に何たるご無礼。」

「フン、お前達か。東京から来て、俺を連れ出そうとしてる輩ってのは。」

いや、まあ・・・それはそうだね。

「悪いがご希望には添えんぞ。俺には、この学校の衛生を保つ義務がある。

分かったら、不潔なお前らは、さっさと出て行けッ!!」

コイツはまたなかなかのくせ者だな・・・相当の潔癖性か?

さらに掃除君が続ける。

「特にそこの女、俺はお前が気に入らん。俺の視界に映るな。」

は?もしかして私のこと・・・?

すると今度は才蔵が、前に出る。

「おいおい、さっきから黙って聞いてたらよー、将軍のこととやかく言うのは構わねー、けど、勇美のこと好き勝手言うのは違げーだろ。」

掃除君は才蔵のことを、胡乱な目で見る。

「妄言だな、口を開くな。お前はこの女のなんだっていうんだ?」

「クッ・・・」

才蔵が歯ぎしりする。

ここで、将軍が一旦場を修めることにしたようだ。

「近藤、土方、ここは一時引くとしよう。

そして掃除君、我々は一旦この場を去る。しかしいずれまた、相見あいまみえることを期待しているよ。」

そして私達は、掃除君とは別れ、ここの先生達が用意してくれた控え室へと向かった。

・・・教師からは好待遇なんだな、私達。


控え室。

将軍も老中も、神妙な顔持ちで、誰かを待っている様子だった。

将軍がこんな真剣な表情するのも、珍しいね。

私はそんな彼らの顔と、部屋を見回す。

と、部屋のドアが開き、試衛館の生徒が一人現れる。

将軍が顔をあげる。

「やあ、来たか。」

その生徒は真っ先に、将軍に向けて頭を下げる。

「先ほどは、本校の沖田が、上さまにご無礼を働き、誠に申し訳ございませんでした。」

「いや、構わぬ。それより、まずは君のことを、新入生の二人に紹介しておこう。」

すると、老中が立ち上がった。

「ここは私が紹介しよう。彼の名は松平慶保。私のいとこで、この試衛館高校3年、選挙管理委員会委員長をしている。」

「松平慶保です、二人ともよろしく。」

へえ・・・老中の親族・・・?

え、でもあれ⁉そもそも将軍と老中がいとこ関係だったよね⁉

じゃあ、この人、将軍の弟!!?

「いや、母方の兄弟だから、上さまからすると、いとこのいとこという感じになるかな。」

・・・ややこしいな。

まあ老中を繋いだ親族関係ってことか。

で、この人は何しに来たの?

「それで上さま、もう一つご報告がございまする。」

「なんだ?」

「沖田掃除の江戸幕府再興会勧誘について、試衛館教師陣は、東京の進学校との繋がりができるというので、概ね賛同の意を示しました。ですが、生徒会の方が・・・

本校の生徒を連れ出すのは遺憾として、上さまと彼の交流を禁じられました。」

それを聞いて、将軍は難しい顔をして唸る。

「ううむ・・・試衛館生徒会、通称『禁中』の生徒会長、たしか通称『帝』だったか、が主導で動いているのだな?」

「は、会長である天野孝明と、副会長の九条久只の意向であるかと思われます。

某の力不足故の結果でございます、申し開きございませぬ。」

やれやれ、また禁中やら、帝やら出てきたぞ・・・

どこまで歴史用語使えば気が済むんだ。

しかし将軍は、慶保さんのことを笑顔で赦す。

「いや、お前一人の責任ではない。私もまた、今回の勧誘を甘く見過ぎていた。」

お?諦めて帰るのか。

私は一向に構わんのだが。

掃除君ともソリが合わなさそうだしね。

「そこでここからは、長期戦に意向する。」

は・・・?

むしろ、逆かよ!

「私と老中は、これより禁中本部に出向き、帝との交渉を図る。」

これに、慶保さんは驚く。

「な⁉上さま自らですか?」

「ああ。その間、近藤と土方には、ここの2年1組のクラスに臨時生徒として入ってもらい、沖田掃除の懐柔工作を頼みたい。両面作戦としよう。

慶保、校長に、二人の仮入学許可を貰ってこい!」

「御意‼」

えぇ⁉マジで言ってんの?

嫌なんだけど・・・

才蔵も激昂して、将軍に詰め寄る。

「テメエ何勝手に決めてんだよ!それに、沖田ってヤツのあの様子じゃ、懐柔なんて絶対無理だろ‼」

「上さまに対して無礼であるぞ!」

老中が才蔵を制止するが、それどころではない!

ちょっと、京都観光に来たくらいに思っていたら、とんでもない話になって来たんだけど⁉

それにしても。

この場には島津先生もいるんだけど、一切口を挟んでこない・・・影が薄すぎる・・・


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