第2章 「陪臣集結」
かなり抵抗したものの、私と才蔵は、生徒会長とその後ろに控えていた人に両脇を抱えられ、江戸幕府再興会という同好会の、部室の前まで強制連行された。
「ようこそ、江戸幕府再興会へ。歓迎するよ。」
会長は爽やかな笑顔で言うが、私と才蔵は無理やり連れてこられているんだよ!
ちょっとは悪びれたらどうだ。
しかし、私達の不平は無視され、部室の扉が開く。
中には、部員だろうか、5人の人間が待機していた。
会長が5人に話しかける。
「みんな、新入部員を紹介するよ。
まずこちらが、近藤勇美さん。クラスは1年A組で、旧新撰組局長・近藤勇の子孫だ。
続いて、隣の彼が、土方才蔵君。同じく1年A組で、新撰組副長・土方歳三の子孫だ。
どうやらこの二人は幼馴染みだったようだ。かなりエモいことだと思わない?」
いや、私達がいつ入部したっていうんだよ。
部室にいた部員達が、口を開く。
「ほう、それは素晴らしい偶然だね。」
「俺達に後輩ができるのか、実感が湧かんな。」
そして会長は、今度は私達に部員を紹介する。
「まず私はご存じの通り、生徒会長の徳川義信だ。江戸幕府徳川将軍家の子孫で、江戸幕府再興会の会長もしている。ちなみに、この同好会では、会長のことを、『将軍』と呼称するので、以後君達も私のことをそう呼ぶように。」
次に会長は、うちのクラスにも付いてきた、私達を抱えている人を指差す。
「彼は、松平容永。私のいとこで、この同好会の副会長だ。ちなみにこの同好会では、副会長のことを『老中』と呼ぶ。」
ああ、この人、生徒会の人じゃなかったんだ。
松平さんはつけ加える。
「生徒会の副会長もしている。」
生徒会の人間なんかい!!
そして残り5人の部員の説明に入る。
「右から、鳥居妖像、12代将軍期に目付などを務めた旗本である、鳥居耀蔵の子孫、
そのとなりは、遠山影基、12代将軍期に南町奉行などを務めた旗本である、遠山景元の子孫、
つづいて、矢部貞伸、同じく南町奉行などを務めた旗本である、矢部定謙の子孫、
さらにそのとなりは、小栗只正、幕末期に勘定奉行などを務めた旗本である、小栗忠順の子孫、
最後に、室九倉、江戸時代中期の儒学者、室鳩巣の子孫、
以上5人全員、2年生だ。」
・・・・・・なるほど、なんともメジャーともマイナーとも取れない微妙な位置の人物の子孫達だな。
それはともかくとして、私達は本当に、この怪しげな団体に入らなくてはならないのだろうか。
いや、マジで勘弁してほしいのだが・・・・・・
会長(将軍)の説明はまだ続く。
「最後に、この同好会を支えてくれる、顧問の先生についてだが・・・・・・」
と、そこで、部室のドアが開く。
入ってきたのは・・・・・・うちのクラスの担任だった。
「彼がこの同好会の顧問、島津直慶。薩摩藩の大名・島津家の子孫。うちの活動に理解を示し、協力してくださっている。」
マジで言ってる?
逃げられないじゃん・・・・・・
なるほどね、だからクラスで、会長が私達を連れ去るのを止めなかったのか。
島津先生は、会長に苦言を呈す。
「まったく、ホームルームしてる最中に勧誘に来るなよ・・・もうちょい分をわきまえてだな・・・」
さすがに島津先生はまだ常識があるようで、会長の行動には呆れた様子であった。
まだちょっと一安心かな。
そして今度は、私達の方へ向き直る。
「まあそんな感じで、だいぶ奇妙な奴らではあると思うが、もし良ければ入ってくれ。」
・・・・・・
結局私達は、この同好会に入るつもりはなかったが、あまりに会長の勧誘がしつこいため、週一回だけ部室に寄って、それ以外は関わらないよう契りを交わした。
全ては平穏な高校生活のためだ、我慢我慢・・・・・・
何せ、一応相手は生徒会長なのだ。いちいち付きまとわれると、それこそ高校全体で噂が経ち、学業にも支障をきたす。
「本当にいいのか?なんだったら、俺が同好会の奴ら、全員とっちめてやってきてもいいんだぜ?」
才蔵はそう言って私を心配してくれるが、下手なことをすれば逆効果になりかねない。
それに、今のところ活動というのは、自分の先祖達の話を、お互い紹介し合うだけなのだ。大した労力も使わない。
私は、江戸幕府再興会内での自分を殺し、それ以外の学校生活を充実させることを優先させた。
「新しい末裔の人の勧誘に行きます!」
ある日将軍が、こんなことを言い出した。
「は?」
私は、精一杯の礼儀を持って、こう聞き返した。
将軍は私の反応を気にすることなく、続ける。
「いやね、沖田総司の子孫が見つかったんだよ。この高校ではなかったが、京都の方で。」
おいおい、まさか京都まで遠征させるつもりじゃないだろうな?
「そのまさかだよ。
ああ、公欠は出るよ。生徒会権限で、先生に申し込んどいた。成績については、安心してもらっていい。」
いや、歴史上の人物の子孫に会うという目的のために、わざわざ京都まで行くのかっつってんだよ。
「そりゃあもちろん。それこそが、我々の活動の重要なものの一つだからね。」
まったく、面倒といったらありゃしない。
将軍は、そのまま話を進める。
「今回の遠征は、私、老中、そして新入部員の近藤さんと土方君、そして顧問の島津先生の計5人で行く。まあ、新歓合宿とでも思ってくれたまえ。
・・・・・・ちなみに2年生は全員留守番ね。」
2年生の旗本達からは不平・不満が出るが、そういうことなら代わりに行ってくれ。
私達は一向に構わんが・・・・・・
だが将軍は、それを許さない。
ちなみに・・・・・・江戸幕府再興会の部員は、3年生は大名、2年生は旗本、そして私達1年生は御家人と呼ばれている。